2012年2月現在、すき家の店舗数は1,772店舗。
昨年秋に1700店を突破し、順調に右肩上がりを続けている。
その中で意外に感じられるのが首都圏での新規オープンも少なくないことだ。すき家の理想とする「いつでも、どこでも」を目指しての展開ということなのだろう。
思い立ったとき、すぐに目に入り、すぐに食べられる。それこそがファストフードの原点であり、あるべき姿なのだ。
そんな中、海外への出店も積極的に行なっているすき家が、これまでの店舗とは一味違ったお洒落な店舗を昨年8月に新規オープンさせた。都心のど真ん中にある、「すき家 虎ノ門四丁目店」だ。
「虎四(とらよん)」の愛称で親しまれ、オープンようやく半年を迎えたばかりのこの戦略店舗で、すき家の新メニュー「春キャベツ牛丼」を試してみた。
まずは店舗のつくり自体に驚かされる。おなじみの赤い丼の看板が大きく掲げられた2階建て店舗なのだが、建物の質感からおよそファストフード店のイメージを払拭する。
大手企業や高層ホテル、大使館などが立ち並ぶこのエリアでも見劣りしないたたずまいだ。
大きさも都心店のなかでは相当に広い部類だろう。しかも広いのは床面積だけの話ではなく、あらゆるところが余裕を持ってスペース取りされている。足を踏み入れたとたん開放感を抱かせる、2階からの大きな吹き抜けがこの店の象徴だ。
メニューやポスターを見なければカフェと言われても信じてしまいそうだ。もともとすき家は、テーブル席の用意を始め、牛丼店としては異例なほどのくつろげる空間を提供してきたが、ここはその中でも随一といっていいだろう。女性ひとりでもリラックスして利用できそうだ。
これは、忙しいビジネスパーソンにわずかの間でも落ち着いた食事の時間を提供したいという外食企業としての姿勢、また一方で《牛丼》そして《すき家》を世界的ブランドにしようという強い意思も読み取れるだろう。
さっそく新メニュー「春キャベツ牛丼」が運ばれてくる。
湯気を立てる牛丼に、湯引いて薄緑も鮮やかなキャベツとニンジンが乗せられている。
まずはトッピングのキャベツをそのまま口に運ぶ。
肉厚で、歯ごたえがあるのに柔らかい。シンプルな塩だれが春キャベツという素材の味を引き立てる。ほのかに甘く、なんとも優しい味だ。野菜価格が高止まりしているこの時期に、旬の春キャベツをたっぷり食べられるという点でもお得感がある。
肉と共に口に運ぶと、甘辛いタレで煮込まれた肉と柔らかいキャベツが渾然一体となる。まさにハーモニーと呼ぶにふさわしい。
そして黒コショウが、肉と野菜のうまみをピリリと引き締める。
牛丼の薬味と言えば七味唐辛子という一種のステレオタイプがあったが、白髪ねぎ牛丼をはじめとするメニューで『牛丼に黒コショウ』を定着させたのは、間違いなくすき家の功績だ。
この春キャベツ牛丼、ただおいしいだけではない。キャベツは一年を通して食卓にあがるなじみ深い野菜だが、実は優れた効能を持っているのだ。
胃腸薬の名前の由来としても知られる「キャベジン」、これはキャベツから発見された成分で、ビタミンUとも呼ばれる。この成分には胃粘膜の働きを助け、胃酸の分泌を適正に保つという効能がある。こうした働きから、キャベジンを多く含むキャベツは胃もたれや胃潰瘍の予防によいとされるのだ。
また意外に思うかもしれないがビタミンCの含有量も多く、生でなら大きめの葉一枚で1日の必要量の7割ほどを摂取できるという。その他にも葉酸、ビタミンKなどの栄養素、硫黄・塩素といったミネラル分も豊富だ。
「春キャベツ牛丼」のアイデアは、この良質素材であるキャベツをゆでてトッピング化したことだ。ゆでることによって生より多くの量を食べることができ、しかも食感が豊かになって牛丼との相性も良くなる。旬だからこその素材を美味しく食べられ、胃腸にも優しいのだからうれしいところだ。
さて、この春のすき家に登場したもうひとつの新メニュー「お野菜たっぷり 中華豚丼」。こちらも試してみた。
ジューシーな豚バラ肉に、キャベツ、たけのこ、ヤングコーン、にんじんなど彩り豊かな野菜が並ぶ。中華風のあんは、ご飯によく絡みお肉と野菜のうまみを引き立て箸が進む。
このボリュームでワンコインしないという価格設定は、かなりのお値打ち感だ。
やっぱり牛丼を食べないとすき家に来た気がしない、という人には、プラス130円で牛あいがけもできる。話題の新メニューと定番の牛丼を両方楽しめる欲張りなメニューだ。
季節ごとに登場する限定メニューは、もちろん新たなユーザーの獲得やリピート客の確保というビジネス戦略もあるには違いない。だが、その根底にあるのは、《牛丼》という料理に対する揺るぎない信念だ。
旬の食材を使った季節限定メニュー、あるいは予想外の組み合わせから生まれる斬新な新メニュー。すき家の特徴とも言えるこれらトッピング牛丼は、「すき焼きから派生した牛丼」というスタイルに固執するなら、邪道に映るかもしれない。
しかし、そこには牛丼を飽きずに食べて欲しい、牛丼をもっと発展させたいというすき家の姿勢が浮かび上がってこないだろうか。牛丼のおいしさは、トッピングによって変わるのではなく、高まるものだ。それこそがすき家の考える王道なのではないだろうか。
タイやブラジルに進出したすき家では、現地の料理を取り入れたオリジナル牛丼を提供しているという。カリフォルニア・ロールを始め、海外で独自に発展した寿司が逆輸入され、日本に定着したように、海外で開発された見たことのない牛丼を日本で味わう日が来るかもしれない。
「牛丼は世界に通じる」。その確固たる信念で足元を固めているからこそ、大きなジャンプ、大胆なチャレンジが可能となる。だからこそ、すき家はいつでも我々を驚かせるのだ。