戦闘機はAIが操縦するのが当たり前になるかもしれない(写真は交差する2機のF-16、3月24日アリゾナ州のルーク空軍基地で、米空軍のサイトより)

 無人戦闘機(UCAV)の実用化が近づいている。

 2024年4月17日、米国防高等研究計画局(DARPA)は、2023年9月に実施したAIが操縦する無人機「X-62A」と、人間が操縦する「F-16」との空中戦闘訓練(ドッグファイト)(注1)に成功していたことを発表した。

(注1)ドッグファィトまたは空中格闘戦とは、戦闘機同士が互いに機関砲または短射程空対空ミサイルの射界に相手を捉えるために機動しながら行う空中戦をいう。空中戦とは航空機どうしによる空中での戦闘をいう。ドッグファィトは短距離空中戦である。

 詳細は後述する。

 一般に米軍は実験結果などの情報をすぐに発表している。なぜ、今回の情報発表が半年も遅れたかは不明である。

 筆者の憶測であるが、これには2023年5月23~24日に英国の王立航空協会 (RAS) が主催した「Future Combat Air & Space Capabilities Summit(将来の戦闘航空宇宙能力サミット)」の中で、米空軍のAI試験運用部長であるタッカー・ハミルトン大佐が行ったプレゼンテーションが影響しているとみている。

 同大佐のプレゼン内容は「米空軍が開発中のAI搭載ドローンが、標的を特定して破壊するというミッションを想定した模擬テストのシミュレーションで、人間のオペレーターを殺害する判断を下していた」というものだ。詳細は後述する。

 DARPAは2019年に「航空戦闘変革(Air Combat Evolution:ACE)プログラム」を開始した。

 DARPAは空対空の戦闘を自動化し、それによりマシンスピードでの反応時間を可能にし、人間のパイロットがより大きな戦局に集中できるようにすることを目指している。

 ドッグファイトをAIに任せることが意図するものは、将来的には滅多にないはずの空中戦そのものではなく、むしろAIと自動化がハイエンドな戦闘に対処できるという自信をパイロットに与えることであるとされる。

 そして、過去に戻るが、DARPAは2020年8月に、実機でなくシミュレーション環境でAIが制御する戦闘機同士を交戦させて勝敗を決める「アルファ・ドッグファイト競技会」を開催した。

 同競技会には航空機メーカーや大学の研究機関などから8チームが参加した。

 2020年8月の3日間に開催された決勝ラウンドでは、まず準決勝で参加8チームそれぞれが、ジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所が開発したAIと戦った。

 その結果、上位4チームが決勝戦に進んだ。決勝戦では4チームの総当たり戦が行われ、ヘロン・システム社が勝利した。

 そして、メインイベントにおいて、ヘロン・システム社が開発したAIが、シミュレーション環境で人間のパイロットとドッグファイトを行った。

 ヘロン・システム社のAIは人間のパイロットが追随できない正確な機動により5-0で勝利した。

「アルファ・ドッグファイト競技会」の詳細については、「戦争もAI時代に本格突入、無人機に勝てない『F-35』」(2020.10.26)を参照されたい。

 筆者は、上記の記事の中で、「今回の競技会は実機ではなくシミュレーター上で行われたものであるが、近い将来、AIが操縦する実機が経験豊富なパイロットが操縦する実機に勝利することが予見される」と述べた。

 そして、今回AIが操縦する無人機X-62Aと、人間が操縦するF-16の実機同士のドッグファイトが行われたのである。

 筆者の予見が3年1か月で実現したことになる。ちなみにX-62Aは、F-16を改造しAIを組み込んだ機体で、飛行性能はF-1」とほぼ同じである。

 軍用無人航空機は用途により、無人攻撃機、無人偵察機、無人警戒監視機、その他通信中継機、電子戦機や標的機などに分類される。

 上記の用途に用いられる無人航空機は既に実用化されている。

 しかし、無人でドッグファイトなどの制空戦闘を行う無人戦闘機(unmanned combat air vehicle:UCAV)には、AIによる完全自律飛行技術が必要なため、開発にはまだ時間がかかると見られていた。

 今回、AIが操縦する実機と人間のパイロットが操縦する実機とのドッグファイトが行われたことなどからUCAVの実用化もそう遠くないと思われる。

 UCAVが実用化された暁には、有人戦闘機の存在意義が問われることになるかもしれない。

 以下、初めにタッカー・ハミルトン大佐のプレゼンテーションの概要について述べ、次に航空戦闘変革(ACE)の概要について述べ、最後に2023年9月に実施されたAIが操縦する無人機と有人戦闘機とのドッグファイトの概要について述べる。