CISCO ビジョンを共有、共感、共鳴して増幅できる環境が重要 “分析麻痺時代”の企業論

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中間管理層の力こそが会社を元気にする原動力

野中日本経営品質賞、大規模部門の受賞、おめでとうございます。

平井ありがとうございます。

野中『いかに日本企業を元気にするか』が現在、経営学で取り組んでいるテーマの一つなのですが、最近日本の企業がどうも元気がないのは、データ収集や分析を重視するあまり現場の実践知を軽視しがちな分析麻痺症候群に陥っているからだと思います。効率の追求と新しいビジネスの創造の両方をダイナミックにバランスをとりながら、イノベーションを生み続ける組織体をどうしたら作れるかということに大変興味があります。

平井シスコシステムズ (シスコ) の役割はいかにネットワークを活用して日本を元気にできるか、ということだと思っています。そのようなイノベーションを生み出すために焦点を当てるべきは「人財」だと考えています。特に、中間管理層、つまり現場に近く、かつ経営ビジョンも理解している層、そこが一番の大きな原動力です。

野中中間管理層はトップの意図も、戦略もわかり、現場にも近い、最も難しい役割です。この層を育成する実践知をいかに組織に埋め込むかは非常に重要で困難なことですが、どのように取り組んでいるかを教えてください。

平井共有できるビジョンを持つことが重要です。シスコでは我々が掲げる信条をシスコ カルチャーと呼びカードに記載して全社員に周知しています。協調して仕事をするときにはビジョンを共有、共感、さらには共鳴して増幅できる環境が重要だと思います。

野球型組織からサッカー型組織へ

野中共感、共鳴し、感じたものを言語化、形式化していくためにICT (情報通信技術) を活用することはかなり日本でも普及したと思いますが、一方で、形式化されたものを実践知として身体化する、おそらくこれが大変重要なことだと思います。そういう意味では、ICTと直接的な身体性を合わせたハイブリッドな対応が必要ではないでしょうか。

平井同感です。シスコではオフィスを人と人が集い、コラボレーションを推進し、ワーク スタイルを革新する場と考えています。一方、ICTを最大限に活用することで、経営のみならずコミュニケーションの可視化をグローバル、リアルタイムで実現できます。コラボレーション製品を活用すると、あたかも直接対峙しているような感覚で、資料を共有しながら対話をすることが可能なのです。

野中これからは多元的かつ統合されたICTの活用が可能なのですね。

平井はい。このようなICTツールを活用することで、これからの働き方は場所を選ばなくなります。

野中しかし、ICTを使ってグローバル レベルでつながっていくためには、人事システムなどグローバルで統一した仕組みが必要になってきますよね。

平井シスコでは、CEOから現場のマネージャまでが年度の方針を公開し、それに連動して社員個人の目標設定や評価ができる統合的な人事システムを導入しています。

野中シスコの組織運営を知った時、果たして現場の末端にまで取り組みが浸透しているか疑問だったんです。しかし実際は、分析を重視する欧米型経営ではなく、現場の感覚も取り入れたハイブリッド経営なのですね。現場主義をグローバルな環境で活用するには色々なダイバーシティをうまくハイブリッドすることが重要であり、それがきちんと動いている大変良い経営モデルになるのではないかと期待しています。

平井組織というのはつねにダイナミックに変化していくものだと思っています。最近、私がよく使うのが、「野球型組織からサッカー型組織へ」という表現です。優れたサッカーチームのように、ネットワーク型の組織編成のなかでリアルタイムに戦略を修正しながら個々の力を最大限に発揮できる、その結果、ものすごく大きなパワーを生み出すというものです。

野中社員が一人ひとり前後の関係を見ながら現場で適切なジャッジをすることができる、このジャッジメントという役割をトップ以外にも配分できる組織であるということですね。

平井はい。その意味では、社長も一つの役割に過ぎないと私は考えています。ですから弊社には従来の階層型の組織図はありません。あるのは私がいてその周りを各リーダーが囲んでいる円形になったネットワーク型の組織です。その結果、現場に判断をゆだねることができるのです。

野中そう考えると、自由なコミュニケーション、そして人やアイディアの絶え間ない行き来が可能となり、クリエイティブな発想を生み出すことができるもっとも効率的な組織というのは“円”、最後には“球体”ということになるのかもしれませんね。

平井まさしく、球体のような組織になったときこそ、ICTによってグローバルで連携を図ることが必要になります。それにより、社員一人ひとりの発想が豊かになり、また人と人とのつながりによって新たなビジネスが生まれてくると考えています。

ビジネス創造を支えるレベルに進化した情報技術を私たちは、BT (ビジネス テクノロジー) と呼んでおり、シスコはICTをさらに進化させたBTの提供をさらに推進していきます。情報を使っていかにクリエイティブな価値を作るか、それができて初めて、ICTがBTに進化すると考えています。

野中ぜひ、未来に向けて新しいマネジメント システムを世界に発信していただき、新しいパラダイムを作っていただければと思います。

平井今日は、本当にありがとうございました。

野中 郁次郎一橋大学 名誉教授
知識経営の第一人者。早稲田大学政治経済学部卒業。米カリフォルニア大学バークレー校経営大学院で博士号を取得。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授を経て、2006年より現職。
平井 康文シスコシステムズ合同会社 社長
約30年に渡りグローバルICT事業に従事し、2008年 シスコシステムズ合同会社に入社。副社長としてエンタープライズ&パブリック セクター事業を統括する。2010年より現職。早稲田大学ヒューマンリソース研究所招聘研究員。九州大学理学部数学科卒業。

日本経営品質賞受賞 4つのポイント

(1)顧客の経営革新実現に向けたゆるぎない関係性づくり

ビジネステクノロジーによる経営革新をお客様に提案することで、新たな顧客価値を提供するビジネスモデルを構築。また、独自に開発したお客様との関係維持強化プロセスにより、顧客満足度の向上を実現している。

(2)カルチャーの浸透とコラボレーション組織による強い営業体制の構築

社員がシスコ カルチャーとビジョンの意義を深く理解していることが、相互の信頼と理解の素地となっている。それにより、「部門や地域を越えた人材がネットワーク化されたチーム」の協働が実現できている。

(3)「いつでも、どこでも、誰とでも」コンセプトの体現による学習する組織の実現

自社コラボレーション製品群の先進的な導入、活用により、新しい発想と空間を越えたナレッジの相互共有が促され、個人の能力が高められる。また、社員のモチベーションとロイヤルティを醸成している。

(4)緻密で合理的な戦略展開によるスピーディな組織マネジメント

グローバルで統合された戦略フレームワーク「VSE (Vision, Strategy, Execution)」により、経営幹部から現場社員までの戦略計画と実行計画の一貫性をとりながら、現場主体で極めてスピーディな戦略展開が実行されている。

米国シスコ(NASDAQ:CSCO)の日本法人。ビジネスの基盤となる企業ネットワークを核に様々な顧客企業の経営を支えている企業として、音声、映像、データ、ストレージ、セキュリティー、エンターテインメントをはじめとする様々な分野で、人々の仕事や生活、娯楽、学習のあり方を一変するネットワークプラットフォームの提案を目指しています。シスコの会社概要・詳細は以下のWebサイトでご参照いただけます。

http://www.cisco.com/jp/go/company