「2024年問題」をはじめ、労働人口の減少、人手不足の問題を前に、サービス業をはじめとしたさまざまな「現場」を持つ企業を取り巻く環境は大きな転換期を迎えている。その課題解決を図る手段として、さまざまなツールを導入しDX・省人化を推し進めたものの「効果が実感できていない」「利益創出に繋がらない」とさらなる悩みを感じている方も多いのではないだろうか。目の前に山積する課題を解決するために、企業リーダーが今考えるべきこととは何なのか。その問いに応えるセミナーが2023年11月22日、都内会場およびWebライブ配信のハイブリッドで開催された。人手不足時代の打ち手をどうするべきか、ここでは、当日に議論された内容を一部紹介する。

「労働供給制約社会」を生き抜くための“人”を軸にした経営戦略

関西学院大学院 経営戦略研究科 客員教授
落合 亨 氏

 基調講演では、ウォルト・ディズニー・ジャパン 人事総務担当責任者(バイスプレジデント)、日本マクドナルド 人事本部上席執行役員/シニア・バイスプレジデントなどの経歴があり、現在は関西学院大学院 経営戦略研究科客員教授を務める落合亨氏が、人事的側面から日本企業が抱える課題を整理し、この現状を打破し企業が再び成長軌道に乗るために必要な取り組みを解説した。

労働供給制約社会に突入し労働力確保が困難に

 講演の冒頭で落合氏は、企業が直面する人手不足問題に言及した上で、「従前の人手不足とは大きく異なっています。景気が良くなると人手が足りなくなり、景気が悪くなると人が余るような景気の循環に左右される人手不足ではなく、労働供給制約社会に突入します」と指摘した。

 日本の人口はピークの1億2000万人から減り続けている。生産年齢人口も減少し、2040年には1100万人の労働供給不足になるという。中でも小売り(商品販売)は108万人、飲食店(接客給仕・調理)は56万人が供給不足と、人手不足が深刻化すると見込まれている。

「日本はこれから本格的な人口オーナス(重荷)期に入ります。少子化加速、人口減社会への備えが必要です。AI(人工知能)やロボットなど、テクノロジーによるソリューションも不可欠になります」

日本は人口が減少しつづける「人口オーナス期」に入る
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 AIやロボットにより代替される職業もあるという。労働力不足の救世主になり得るのか。

「すでに代替が進んでいます。2023年の職業別求人倍率をみると、会計事務、事務機器操作、そして美術・デザイナーも代替が進んでいると考えられます。一方で、建設工事、土木、介護、運輸、飲食など、いわゆる労働集約型の産業では、今後も人手不足が続きそうです」

 外国人採用で人手不足の課題を解決する可能性はどうだろうか。人手不足の解消を目的に設けられた技能実習制度は課題も多いことから見直しも行われており、転職制限の緩和なども進められる予定だ。2019年には、熟練の外国人労働者の受け入れを定めた特定技能制度も設けられた。

「さらに移民政策などの議論に入っていくわけですが、残念ながら日本の動きは諸外国に比べて遅いです。受け入れ側の意識も低く、日本語でのコミュニケーションの問題もあります。さらに、円安の影響もあり、韓国やオーストラリアに比べて賃金水準が低く、日本に来ても稼げない。日本の労働市場の魅力が薄れています」と落合氏は語り、今後も労働力の確保は容易ではないと指摘した。特に中小企業にとっては厳しい状況に直面するという。

「危機を乗り越えるにはあらゆる組織で省人化を徹底し、人材の無駄づかいを許さない社会に転換する必要があります。賃上げ競争とそれについていけない企業の淘汰は、貴重な労働力を安易に使うことを防ぐ一つのメカニズムになります。この過程で失業が増える可能性があり、リスキリングが重要になります」と落合氏は語った。

従業員エンゲージメントを経営に活用するには

 講演では、落合氏がかつて勤務し人事組織で陣頭指揮をとってきた日本マクドナルドのクルー雇用確保の取り組みも紹介された。

 国内のマクドナルドの店舗数は約3000店舗で、クルー数は約20万人に達する。「そのうち、年間退職率は47%です。そのため、年間約10万人を採用しなければなりません。そのためにさまざまな施策を行っていました」

 具体的には、SNSなどを含め多様なメディアを活用した年3回の「Hiring Campaign」を実施したほか、シーズンごとに大学生・高校生、主婦・高齢者などにターゲットを絞ったキャンペーンも行ったという。

「これらの結果、おおむね計画的に採用ができています。大切なのは、EVP(Employee Value Proposition)が浸透していることです。マクドナルドで働くことが価値に繋がるという考え方を総合的な概念として提供しています。これが、非常に働く人たちに対して機能していると考えられます」

 マクドナルドでは「従業員エンゲージメント」が高いということだろう。落合氏は「エンゲージメントと社員満足度を混同している企業が多いようです。社員満足度は福利厚生や給料など、ウェルビーイングにつながるものですが、本当の意味でのエンゲージメントは、個人と企業をつなぐ信頼関係です」と話す。

エンゲージメントは従業員と企業との信頼関係にある
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 その上で、エンゲージメントを経営に活用するためには、エンゲージメントの高い従業員の比率を徐々に上げていくこと(個人の成長と企業の成長がしっかりとリンクすること)、エンゲージメントが高ければ高い方が良いというわけではないこと(徐々に上がっていくことが重要)、即効性を求めるものではないこと(波及効果として最後に業績とリンクする)が重要になる。

 講演の最後に落合氏は、「付加価値の源泉は“人”にある」とし、「注目される人的資本経営では、一人一人の従業員を人的資本と考え、投資によって一人一人の成長に寄り添っていく経営が求められます」と結んだ。

サービス課題の可視化と改善 付加価値を生み出す現場を作るには

ClipLine株式会社 取締役 COO 金海 憲男 氏

 落合氏が語ったように、人によるサービスが価値創出の源泉となるサービス産業、その中でも多店舗・多拠点に展開するビジネスを運営する企業では、ここ数年でデジタル化の大きな流れが生まれている。だが、その一方で、それらの施策が経営での意思決定や現場での業務改善などの成果につながっていないケースも多いようだ。その理由はどこにあるのか。

 基調講演に続き、ClipLine株式会社取締役COOの金海憲男氏が、多店舗・多拠点ビジネスにおいて、現場や従業員が持つ本来の力を最大限発揮してもらうためのDXなど、「変革」の打ち手とそのステップを紹介した。

サービスプロフィットチェーンでの観点が重要

 ClipLineは「『できる』をふやす」をミッションに、サービス業を中心に多店舗・多拠点経営の企業向けの経営改善につながるITサービスを提供している。導入企業は1万5000店舗、約41万人が利用している。

 動画型マネジメントシステム「ClipLine」や、顧客満足度調査・アンケートツール「ClipLineサーベイ」としてソリューションを提供してきたが、2023年9月に新ブランド『ABILI(アビリ)』としてリブランディングを行い、提供している。

 金海氏は「売上や利益を拡大するためには、顧客ロイヤルティが必要、そのためには顧客満足が必要、そのためにはサービス品質向上、従業員定着率・生産性、従業員満足、社内サービスの質向上が必要といったように、サービス品質の向上を起点に利益向上に繋げていくという考え方が、「サービスプロフィットチェーン」です。多店舗・多拠点ビジネスにおいては、このプロセスのどこに課題があるのか、発見するのが容易ではない場合が多く存在します」と指摘する。

「サービスプロフィットチェーン」とそれに対応するABILIのサービス
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店舗間のばらつきをなくし、課題を公明正大に可視化する

 人材不足が続く中、最低賃金の引上げや残業時間の削減など、人材に関する要請は強まる一方だ。しかし、現場は圧倒的な人手不足が続いている。

「コロナ禍が終わっても人口減少は止まりません。さらに市場も縮小しています。同じことをやっていては勝てません。さらに、限りあるリソースで結果を出すには、やることの絞り込みが必要です」と金海氏は語る。

 サービスレベルを向上したいと考えても、人口減にともなう市場縮小・労働力減少などにより、現実は目指す姿から離れていっている企業が多いようだ。「課題の解決のためにはデジタルの活用も必要になります。ただし、単に人の仕事をデジタルに置き換えるのではなく、人の仕事の付加価値を強化することが大切です」

人手不足によりサービスレベルの「目指す姿」と「現実」のギャップは大きくなる
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 デジタル化という手段が目的化してはならないという。ではどうやれば企業・事業としての成果につながるのか。

「人的資本のROI(投下資本利益率)という考え方が大切です。中でも、R、すなわち、その人的資本を何に振り向ければ最も資本効率が高いのかに着目することが大事です。つまり、何の課題に取り組むべきか、それにより何の成果を得るのかということです」

 だが、金海氏が指摘するように、サービスプロフィットチェーンのプロセスは長く、その間にはさまざまなパラメータが介在する。従業員への投資のROIは分かりにくいところだ。

「本社組織はさまざまなKPI(評価指標)データを取得・分析していますが、売上などの指標は粒度が細かく取れても、原因指標の分析は後手に回りがちです。さらに、部門が縦割りで必要なデータがリアルタイムに現場や店舗に届いていません」

 さらにサービス業固有の課題もあるようだ。「製造業と違って、無形性・消失性を伴うものなので、出来栄えが見えないのです。このため、課題の発見と解決は現場のエリアマネージャーが担うのですが、『ハンマーを持っていると、すべての問題は釘に見える』という問題があります」

 必要なことは課題の公明正大な可視化だと金海氏は説く。業績数字(結果)とそれを生み出す過程の中で、どこに課題があるのかを数字ベースで明らかにすることが大切だ。

サービスプロフィットチェーンの実践には数字を基にした課題の可視化が重要になる
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 こうした問題に対し、「ABILI Board」を活用することで、各店舗・拠点・部署に点在するデータから現状を分析し、サービスプロフィットチェーンのプロセスの中でボトルネックになっている課題を可視化することができる。分析した上で、どうしても伝言ゲームになりがちなところを「ABILI Clip」の動画で齟齬なく伝えることも可能だ。施策がお客様に届いているかどうか「ABILI Voice」でお客様の声を収集することもできる。「ABILI Partner」ではさらに、伴走型の人的サービスでサポートしてくれる。

「我々は多店舗・多拠点ビジネスの成長を阻害するバラつきの原因となる経営課題の可視化から、改善ステップの設計、実行、効果のモニタリングまでを一気通貫でご支援します」

ABILIでは多店舗・多拠点ビジネスの成長を一気通貫で支援
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 講演では、具体的な取り組み事例も紹介された。例えばある飲食店では、商圏としての勝ちやすさ、その結果としての売上(自店舗の過去との比較、他店との比較)、顧客の特徴・評価などを相対比較し可視化し、本部やエリアマネージャーがダッシュボードで管理できるようになったという。

従業員のキャリアランクアップシステム「ABILI Career」も提供へ

 金海氏はさらに、「ABILIが目指すもの」として、ABILIソリューションの将来像を紹介した。「ABILIは、『ラストワンマイル』のできるをふやし、店舗と組織の“強み”と課題の見える化から利益創出まで、中長期的な成長のサイクルを作り、現場と従業員の潜在力を引き出すDXを実現します」と金海氏は語る。

 新たな取り組みも始まっているという。今後展開していく予定の新しいサービス『ABILI Career』は非正規社員も含めた現場で働く従業員のスキルチェック機能やランクアップ機能を備えたシステムです。履修項目を体系的かつ円滑に習得できるようになります」

 これらに、『ABILI』のほかサービスを組み合わせることにより、従業員のスキル・業務レベルの向上、習得状況や成長度の可視化、汎用スキルの獲得・共有を図り、さらに、評価の最適化を実現し、従業員エンゲージメントを向上させることができるようになるわけだ。

ABILIが目指す現場と従業員の潜在力を引き出すDX
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 金海氏は「これらの打ち手は難易度が高いと思われるかもしれません。しかし、登ったことのない山に登るのは大変でも、何度も登っている山は容易です。私たちは多くの企業様と同じ山を何度も登っています。ぜひ相談いただき、「変革の山登り」をご一緒させていただきたいと願っています」と結んだ。

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