アントレプレナーに今、求められるマインドセット

米倉

 今、1番に求められているのはマインドセットを変えることだと思います。戦後、日本には優秀な労働力があり、大量生産、大量消費の高度経済成長を実現させてきました。しかし、今必要とされているのは、独創的かつ進化した製品、サービスを生み出して競争力を高めること。
 ここで少し、事業の発展に必要な要素となる「イノベーション」について話をしましょう。イノベーションには「プロセス・イノベーション」と「プロダクト・イノベーション」があって、日本の強みは明らかに前者でした。つまり、工程管理や原価低減、流通網の効率化など、作業過程を変革することで競争力を高めてきたのです。これに対して「プロダクト・イノベーション」は、先ほども話した、独創的かつ進化した製品、サービスを生み出して競争力を高めるものです。この「プロダクト・イノベーション」の弱さを解消するためには、情報処理能力の高さよりも、自分で問題を見つけ、解決する力を身に付ける必要があります。今の時代、変化の流れが速く、その幅は広がっているので、「プロダクト・イノベーション」がこれまでにも増して重要なのです。こうしたイノベーションの変化に対応するためには、情報創造力、すなわち自らが発信する力をつけることです。

大橋

 クレディ・スイスのプライベート・バンキング事業でも、事業オーナーの子弟教育は非常に大きなテーマとなっています。ますます事業がグローバル化するなかで、後継者を「グローバルで戦える人材に育てたい」という強い想いのある事業オーナー、ご両親が多くいらっしゃいます。
 そこで、次世代向けのトレーニングコースを実施しています。学生や社会人になったご子息、ご子女にヨーロッパや香港、シンガポールに1週間滞在していただき、マーケットや経済、ファミリーガバナンスや事業承継について講習したり、チームビルディングのアクティビティを行なったりします。
 事業を継ごうという想いや、事業を起こそうという想いを持って参加された若い方々のグローバルなつながりもでき、ビジネスアイディアを共有することもあるようです。事業を継承していくときに、若いうちに得た知識や経験が必ず生きてくると信じています。

米倉

 それは素晴らしいですね。教育には時間がかかりますが、将来必ず生きてくると思います。

イノベーションの本質

米倉

 今あるものを、どうやってより良く作っていくかというところに焦点を置くのではなく、今後は既存の考えを根本的に変化させる大胆なパラダイム・チェンジがあって、初めてイノベーションがおきるのです。

大橋

 あるものを改良するのではなく、全く新しいものを創るというのは、まさにイノベーティブだと思います。「もっと面白い世界にしたい」「もっとすごいデザインにしたい」というように、新しいことにチャレンジしていく精神は、非常に重要なことだと思います。

米倉

 視野を外に向けることで、さらにイノベーションは加速します。世界的な視野の中で不可能を可能にするチャレンジを続けること。だからこそイノベーションが生まれるのです。

パッション

大橋

 イノベーションを生み出すために、事業オーナーにとって必要な要素は何でしょうか。

米倉

 ずばり、「パッション」に尽きると思います。成功している人は、事業を軌道に乗せるまで、とてつもない苦労をしているのですが、それを乗り越えられたのは、ひとえに強いパッションがあったからです。何かを解決したい、という強い想いが、イノベーションをおこすのです。
 僕はやっぱり、エネルギーとか食料とか、高齢化社会とか、社会課題を解決するものにパッションを注いでほしいと思います。日本が解決したものがそのまま世界にも売れるというような、そんなビジョンを持ちたいです。

人を巻き込みビジネスを拡大する

大橋

 どれだけ優れたイノベーションも、製品やサービスとして世の中に広まらなければ意味がありません。経営者として配慮すべき点は何でしょうか。

米倉

 今の時代、外の力を使うことでしょう。自分の力で足りない部分は絶対にありますから、徹底的に外の知識を活用するのです。そして、他人を巻き込むためには、経営者に人間力が無ければダメですね。

大橋

 さまざまな経営者にお会いする機会があるのですが、意外なことに、自分の弱みを平気で他人に見せられる方が結構いらっしゃいます。そこが人間的な魅力につながるようですね。私自身、そういうお客様から頼み事をされると、いつの間にかその人のペースに巻き込まれて全面協力しているケースがあります。

アントレプレナーズバンク

大橋

 クレディ・スイスは国際的な総合金融機関でありながら、中核事業がプライベート・バンキングという、世界的にみても珍しい金融機関です。純金融資産を10億円以上保有されている方、またはそのご家族を対象にサービスを提供しています。
 お客様のほとんどが事業オーナーであり、個人の資産は会社との深い関わりがあります。実は、金融資産の運用 、事業価値の拡大とその承継もさることながら、金融機関に関するニーズの方が高いのが現実です。そこで我々は、事業オーナーのための金融機関であり、「アントレプレナーズ・バンク」だと考えています。
 これには2つの意味があります。
 第一は、事業オーナーとそのご家族のための金融機関であり、ライフステージに応じたさまざまなソリューションを提供しているということ。
 第二は、我々クレディ・スイスの創業者が「アントレプレナー」であり、その精神を受け継いでいるということです。
 創業者であるアルフレッド・エッシャーはスイスがヨーロッパで経済的、文化的孤島になることを避けるためにアルプスを縦断する鉄道の整備が必要であると考え、ヨーロッパ全土を結ぶゴットハルト・トンネルを開通させました。その資金調達を担ったのが今のクレディ・スイスなのです。
 私たちも、クレディ・スイスのネットワークを活用して世界中のアントレプレナーをつなぎ、ビジネス拡大のためのお手伝いをしていきたいと思います。

米倉

 それは、素晴しいチャレンジですね。

米倉 誠一郎

一橋大学イノベーション研究センター教授
六本木アカデミーヒルズ「日本元気塾」塾長
一橋大学社会学部、経済学部卒業。同大学大学院社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学歴史学博士号取得。イノベーションを中心とした企業の経営戦略、組織の史的研究が専門。著書に『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』、『脱カリスマ時代のリーダー論』、『経営革命の構造』など多数。

Entrepreneurs’ Bank

クレディ・スイスは、プライベート・バンキングを中核業務としているグローバルな金融機関です。世界中にいる全従業員の半分以上がプライベート・バンキングに従事しており、投資銀行部門、資産運用部門などすべてを有する総合金融機関でありながら、中核ビジネスがプライベート・バンキングというのは、世界でも稀な存在です。

クライアントの多くは経営者で、アントレプレナーズバンクとして経営者とそのご家族のためにライフステージに応じたさまざまなソリューションを提供しています。

しかし、ひとことで「経営者」といっても、そのステージは多岐にわたります。起業して間もない若い経営者、数十年の歴史を持つ企業の経営者、さらにはその後継者では、それぞれに異なったニーズがあり、求められるソリューションも違います。

たとえば、これから事業を大きく伸ばしていきたいという若い経営者なら、資金調達ニーズを満たすファイナンスや、M&Aのサポート等を行いますし、数十年の歴史を持つ企業のオーナー経営者で、次世代へのバトンタッチをお考えの場合は、事業承継や相続に関する相談をうけることもあります。

また、事業を引き継ぐ側になる次世代の経営者の場合は、先代から引き継いだ事業をさらに拡大・発展させるために、ご自身の知見と人脈を広げる支援も行います。

そのためクレディ・スイスでは、経営者のご子弟に対する教育プログラムにも注力しています。具体的には、20~30 代の次世代の方々に、金融やファミリーガバナンスに関する知識を身に付けていただくプログラムを世界各地で提供しています。このプログラムに参加すると、世界中の多様な次世代経営者に出会うことができ、ビジネスを展開していくうえで重要な人脈の形成にも役立ちます。

また、クレディ・スイスは世界中に拠点があり、各国のビジネス成功者とも太いネットワークがあります。こうしたお客様同士のコミュニケーションを促進するイベント等も定期的に開催しており、そこで新たなビジネスチャンスが生まれることもあります。

我々の使命は、お客様一人ひとりと対話を重ね、信頼関係を築きながらニーズにあったお手伝いをすることです。1856 年、クレディ・スイスはアルフレッド・エッシャーにより、アルプスを横断 する鉄道建設の資金を集めるために設立されました。

スイスがヨーロッパ内で孤立することを避けるために敢行されたこの大胆な試み は、起業家精神に満ちた挑戦でした。困難な道のりを乗り越え、鉄道建設を実行 した創業者の起業家精神は、今もクレディ・スイスに受け継がれています。

経営者とそのご家族のパートナーとして、アントレプレナーズバンクとして、クレディ・スイスは、これまで培ってきた専門知識、グローバルな視点、多彩なソリューションを結集し、クライアントの人生に寄り添う存在であり続けたいと考えています。

クレディ・スイス プライベート・バンキング

クレディ・スイス・プライベートバンキングは、
日本においては、クレディ・スイス銀行東京支店とクレディ・スイス証券株式会社が
それぞれサービスを提供しています。