カラオケ店舗で気軽にVRが楽しめる「KDDI カラオケVR」の提供を開始

KDDIは2017年8月22日、カラオケ店舗で気軽に楽しめるVRサービス「KDDI カラオケVR」の提供を開始した。コンテンツ開発は音楽や映像ソフト、またデジタルコンテンツの企画、制作、販売を手掛けるポニーキャニオンと行い、全国にカラオケ店を展開するスタンダード社のJOYSOUND店舗でサービスを提供するものだ。まずは品川港南口店を皮切りに、今後対象店舗を随時拡大していくという。

「KDDI カラオケVR」は、専用のVR機器を所有していなくても、既存のカラオケ店舗でVRが楽しめる新しいエンターテインメントサービスだ。VR機器は店舗が貸し出し、それを装着すれば人気アーティストのライブやドラマ仕立てのシチュエーションで、アイドルと時間をともにするようなリアリティのある体験が可能だ。

KDDI ビジネスIoT推進本部 ビジネスIoT企画部 ビジネス開拓1グループ 課長補佐の並木慎氏は、「KDDI カラオケVR」開発の狙いを次のように語る。

福場氏、島村氏、マジカル・パンチラインの沖口さん、佐藤さん、KDDIの並木氏

「KDDI カラオケVR」サービスを開始したJOYSOUND品川港南口店にて。左からポニーキャニオンの福場氏、島村氏、マジカル・パンチラインの沖口さん、佐藤さん、KDDIの並木氏

並木 慎氏

KDDI ビジネスIoT推進本部
ビジネスIoT企画部
ビジネス開拓1グループ
課長補佐
並木 慎氏

「KDDIは通信会社として、人と人とのコミュニケーションをテーマに、電話、メール、スマートフォンなどに関する事業を行ってきました。こうした中、今後の新しいコミュニケーションの在り方として、情報の共有のみならず、VR技術を使った“体験の共有”ができるのではないかと考え、研究を重ねてきました。しかしVRは、新しいテクノロジーとして一定の認知度はあるものの、まだ気軽に体験できる場所はほとんどありません。そこで、誰でも立ち寄れるカラオケ店で、VRをすぐに体感できるサービスを発想しました」

KDDIがこうした新しいテクノロジーを活用した新規ビジネスを創出できるのは、「通信インフラ」「デバイスをもつくり出す技術力」「システム、プラットフォーム」をグループに内包し、ワンストップで対応できる総合力があってこそだ。

「特にグループの一員であるKDDI総合研究所は、早くからVRの技術革新に取り組んできました。今回のコンテンツでも、同研究所が開発した世界初の『自由視点VR』という技術が採用されています」(並木氏)と、高い技術に裏打ちされたサービスであることをうたう。

一般的なVRは、ある特定の地点から360度に広がる疑似空間を見渡すものだが、「自由視点VR」はVR空間を自由に移動し、好きな場所、視点からそこに広がる世界を体感することができる。

ポニーキャニオンと連携し独自のVRコンテンツを制作

かねてからVR商業化のカギは、コンテンツそのものが握っていると考えていたKDDIでは、高い感性でインパクトのある映像を生み出すポニーキャニオンに協力を要請、「KDDI カラオケVR」サービス開始に向けて、「自由視点VR」の魅力を存分に発揮する独自コンテンツを用意することになった。そこで白羽の矢が立ったのは、ポニーキャニオンが所属レーベルの人気アイドルグループ「マジカル・パンチライン」だ。彼女たちがVR空間で新曲の「パレードは続く」を歌う様子などが収録され、最初のコンテンツとして提供されることとなった。もちろん「自由視点VR」の技術を最大限生かした内容となっている。

ポニーキャニオン ミュージッククリエイティヴDiv.制作3部 1グループの島村譲氏は、「KDDI カラオケVR」とのコラボレーションの理由を以下のように語る。

「音楽市場においても、CDやDVDなどの『モノ(=物)』消費からライブやイベントなどの『コト(=体験)』消費へとユーザーのニーズが移り変わる中で、VRコンテンツは新しい音楽体験を提供できると感じました」

今回のマジカル・パンチラインによるVRコンテンツには、「バーチャル握手会」もあるという。まさに、臨場感のある体験をファンに届けることができる。

一方で、ポニーキャニオン 事業戦略Div. 収支管理部長の福場一義氏は、「VRが注目されるようになって久しいものの、VRで制作すれば必ずファンに喜んでもらえるかといえばそうではなく、コンテンツのマネタイズ(収益化)は容易ではありません。VRならではの体験型の工夫が不可欠だと考えています。その点で、当社のコンテンツ制作のノウハウや経験が生かせると自負しています」と語る。

なお、JOYSOUNDで貸し出される機器を持ち帰ることはできないが、「マジカル・パンチライン」のコンテンツ「パレードは続く」は、段ボール製のゴーグルが付属したVRキット「ハコスコ・アプリ」でも楽しめるようになっている。JOYSOUND店頭でこれを購入すれば、自宅に帰った後でもVRコンテンツを楽しめる。「これらを含め、VRコンテンツならではのビジネスモデルをさらに検証していきたい」と福場氏は話す。

福場 一義氏

ポニーキャニオン 事業戦略Div.
収支管理部 部長
福場 一義氏

島村 譲氏

ポニーキャニオン ミュージッククリエイティヴDiv.
制作3部 1グループ
島村 譲氏

KDDIの総合力と技術力で新規ビジネス創出のハブに

並木氏は、「『KDDI カラオケVR』が、auユーザーのお客さまの価値提供にもつながると感じています」と自信を見せる。

KDDIは、約3800万人の顧客基盤をベースに、「au経済圏の最大化」に向けた多彩なサービスを提供している。「KDDI カラオケVR」においても、「auスマートパス プレミアム」または「うたパス」会員であれば、カラオケ利用料金が割引になるなど、KDDIが囲い込む膨大なユーザーのメリットを提供しながら、「KDDI カラオケVR」への施策誘導に用いることで、事業を成功へ加速させる考えだ。

KDDIはさらに先も見据えている。この8月には、高速バス「WILLER EXPRESS」を運営するWILLER社と連携し、バスの移動中にVRコンテンツを楽しめるサービス「ライブバスVR」の提供を開始。また9月には、日本航空、阪急交通社、VRize社と連携し、JALチャーター便を利用したツアーで、VRサービスの実証実験を行った。

「エンターテインメント系のコンテンツのほかに、新入社員の教育、工場や建設現場での安全教育、防災などでVRを活用したいという企業のご相談も増えており、実際にソリューションとして納入実績も生まれています」と並木氏は紹介する。

さまざまな業種・業態のニーズをくみ取るとともに、総合力と技術力で、それに応える組織・ノウハウ・人材がKDDIにはそろっている。

並木氏はVRの今後についても、「5G(第5世代移動通信システム)など、次世代ネットワークの展開に合わせた、新しい体験の提供にも取り組んでいきます。そのために、さまざまな企業とのパートナーシップも積極的に行っていきたいと考えています」と語る。

KDDIでは、今回のポニーキャニオンやスタンダードなど、多様な業種の企業とのアライアンスに加え、資本提携なども含めて新しいテクノロジーへの積極的なアプローチを行う考えだ。昨年にはKDDIが出資するベンチャーファンドを通じてハコスコ社に出資しているほか、今年8月には同じくベンチャーファンドを通じて米国の4D REPLAY社に出資している。KDDIが、移動通信事業者としての一面のみならず、新規ビジネス創出のハブとして、プロジェクトをまとめ上げる総合力を有していることが分かる。今後も同社の活動が社会にインパクトを与え、好循環をドライブしていくことが期待される。ICTを活用し、競争力を高めたい企業にとって、頼もしい相談相手になるだろう。

カラオケで気軽にVR体験 KDDIカラオケVR マジカル・パンチライン 公式サイト

VRを通じてファンの皆さんと新しい体験を共有したい

マジカル・パンチラインは、2016年にメジャーデビューした5人組アイドルグループだ。ファーストシングル「パレードは続く」にVRコンテンツバージョンが用意されていることに加え、メンバーと過ごす学校生活をVRで疑似体験できるコンテンツもあり、「VRアイドル」としての強みを持つこととなった。メンバーの一人、沖口優奈さんは、「VRはまさに360度から見られるので、恥ずかしさもありましたが、自然な姿を出すこともできました」と独特の撮影体験を振り返る。リーダーの佐藤麗奈さんは、「通常のミュージックビデオと異なり、自分たちがVRの中にいることを実感しました。ファンの皆さんと新しい体験を共有できたらと思います」と、VRコンテンツの可能性を語った。

マジカル・パンチラインの沖口さん マジカル・パンチラインの佐藤さん

VRを通じたファンとのコミュニケーションが、新たな可能性を開くと語るマジカル・パンチラインの沖口さん(左)と佐藤さん(右)

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