「廃線ウォーク」の先駆け・碓氷峠が生んだ“保存鉄道”の風土

 それゆえに、現場を管理する同機構には、普段の立入禁止規制の対応はもちろん、長い廃線区間の保全の取り組みが求められる。その代表的なものが、「廃線ウォーク」を運営するにあたって不可欠な除草(草刈り)である。

「新線」と通称される11.2kmの区間に残るトンネルは上り、下り合計29ある。放置しておけば、それらのトンネルや橋梁の合間の線路に人の背丈ほどの雑草が繁茂してしまう。この草刈りを同機構の職員だけで対応するのはマンパワー上、無理があり、そこで独自の「サポーター」の仕組みを取り入れた。発案者は同機構で「廃線ウォーク」の企画を担当し、ガイドも務める上原将太さんで、祖父はかつて碓氷峠で国鉄の機関士として専用機ED42形を運転された人物だ。上原さんはまさに碓氷峠の鉄道の申し子と言える存在だ。

「廃線ウォーク」の企画を担当しガイドも務める安中市観光機構の上原将太さん(右)、写真左は筆者(写真提供:一般社団法人・安中市観光機構)

 この「廃線ウォークサポーター」は碓氷峠の廃線跡を永く保全・活用することを目的とし、2022年10月からクラウドファンディングで資金を募っている。サポーターには、支援金額に応じてトートバッグなどオリジナルグッズの特典がある(すでに第一次目標の100名に達している)。

「サポーター」に対して何ら強制はしないのだが、上原さんから除草作業や、イベントに向けての沿線整備などの予定が通知されると自主的に碓氷峠に来て汗をかくサポーターも多い。

 後述する長大なトンネル内で突然点灯する本物の鉄道信号機も「サポーター」からの寄贈品である。古くからイギリスなどでは、ボランティアが鉄道廃線を復活させて運行するといった“保存鉄道”の考え方がある。この碓氷峠「廃線ウォーク」にも似た風土があり、それはわが国に鉄道ファンが数多く存在しながら、なかなか根付かなかったものでもある。

 では、なぜ、碓氷峠「廃線ウォーク」でそれが成し得たのか。実際にコースをたどってみるとヒントがあった。

トンネル内で突然信号が点灯するサプライズも

「廃線ウォーク」は横川寄りの温泉施設「峠の湯」、もしくは軽井沢駅を集合地とし、基本的には途中の熊ノ平(旧信号場跡)を経由して廃線区間を片道踏破するコースだ。地形の複雑な旧信越本線のこの区間では上り線と下り線がそれぞれ単線に分かれ、トンネルや橋梁も多くが別線に建設されている。

碓氷第三橋梁(めがね橋)も見える絶景スポット