時代は確実に転回してる。
その底流を見抜き、他に先んじた革新的な価値を生み出すにはどのようにすれば良いのか。
ずばり、その答えは「未来予測」にある。
産業10分野の未来像と新たなビジネスモデルを予測した『メガトレンド 2014-2023』(日経BP未来研究所発行)の著者で、TED× Tokyoのプレゼンテーションで40万回再生という異例の反響を得たレクチャーの達人としても知られる、(株)盛之助 代表取締役社長 川口盛之助さんに聞いた。
今日、お話するのは「未来」についてです。
企業が中長期戦略を立案するうえで、未来を予測することこそがもっとも重要なことであると思うからです。未来の事業、未来の商品、未来の会社像は、未来図の上に置いてみなければ評価できません。評価できないということは、優劣も成否も不明であるということです。
こうした「よくわからない」新事業や新商品をふんだんに盛り込んで経営計画を立案すれば、その計画自体がまったく根拠を欠いたものになってしまうでしょう。そもそも未来像を持たずして、未来の事業、未来の商品といったアイデアを想起できません。
「もちろん分かっている。だから必死で未来を知ろうとしているのだ」。そう言われる方の多くが、「でも難しい。先が読めない」とこぼされます。実際、書店に行けば、あまたの未来予測本が山積みになっています。そんな光景を横目で見ながら、「そんなもの読んでもムダ」とつぶやく人がいます。未来を予測することなどできっこないというわけです。確かに、そう。正確に未来を見通すことはできません。
だからといって、未来がまったく見通せないわけでもありません。高い角度で予測できることも多くあるからです。それが示すことをある人は警鐘といいますが、同時にわくわくするような大きなビジネスチャンスでもあります。
ビジネスとは、世の中が欲する価値を追い求める行為です。そうであれば、経営計画を考えるということは、すなわち未来に求められる「価値」の行方を予見するという行為にほかなりません。
表面に現れない「新しい価値」を見通すためには、大きな価値の流れを俯瞰し、相互の因果の関係をメタなメカニズムとして理解するプロセスが必要になります。個別の分野に閉じこもった発想を抜け出し、社会科学、人文科学、自然科学というレベルにまで視座を高めて物事を捉える思考回路が求められるわけです。
その上で、今起きつつある大小の「トレンド」がもたらすことの意味を吟味すれば、未然を必然ととらえることができるようになり、高い角度で「これからの顕在化する価値」を予見できるようになるのではと思います。
一見遠回りで、学究的に思われるが故に、目の前の激務に忙殺され、つい敬遠してしまうかもしれません。しかし、その場しのぎで打ち手を積み上げても、他に先んじた革新的な価値は生まれません。時代の底流を見抜く深い洞察こそ、新規事業の成功につながる一番の近道なのです。
『メガトレンド2014-2023』では社会科学・人文科学・自然科学の視点で構造を解析し、50テーマのメガトレンドに収れんさせ、人・社会・技術の未来を想定しています。そのメガトレンド間の「メタ構造」を洗い出し産業の「価値」を分析。
産業10分野(自動車・輸送機器、電子・電気・機械、IT・メディア・コンテンツ、医療・美容・健康、医療・インテリア・雑貨、素形材・化学、農業・食料、インフラ・建築・エネルギー、流通・サービス、金融・保険・不動産)の未来像と新たなビジネスモデルを予測しています。
こちらの図は、3つの科学視点で見た社会の様々な課題とビジネスの関係性をあらわしたものです。左に移るほど帰属する集団のスケールが大きくなり、最終的には世界規模の課題に行き着く構造になっています。右側は、大ざっぱに言って個人の個人の心理や人生哲学といった人文科学的な専門家の領域となります。そして左側に寄るほど人と人との関係性の調整問題が重要になり、組織論へと悩みは変化します。そこでは経済学や国際政治学などの社会科学者が専門家と呼ばれ、政治家や経済人が実務実行の任に当たります。
自然科学はこれらとは別に下方に配置しました。自然科学は対象が物質や情報そのものに還元されるので、人の営みとは直接的には関係なく、科学者たちは自然の秘密を解き明かす世界を楽しんでいます。その結果として個人の生活を楽にしたり、楽しくしたり、あるいは人を効果的に殺傷する装置を創ったりすることで、人の感性から組織力学まで全体的に強い影響を与えています。これらのフレームワークに具体的なトレンドを当てはめ、構造化していくわけです。
これは各国の成熟度比較を可視化した図になります。社会環境を数値化する項目は、左から順に安全衛生→経済成長→法治度→民主化度→人権尊重度→社会貢献度で、右になるほど社会の成熟度の度合いが高まるように配置されています。つまり、右の項目でレベルが高ければそれだけ、社会は成熟していると解釈できます。
例えば、シンガポール。個人所得の平均金額や寿命だけ見ると同じレベルに追い付いたように見えますが、日本や米国、北欧諸国などと比べて、民主化度や報道の自由、女性の社会進出など様々な角度から眺めると本当の成熟度の違いが見えてきます。我が国の成熟度とキャッチアップしてくる新興国のそれを知ることで将来のニーズも見えてきます。
社会だけでなく「技術」にもライフサイクルがあります。土木建築や石油化学のように、もはや大きな変化はめったに起きない領域から、情報サービスや生命科学分野のように日進月歩で変化する分野もあります。例えば、機械分野では全盛時代からデジタル制御化の波は訪れており、工作機器はNC(数値制御)化しました。
内燃機関で駆動する自動車でも、もはや原価の半分以上が電装関係の部品で占められるようになっています。そして、アナログな機械類を制覇したデジタル化の波が、ビルや都市から農地にまで広がりつつあります。その様子を表したのがこの図になります。
電子機器類はそれ自身で生み出す商品としてはスマートフォンにまで行き着いて踊り場に入りつつありますが、その傍らで都市などの大空間を電装・知能化する方向へと移行しつつあります。図では逆方向にも流れが向っています。それが萌芽期を迎えている人間宇宙への肉薄のためのツールとして用いられる方向性です。
計算機が遺伝子を解読し、脳波や脳内の生体信号を換電(デジタル信号に翻訳)する技術が生まれています。これらの電子技術や情報処理技術が萌芽期を迎える生命科学系の進歩を支えています。このように電子情報系の技術にはユニークな性質があり、どのほかの技術に対しても関与し、それらを支える重要な機能を果たします。
私の著書『メガトレンド2014-2023』では、2023年までの主要メガトレンド50テーマを徹底予測しているわけですが、本質的な潮流の変化を逃さないために3つの点に留意して分析しています。ここで皆さんにご紹介しましょう。
将来予測に関するレポートは、ともすれば現状のビジネストレンド分析にとどまったり、既存の技術ロードマップをベースにした議論になったりしがちです。そこに終始していては従来からある動向分析レポートの域を脱することができません。一見ビジネス機会に直結しそうにないトピックスであっても、それが不可避の重大な社会的変化であれば、予測の重要な要素とみるべきです。
変化に対応する「打ち手」というテーマに関しても、特に日本では、これまで「対応策としてどのような先端技術を開発すればよいか」という議論に終始する傾向がありました。その必要性を否定するものではありませんが、現在のビジネストレンドをみるだけでも、それだけでは不十分であることは明白です。技術論に限らない打ち手を広く考える必要があります。
たとえば「仮想化」という言葉で共通点を考えてみましょう。「仮想化」は、ネット上でストレージやCPUのリソースを共有するクラウドシステムの文脈で用いられることが多いですが、様々なリアルシーンでも仮想化は進んでいます。自宅の冷蔵庫は近所のコンビニで仮想化され、自家用車もカーシェアリングでオンデマンド機能として仮想化されています。人の場合にもフリーランスを利用することで自社社員でなくても能力を調達できるようになりました。
ヒト・モノ・カネ&情報の移動性が高まる社会、それは情報網で言えば帯域の太いネットワークができてしまうということです。「優秀で高価な人材、高性能なCPUを系の中で共有し稼働率を高めた方が競争力が増す」という原理に基づいて進行する現象です。
このように「仮想化」という概念は、ITでも人事でも生産財でも耐久消費財であっても適用できる普遍的な概念で、その要件は太い配管網ということになります。自然科学、社会科学と人文科学という3つの科学の視点でビジネスアプリシーンを考えることが重要になるわけです。
社会の近代化と成熟という意味ではまず西欧が先行し米国、日本と続き、そしてNIEs(韓国、台湾など)、BRICs(中国、ブラジルなど)からVISTAやNEXT11という新興国に成長の主役は移り変わっています。その富裕化過程において、個人の生活パターンや価値観は「マズローの欲求段階説」に沿うように移り変わります。つまり、なりふり構わぬ貧乏時代から、成功を収めて成金趣味を堪能すると、教養や雅さを求めるようになり、死期が近づく黄昏期には社会貢献なども志向する境地に至るというものです。
先ほど「各国の成熟度」を可視化した図でもご説明したように、個人所得の平均金額や準尿だけ見ると同じレベルに追い付いたように見えるシンガポールも、日本や米国などと比べて、民主化度や報道の自由など、様々な角度から眺めると本当の成熟度の違いが見えてきます。日本の成熟度と、キャッチアップしてくる新興国のそれを知ることで将来のニーズも見えてきます。
社会だけでなく、「技術」にもライフサイクルがあります。19世紀の終盤はエジソンやフォードの電気~機械領域での革新に沸いた時期でした。それから50年が経ち、20世紀なかばの1947年にウイリアム・ショックレーらによってトランジスタが生み出され、電子製品の黄金時代へと主役の座は移りました。ラジオからテレビ、ビデオ、パソコンへとアプリが生み出され、ちょうどその時間帯に国力を伸ばした日本が多くの富を蓄えることに成功しました。
その後、半世紀が経ち、主役の座はエレクトロニクス機器をデフォルトで装備した社会におけるITサービスへと譲られることになりました。そして次の主役は、脳インターフェース系とゲノム~iPS系の生命科学分野へと移り変わっていくことでしょう。未来を予測するうえで、このようなライフサイクル視点を考慮することが大切です。
いかがでしたでしょうか。グローバル、サスティナブル、イノベーション、ソーシャル、所有から利用へ、フリーミアム、ライフサイエンス、進む都市化と少子高齢化など、企業の将来像を考える際に盛り込むべき世の潮流は広大かつ多岐にわたります。
しかし、抑えるべきポイントはシンプルです。まさに「市場視点での魅力」と「自社視点での適性」の接点を探す、というビジネスの根本でしょう。『メガトレンド2014-2023』は、これまでにない視点、手法で未来像を描くことをミッションとして、議論と調査分析を重ねた成果をまとめたものです。
これからの企業戦略の立案には、未来洞察という作業が不可欠です。中期経営計画の策定、新規事業の開拓などにお役立て頂ければと思います。