5月に開店したマンハッタンにあるホールフーズ・マーケットのノマッド店。1階のフードマーケット売場にはセルフレジしかない。〔出典〕ホールフーズ・マーケット ノマッド店にて平山撮影

 食品業界団体 FMIの調べによると、食品小売業者のレジ通過数のうち、セルフレジ決済は2019年で23%、2020年には29%に上昇[1]している。ウォルマート他、大手チェーンはコロナ禍で労働力不足と非接触需要が高まったことを機に、どんどん設置台数を増やしている。しかし、セルフレジには万引きと操作にてこずる顧客のストレスという大きな課題もある。

ウェグマンズはモバイルPOSから撤退

 顧客満足度調査で毎年上位にランクインするスーパーマーケットのウェグマンズは9月にモバイルPOSアプリ「スキャン」の使用中止を発表した。同アプリはコロナ禍初期に導入されたもので非接触なショッピングを提供するものだったが、同社広報担当者は「残念ながら現状起こっている(万引きによる)損失状況では継続はできない」とコメントした[2]

 小売業界の防犯研究団体 ECRリテールロスグループが2018年に行った調査では、固定式セルフレジでの万引き率は1%[3]、同年インターネットクーポン企業 バウチャーコードプロ(Voucher Codes Pro)社が2634人を対象に実施した調査では約20%の人が過去にセルフレジで万引きをしたことを認め、その理由について半数以上が店舗の防犯体制が甘いので見つからないだろうと思ったから、と答えている[4]

 設置式セルフレジの場合、典型的な万引き方法は「パス・アラウンド(スキャンしたふりをする)」「重量計トリック(量り売り商品の商品名に実際より安い商品名を入力する)」「スウィッチャルー(安い商品の値札シールを剥がして高い商品に貼る)」だ。ニュージャージー州ではこのような手法でスーパーマーケットで万引きをした男性5人が逮捕された。そのときは告訴には至らなかったものの、数カ月後、同じ手法でホームデポから1万ドル相当の商品を万引きしたことを発見された。検挙されないと分かると常習化しやすいようだ。

ウォルマート(左)、ターゲット(右)のセルフレジ。両社とも頭上に防犯カメラ付きスクリーンと広告用デジタルスクリーンが取り付けられている。〔出典〕ウォルマートのニュージャージー州セコーカス店、ターゲットのマンハッタンアッパーウェストサイド61丁目店にて平山撮影