東大駒場キャンパスの小ホール。観客が一人もいないのに義太夫節が静かに流れ、文楽の上演が始まった。演目は、仙台藩伊達家のお家騒動を題材とする伽羅先代萩。忠義の乳母の政岡が、わが子を身代わりにしてまで幼い主君の鶴千代を守る。気丈な政岡とはいえ、愛息を失った悲しみで心は千々に乱れる。「わが子の死骸抱き上げ、耐へ耐へし悲しさを一度にわつと溜涙」・・・。人形の演じる政岡が本物の涙を流すことはなくても、手や顔の動きそして全身から、母の嘆きが切なく伝わってくる。