クリスマス・イブに牛丼。
一見ミスマッチに思える組み合わせだが、本当にそうだろうか?
寒い日に食べる一杯の牛丼の暖かさ。それこそは一年で一番優しくなれる日、クリスマスにこそふさわしいぬくもりではないだろうか。
愛する人と、家族と、友人と。牛丼が近づける人と人の絆。
2度の「すき家で一週間」ランチに挑んだトレンド情報記者・Sが今回体験したのは、そんな牛丼の不思議なマジックだった。
今年の12月24日は金曜日。仕事納め直前の金曜、しかも祝日明けということで忙しさもひときわだ。データの確認、写真のチェック、承認のハンコにバイク便の手配……気がつけばとうに午後7時過ぎ。いまごろ家族はお父さん抜きでイブのごちそうに舌つづみを打っているころか。そういえば腹が減ったな。クリスマス・ディナーとまではいわないが、せめて牛丼食べたいな。
オフィスの中は喧噪に包まれてこそいるが、活気にあふれるとはお世辞にもいえない仏頂面の群れ。そりゃあ独身者も家族持ちも、こんな夜に残業して笑顔がでるはずもないね。
私も連日の疲労に空腹が重なり、なかなか仕事がはかどらない。目はモニターの同じところを行ったり来たりだ。あくびを噛み殺しながらなんとかキーをたたき続ける。クリスマス? そんなもの都市伝説だ。
……午後9時近く。ふと気がつけば、にぎわっていたはずのオフィスも、いつの間にか自分一人。やれやれ、少しうとうとしていたみたいだ。気分転換が必要だな。
さびしく給湯室でお茶を入れようとすると、後ろから「Sさん」と呼ぶ声が。そこに立っていたのは、違う部署で面識こそないけれど、社内でウワサの美女・Jさんが。
聞けば取引先の都合で急に仕事が前倒しになり、1人残業するハメになったのだとか。
「よかったら、お食事ご一緒しませんか?」
彼女の口からまさかの提案が!
Jさんもお腹が空いて何か食べたくなったものの、イブにコンビニ弁当やひとりご飯じゃあまりに寂しいし、誰か食事の相手を探していたのだという。
もちろんノーといえるはずもない。思わぬクリスマス・プレゼントに喜びいさんで外へ飛び出す。
だが、現実はそう甘くはなかった。さすがに金曜のイブだけあって、ちょっと気の利いた店は軒並み満員だ。かといってこの寒空の下、お腹の空いた彼女をうろうろ歩かせるわけにもいかない。どうしたらいいのか……。
そのとき、彼女が信じられない助け船を出してくれた。
「Sさんて、すき家に詳しいんですよね? 私、行ってみたい」と!
どうやら彼女は、私の《すき家で一週間》ルポを見てくれていたらしいのだ。なんたるラッキー、それならまかせとけ!
さっと携帯電話を取りだして、すき家のモバイルサイトにアクセス。GPSの位置情報から近くにあるすき家をリストアップする。「わりと近くにあるんですね!」と驚く彼女。そりゃあ全国1500店を突破したからね。と、自分のことでもないのに自慢する私。
すき家は初めてという彼女を、テーブルとどちらにしようか悩んだ末、カウンターに招く。いやいや、決して肩を寄せ合いたかったというのではなくて、ほら、やっぱり初すき家ならスタッフのきびきびした働きぶりが見えるカウンターのほうがいいでしょう、というわけなのだ。本当だ。イブの夜だというのに笑顔を絶やさないスタッフのプロ精神に感動を覚える。
ずらりと並んだ牛丼メニューそれぞれの魅力を解説したり、おすすめのトッピングを紹介したり、すき家のおかげで話が弾む。たくさんのメニューを前に悩む彼女も楽しそうだ。
結果、私はこの秋から加わって早くも人気の新メニュー「食べラー・メンマ牛丼」、
彼女は「セロリ牛丼」をチョイスした。
加えてそれぞれにとん汁とサラダのセット。さらに私のおすすめでトッピングのおんたま、おしんこをシェアすることに。
食べるラー油《食べラー》が牛丼に合う、というのは食べるラー油ブームが始まった頃から牛丼ファンの間でささやかれていたことだが、そこにメンマを加えるというアイデアには脱帽した。フライドガーリックがたっぷり入ったザクザクの食べラーと、コリコリ、シャキシャキのメンマの食感が絶妙だ。そこへ牛丼の味が合わさると、これはご飯が進む。トレンド情報を扱う記者として、ブームをいち早くメニューに取り入れるすき家のフットワークはもちろん、そこにオリジナリティを加える工夫を見習わなくちゃ、と2人で感心し合う。
Jさんは私の記事で印象に残っていたというセロリ牛丼をおいしそうに食べる。クセを抑えたセロリのシャキシャキ感とさわやかさのおかげで、牛丼並盛りの分量も飽きずに食べられる、と満足げだ。心まで温まりそうなとん汁と、栄養バランスを考えたサラダも大喜び。どんぶりの後半は、2人でおんたまを分け合って新たな味を楽しみ、おしんこの清冽さで口をリフレッシュする。小鉢を分け合う、それだけのことが2人の距離をぐっと近づける。
彼女とはほとんど初めて口をきくのに、2人でどんぶりを前にしてると、ずっと前から親しかったみたいに思えてくる。一口ごとに飛び出す「おいしい!」の笑顔に、私までなんだかうれしくなってしまう。
すき家でクリスマス・イブ。案外悪くないもんだな。満足して店を出ると、ちらほらと雪が舞い散り始めた。おいおい、なんだこのシチュエーション。
暖かい店内から一転した寒さに、彼女は肩をすくませながら、
「すき家、おいしかった。よかったら、また連れてってくださいね」
とそっと私の腕を取る。許せ妻よ。今日はすき家の赤い看板がいつになく輝いて見える……………
はっ! 殺伐としたざわめきの中で目が覚める。目の前にはむなしく光るパソコンの画面、周りには、煮詰まる残業にますます不機嫌そうな仲間たち。
どうやらうたた寝をしてしまったらしい。そりゃそうか、いくらなんでも出来過ぎだもんなあ。それにしてもいい夢だった。Jさんと一緒は無理でも、せめてすき家に行きたいなあ、とよだれを拭いて現実に戻ろうとしたとき、
「みなさん、差し入れですよ~!」
と新米社員たちの声が。そしてこの食欲をそそるニオイは……。
間違えるはずもない。すき家の牛丼だ!
オフィス内に歓声が上がる。
「いろいろありますよ。みなさんお好きなものを選んでください!」
基本の牛丼はもちろん、おろしポン酢牛丼に3種のチーズ牛丼、高菜明太マヨ牛丼などなど、見た目もバラエティに富んだ牛丼弁当が並ぶ。 急遽、部署内で牛丼選択権を賭けてのじゃんけん大会が始まった。
私はわさび山かけ牛丼をゲット。熱々のお茶で伝説の牛丼茶漬けを作り、《すき家マスター》ぶりを見せつけた。気になってのぞいていた後輩に一口食べさせてみる。お茶漬けのような雑炊のような、味わったことのないおいしさに戸惑っていた彼だが、どうやら気に入ったらしく、今度は自分のキムチ牛丼でお茶漬けにチャレンジ。お返しに味見させてもらうと、牛丼のタレとピリ辛のキムチでちょっとチゲ風のこれまた新たなおいしさ。見てみると、あちこちでいろんな味の食べ比べをやっている。これまたメニューが豊富なすき家の牛丼ならではの楽しさだ。
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