トランプ氏は米国での石油採掘促進を公約する(写真:CeltStudio/Shutterstock.com

(水野 亮:米Teruko Weinberg エグゼクティブリサーチャー)

ドリル・ベイビー・ドリル(石油をドンドン掘れ)

 前編「《分析「もしトラ」米国の政策》日本の貿易はどうなる?北米域内調達ルールはさらに厳格化も」では、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合に貿易政策がどうなるか、公約の実現可能性を検証した。今回は、陣営が公約の柱に挙げているあと2つの政策、環境と移民について分析を試みたい。

【前編から読む】
◎《分析「もしトラ」米国の政策》日本の貿易はどうなる?北米域内調達ルールはさらに厳格化も

 まず環境について見てみよう。ここで言う環境とは、トランプ氏にしてみれば、国際的な脱炭素化の議論、特に米国の現政権が取り組んでいる国内原油の生産制限や自動車の電動化といった政策へのアンチテーゼである。自動車大国の米国がEV(電気自動車)にどのようなスタンスをとるのかをはじめ、日本企業の戦略にも大きな影響を及ぼす。

 環境に関するトランプ陣営の公約は主に以下の3つだ:

①米国のエネルギーを開放、「ドリル・ベイビー・ドリル(石油をドンドン掘れ)」を実施。
②自動車の価格を引き上げる企業別平均燃費基準(CAFE)を廃止。
③政権発足初日にバイデン氏のEV普及策を廃止。

バイデン政権の大統領令を覆すのは簡単

 ①の「ドリル・ベイビー・ドリル」は、もともとは2008年の共和党大会での石油採掘促進のスローガンだ。トランプ氏をはじめ共和党は、オバマ前政権による海底油田開発の一時凍結などの措置に強く反発した。トランプ前政権は、石油生産に関する諸規制を次々と緩和した。

 それに対し、脱炭素社会の創設を目指すバイデン政権は、カナダ油田と米メキシコ湾岸の製油所をつなぐパイプライン「キーストーンXL」の建設認可の停止、国有地での石油・ガス掘削許可の停止、そして米国のLNG輸出の新規許可の一時凍結など、トランプ氏が実施した緩和策を次々と覆した。

 エネルギー産業を抑制する民主党政権の動きを再び覆すのが、まさに「ドリル・ベイビー・ドリル」の意図するところだ。バイデン政権は主に大統領令の公布を通じて抑制策を導入しているため、トランプ氏は大統領令を使ってこれらをやすやすと覆すことができよう。