蟹瀬 お話をお伺いするのは約1年ぶりですね。(前回記事はこちら)
そのときにソニー不動産は、多くの不動産仲介業者とは違い、売却のエージェントと購入のエージェントは完全に分け、物件情報を囲い込むことはしない。とにかく透明性と公平性を追究し、顧客満足度No.1のエージェント集団を目指すとおっしゃっていたと思います。約1年経ち、市場からの反響はいかがですか?
風戸 おかげさまで、ご好評をいただいています。お問い合わせの数も、当社設立当時は平均して月に100件ほどでしたが、現在は安定して500件ほどと約5倍に増えています。
その中には、当社が、日本の不動産業界では慣例となっていた売主と買主両方からの仲介手数料の徴収、いわゆる“両手取引”を原則しないことをご存じのうえでお問い合わせくださる方もいらっしゃいます。
蟹瀬 存在が知られてきているわけですね。さて、現在の不動産市場をどうご覧になっていますか。
風戸 消費税増税後も、首都圏のマンションの新規発売戸数は年間4万戸程度のペースで、安定的に供給されています。また、最近は中古市場が成長し、新築市場に近づく傾向が見られるのはトピックと言えます。
蟹瀬 中古市場が盛り上がる理由は何でしょうか。
風戸 この10年ほどのストックに良質な物件が多いこと、それから、リフォームやリノベーションの市場が大きくなっていることが追い風になっています。昨年の例で言えば、大手検索サイトでは「新築マンション」よりも「リノベーション」の方がより多く検索されたほどです。新築の価格が上がっているという事情もあります。2020年の東京五輪を控え、投資目的の方々の注目を集めている東京都区部の不動産の価格は上がっていて、個人の方ではなかなか新築に手が出なくなってきているのです。
角田 これまでは、不動産の購入は一生に一度で、そこを終の棲家にされる方も多かったのですが、人生のステージの変化に合わせて住み替えを希望される方も増えていますので、私たちもそういった方々に向けて、常に新しい選択肢を提供していきたいと考えています。
蟹瀬 新しいと言えば、7月にヤフー株式会社と業務提携と資本提携に合意し、国内の中古住宅流通市場と、リフォーム・リノベーション市場の活性化を目指すと発表されましたね。たとえば、私が今持っているマンションを売りたいとなったら、どういうことが可能になるのでしょうか。
角田 自分の所有するマンションを売りたいと思った場合、不動産仲介会社に相談するのが一般的ですよね。やはり、個人が自ら買主を見つけることは難しいからです。今回、ソニー不動産とヤフーは、個人が自分の所有するマンションの売出しを、仲介会社を介さずに直接行うことができる、新しい「不動産売買プラットフォーム」を共同で構築し、「ヤフー不動産」のサイト上で公開します。このサービスを利用すれば、蟹瀬さんご自身が自分のマンションの売却価格を決め、売却価格を含めた様々な物件情報をこの「不動産売買プラットフォーム」で公開することができるので、売主自ら、より多くの方に物件情報を伝えることが可能になります。
蟹瀬 今や中古自動車などはネットを通じて売買されるのが珍しくなくなっていますから、住宅もそうなりつつあるということですね。No.1を目指している顧客満足度についてはいかがですか。
風戸 最新の数字で91.5%(※)の方にご満足いただいています。お客様からいただいた声についても、透明性を担保するため、否定的なものも含めて公開しています。こういった情報も、お客様の判断材料に活用いただければと思うからです。
角田 お客様からの評価の公開を含め、様々な情報を提供し、透明性を追求していくことは、情報技術を使いさらに力を入れていきたい領域の一つです。
蟹瀬 ネガティブな評価も公表することは、短期的な損につながるかもしれませんが、しかし、長期的な信頼を得るには欠かせないことですね。
風戸 肝に銘じます。
蟹瀬 前回、購入時よりも1500万円高く売却できた例を伺って驚いたのをよく覚えているのですが、最近の事例をいくつか教えていただけますか。
風戸 たとえば、お客様が4900万円で購入された、目黒区の築1年のタワーマンションの20階にある住戸を、販売開始から2ヶ月後に、6500万円で売却できました。
蟹瀬 その差、1600万円は前回を上回る大きな金額です。どのような戦略を立てたのですか。
風戸 もともと人気物件ではあるのですが、目黒区は港区や中央区に比べると、外国人投資家の間での知名度が高くありません。そのため、投資ではなく、ある程度「住む」ことを前提とした、相続税対策をされたい方が購入されるのではないかと考えました。
蟹瀬 なるほど、相続税対策ですか。確かに2015年1月に相続税は上がりましたから、気になる方は多いでしょう。そういった相談の割合は多いのですか。
風戸 はい。資産の組み替えをしたいというご相談をいただくこともあり、多いときではご相談の2割近くが相続税対策と何らかの形で関係していることもあります。
蟹瀬 ニーズがあるということですね。話を先ほどの目黒の物件に戻しますと、投資ではなく住むことが前提の場合、その後の売却戦略はどうなるのですか。
風戸 この物件の魅力のひとつである眺望の写真を広告の図面に大きくあしらって、広く販売活動を行いました。その結果、私たちの予想通り、相続税対策をされたいとお考えだった方にご購入いただけました。ただその方は、同じマンションの9フロア上にある、同タイプの住戸が6500万円と同額で売却されていたことをご存じでした。
蟹瀬 一般的に、マンションはより高いフロアの住戸の方が高く値付けされますね。
風戸 ええ。しかし、私たちは売主様側のエージェントでしたので、売主様の希望売却価格を安易に下げることはしません。粘り強く交渉した結果、買主様にも、最終的にはご納得いただけました。もう一件、事例をご紹介します。こちらは中野区の、築12年の物件です。売主様は3200万円以上での売却を希望されていましたが、なかなか買主様が見つからず、当社にご相談いただくことになりました。
蟹瀬 なぜ、それまでに売却できなかったのでしょう。
風戸 原因のひとつは、室内に生活感が残り、庭は手入れが不十分で、その物件の魅力を最大限に伝えられる状態になっていなかったということでした。
そこで、まずはリフォームを提案しました。コストはかかりますが、そうすることで物件の良さを引き出そうと考えたのです。リフォームには約40万円がかかりましたが、結果として、3670万円で売却することができました。
蟹瀬 売却希望価格を大きく上回りましたね。ただ、そこまで丁寧に戦略を練るとなると、エージェントはかなり忙しいのではないですか。
角田 そこで、情報技術の出番です。私たちは透明性と公平性を大切にしていますが、それらと同じくらい合理性も重視しています。先ほど「不動産業界は旧態依然としている」というご指摘がありましたが、ファックスや紙のコピーが今でも多く使われているという点でも、古い業界です。そこに情報技術を取り入れて業務オペレーションを効率化することで、エージェントが直接お客様とお話をし、お客様が本来求めている「売却戦略の立案」により多くの時間を確保できるよう、改善を重ねています。
蟹瀬 なるほど、理にかなっていますね。今後はどうやって、さらに顧客満足度を高めますか。サービスを提供するなら、“伝説”と呼ばれるところを目指す必要があると思います。
たとえば、アメリカのノードストロームという百貨店をご存知ですか?ノーと言わないことで有名な百貨店です。レシートがなくても当然のように返品に応じますし、その店で売ったわけではない商品の返品にも応じたことがあるのは有名な話です。ぜひソニー不動産も、ソニー不動産らしい伝説的なサービスを確立して頂きたいですね。
角田 米国の不動産業界では、不動産テクノロジー企業“Real Estate Tech”が注目を浴びています。ソニー不動産は、日本における「不動産テクノロジー企業」として、消費者と不動産会社との間の情報格差をなくし、消費者が不動産取引において最良の意思決定ができるサービスの確立を目指していきます。たとえば、物件の売却だけでなく、住み替えや、リフォーム・リノベーションを組み合わせたワンストップサービスの提供など、消費者の皆さまにお選びいただける新たな選択肢をどんどん増やしていきます。こうした取組みを通じて、中古住宅流通市場やリフォーム・リノベーション市場の活性化に貢献できればと考えています。
風戸 ありがたいことにお客様からは高い評価をいただいていますが、まだまだ至らぬところもありますので、よりいっそう、透明性、公平性、合理性を追求し、より良いサービスを提供して参ります。それが、新しい感動をお客様に届けること、そして高い顧客満足度につながると思っています。その理想の実現に向けて努力します。
企業の進化は顧客のニーズをいかに掘り起こすかと企業側の絶え間ないイノベーションにかかっているが、一年ぶりに伺ったソニー不動産の進化ぶりが印象的でした。次の一年がさらに楽しみです。