明律大女子部法科から明律大に進んだ当初、寅子たち女子学生は男子学生に蔑まれるのではないかと身構えていたが、意外にも男子学生の花岡から敬意をもって接せられ舞い上がる。ところが、花岡の態度は実は表面的なものに過ぎず、本音の部分では男性優位の考えの持ち主だったことが分かってしまう。

 花岡が心の奥で寅子たちを見下していたのは、目指していた東京帝大に落ち、その焦りで自分を見失っていたから。後に花岡は自らの言動を悔い、屈辱を与えた梅子に懺悔する。

「こんな人間になるはずじゃなかった」

 梅子は一言も怒らず、「本当の自分があるのなら、大切にしてね」と年長者らしい助言を与えた。

互いに勇気づけあう登場人物たち

 吉田氏の脚本が卓越しているのは学生たちの立場の違いやそれぞれの蹉跌、傷を描いているのだけではないところ。痛みを持つ学生たちが、仲間の存在によって強くなる過程も表している。

 エンパワメント(力をつける、自信を与える)である。集団内や組織内において自信を失っていたり、本来の持ち味を出せていなかったりする人間がいたとき、周囲の仲間がその人らしさを発揮できるようにすることをそう称する。

 花岡は梅子の言葉によって、自分らしさを回復する。

 一方、大学では、直言が逮捕されたことにより、寅子を冷酷に評する学生も現れる。だが、女子学生の受け入れに尽力した穂高重親教授(小林薫)は、裁判も始まっていない段階で新聞報道や噂に流されてはいけない、自分の目で物事を判断できるよう学び続けなければならないと、学生たちを諄々と諭す。

 梅子は別れたいほど嫌いな夫の弁護士・徹男(飯田基祐)に土下座して直言の弁護を哀訴した。徹男は突っぱねたが、梅子を突き動かしたのは仲間と過ごした日々である。第20回だった。

 国家の意思が働いた捜査だった。このため、裁判で勝てないと考えたり、自分の名が傷ついたりすることを恐れたりで、誰も弁護も引き受けようとしないのだ。

 そうした中、寅子や梅子の影響で、それまでの虚勢を捨てた花岡は、穂高教授に何か相談を持ち掛ける…。