鹿児島県警本部(写真:共同通信社)

 公益通報者保護法の不備や、周囲の無理解によって、「無私」の精神から告発に踏み切ったのに、ひどい目にあった人物が日本には多々います。

 兵庫県で知事のパワハラなどが告発された同時期に、鹿児島県でも似たような事件がおこりました。

組織の不正を告発した元警視正を逮捕

 2024年4月8日、鹿児島県警は、「HUNTER」というニュースサイトを運営する代表者の自宅を家宅捜索しました。同サイトに県警の捜査情報が掲載されていたため、内部からの情報漏洩を疑ったからです。その結果、鹿児島県警曽於署の藤井光樹巡査長が、内部文書を第三者に漏洩した容疑で逮捕されました。

 話はそれだけでは終わりませんでした。押収したデータの中に、県警の生活安全部長だった本田尚志・元警視正による「告白書」の存在を見付けたのです。それは3月下旬、「HUNTER」の寄稿者であるジャーナリスト宛てに郵送されたもので、鹿児島県警内で行われている不正が記されていました。そこには以下の事件がもみ消されそうになっていると記録されていました。

 2023年12月に、鹿児島県枕崎市でトイレに侵入して女性を盗撮した事件が起き、容疑者として枕崎署の警察官が浮かびました。県警の生活安全部長として本田尚志・元警視正は「早期に捜査に着手し、事案の解明をしよう」と考え、上司の野川明輝・県警本部長の指揮を仰いだところ野川本部長は、「最後のチャンスをやろう」「泳がせよう」と言い、強制捜査にゴーサインを出さなかったというのです。

 また、それ以外にも、公表されていない県警内の不祥事が記されていました。

 つまり、警察を定年退職した直後の本田元警視正が、広くジャーナリズムに告発しようとして資料をジャーナリストに送ったわけで、あきらかに自分の出世を企んだ告発ではありませんが、本田元警視正は5月31日に、国家公務員法違反の疑いで逮捕されたのです。

 告発文にあった、盗撮容疑の枕崎署の巡査部長は5月13日に逮捕されましたが、12月の事件発生から、内偵に実に5カ月もかかって容疑者を「泳がせていた事件」なのに、HUNTER運営者の家宅捜索からわずか1カ月間で逮捕になったのも不自然です。メディアの質問に野川鹿児島県警本部長は、本田警視正を内部通報者として保護すべき対象ではないと答え、いまだに国家公務員法違反としています。

 組織の幹部が外部メディアに通報したことを処分して、さらに隠蔽しようとしたことが疑われる行為は、兵庫県知事の手法にそっくりです。