江戸城巽櫓と大手門 写真/西股 総生(以下同)

(歴史ライター:西股 総生)

●中望遠レンズで城を撮ってみよう(前編)

手間をかけることでセンスも磨かれる

 天守や櫓・城門といった城郭建築を、もっとも美しく写すことのできるレンズは「単焦点の中望遠レンズ」に、とどめを刺す。とくに85mmクラスの単焦点レンズなら、比較的大口径の高画質レンズがリーズナブルな価格で入手できる。

 もちろん、本格的望遠レンズのように、遠くの被写体をぐっと引き寄せてダイナミックに画面を構成する、みたいな芸当は無理だ。では、中望遠レンズで城を撮るコツは、どのあたりになるのだろうか。

写真1:姫路城菱ノ門。ズームの300mm相当の焦点距離を用い、遠近感の圧縮効果を利用して作画してみた

 まず、中望遠は標準レンズより焦点距離が長い分、当然ながら被写体から離れて撮ることになる。一般の観光客が天守や櫓を撮っている立ち位置より、ぐっと後ろから狙う感じになるわけだ。その分、ベストのカメラポジションを捜すのに手間がかかるが、この手間をいとわずに撮ることで、構図やカメラワークのセンスが磨かれることになる。

写真2:金沢城の五十間櫓をM.ZUIKO 45mm f1.8(90mm相当)で撮る。この位置から撮っている人はなかなかいない

 また、画角が人の凝視角に近いという特性を活かせば、被写体周辺の余分な要素を画面から除外できる。城の場合だと、樹木や街灯・通行人などである。

写真3:江戸城桜田門の枡形をM.ZUIKO 45mm f1.8(90mm相当)で撮る。石垣と土塁がきれいに一枚に収まるアングルは意外にレアである

 一方、85mmクラスといえども望遠レンズではあるので、被写界深度は標準レンズよりぐっと浅くなる。被写体との距離や、被写体と前景・後景との距離によっては、被写界深度の浅さがはっきり作用してくる。

 逆にいうなら、浅い被写界深度をうまく使って、広角や標準では撮れない写真を撮ることもできる。この点では、単焦点の中望遠レンズはボケ味の美しいものが多いので、ズームレンズとはひと味もふた味も違った描写が期待できる。

写真4:津城の天守台(M.ZUIKO 45mm f1.8)。開放に近いf2で浅い被写界深度を活かしてみた

 ただ、遠くから天守や櫓の立ち姿を狙うようなケースでは、被写界深度の浅さはさほど気にならない。こうした作画では、無理に絞り込むよりも、f8くらいの中間絞りを使った方が、レンズ本来の描写特性を活かせるだろう。

 手持ち撮影での手ブレを防ぐためにシャッター速度を稼ぐ、あるいはISO感度を低く抑えて画質を確保する意味からも、中間絞りは活用したい。奥行きのある構図にしたい場合や、石垣の硬質感を出したい場合などに、f11~f16くらいまで絞ればよいのだ。

写真5:江戸城巽櫓(M.ZUIKO 45mm f1.8)。絞りはf5.6で、背後の樹木は軽くボケているが櫓そのものはシャープに撮れている

 もう一つ単焦点中望遠レンズの利点として、逆光に強いことが挙げられる。このクラスのレンズは、もともとレンズの構成枚数が少なくて構造がシンプルだし、画質優先で設計されている(普及版のズームはコンパクトさやコストパフォーマンスも優先される)。なので、多少逆光気味でもフレアやゴーストが発生しにくく、クリアな描写が期待できる。

写真6:福山城天守を北側の丘から撮る(M.ZUIKO 45mm f1.8)。こちら側からだと逆光になってズームでは厳しそうだが、単焦点ならクリアに撮れる

 最後に、筆者の個人的な感想というか、城を撮り歩いている経験からの実感を述べさせてもらうと、単焦点の中望遠レンズは使っていて抜群に楽しい。いろいろなレンズを使って城の写真を撮るが、単焦点中望遠レンズは被写体を「切り撮る」感覚がもっとも強い。写真とは「切り取りの術」であることを、再認識させてくれる。

 言い方を換えるなら、「切り取り」の楽しさをもっとも感じられるレンズというわけだ。単焦点の中望遠レンズをカメラに付けて城の中を歩き回っていると、そのレンズでピタッと切り撮れる被写体を、目が探すようになる。結果として、今まで気がつかなかった、構造物としての城の美しさや面白さを、再発見できるのだ。

写真7:姫路城にて(M.ZUIKO 45mm f1.8)。ふと見ると土塀が不思議な曲線を描いていた。単焦点の中望遠を付けていたからこそ見つけられた美しさ

 考えてみれば、普及版のズームで普通にカバーできる画角を、わざわざ単焦点レンズで撮ろうとする、なんていうのは非効率きわまりない無駄なのである。けれども、非効率で無駄な分、「遊び」の要素が強くなる。いや、遊びの精神に徹することができるのが単焦点の中望遠、といった方がいいかもしれない。

 それゆえに、城を見る感覚も研ぎ澄まされるというものだ。