「ガラガラだったらどうしよう……」関係者の胸の内

 全線無料デイの直後である2022年10月26日に開催された第10回法定協議会の席上で、三日月滋賀県知事(法定協議会の会長)からこんな発言があった。

「…(全線無料デイ)当日はいろいろと御協力をいただき、ある意味では御迷惑をおかけしました。駅員の方が『こんなたくさんの人を運んだのは久しぶりだ。見たことがない』として、随分と気概・生きがいを感じてお仕事されている様子が印象的でした。無料にして、どなたも乗っていただけなかったら、この法定協議会はどうしたらいいのかと考えていたのですけれども、たくさんの方に乗っていただけてよかったと思っております」3)との発言があった。

 無料にしたけれど、ガラガラだったらどうしよう……。当事者はそれぞれ心配していたのである。

 これは正直な言葉だと受け止めた。全線無料デイで本当に人々が集まるのかは、近江鉄道と県・沿線自治体との信頼関係ができつつあるとは言え、こうしたイベントの成否までは予測がつかなかった。

 関係者は皆、成功について確信を持っているわけではなかった。全線無料デイを実施しても、参加者が少なかったら、存続に向けて活動をしてきた法定協議会の活動も根本的に見直さないといけないという現実が突き付けられる恐れがあった。

 しかし、その結果はまさに嬉しい「誤算」であった。当日参加した人たちは全員実感したと思う。これほど多くの人たちが笑顔で近江鉄道を利用することを、これまでは想像すらできなかった(写真-2、3)。

 そして鉄道だけでなく、沿線の商店街への来訪者も驚くほどの増加となった(写真₋4)。

 想定の3倍を超える人々が近江鉄道線を利用してくれることになった。今回の利用者がすべて今後も利用をしてくれるわけではない。だが、潜在的な需要は少なくないことを確認することができた。

 このことは近江鉄道線に関わる人たちの取り組みが間違っていなかった、と背中を押すものとなった。

 さらに近江鉄道株式会社では、今回の無料デイの結果を分析するために、2か月後の2022年12月にWEBアンケートを実施している。総サンプル数は291と少ないものの、全線無料デイ以降に近江鉄道線の利用回数が増えたと回答した人たちが13%(図-3)いることがわかった。

 イベントにより、近江鉄道線の利用増を確認することができたのも大きな成果だろう。

図-3 全線無料デイの結果分析(近江鉄道調べ)4)図-3 全線無料デイの結果分析(近江鉄道調べ)4)
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