多くの企業がリモートワーク下での組織マネジメントに悩む中、日本電気株式会社(以下NEC)では、コロナ前から経営活動の基本である「NEC Way」による理念や行動基準の浸透に着手していたため、リモートワークに移行しても社員が同じ方向を向くことができた。現在は「Smart Work 2.0」という指針のもと、ハイブリッドワークを推進中だという。本稿では、同社の働き方改革やパーパス経営について、取締役執行役員常務 兼 CHRO 兼 CLCOの松倉肇氏に聞いた。
※本コンテンツは、2022年6月16日に開催されたJBpress/JDIR主催「第10回 ワークスタイル改革フォーラム」の特別講演2「Smart Work 2.0~働き方改革は新たなステージへ~」の内容を採録したものです。
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リモートワーク下で社員の指針となった「NEC Way」の行動基準
120年以上の歴史を誇るNEC。しかし、2001年に連結売上高でピークを迎えて以降、ITバブルの崩壊や海外企業との競争激化、リーマンショックなどの影響で業績が振るわない時期が続いていた。主力事業として展開していた半導体、パソコン、携帯電話事業から撤退し、この約10年は抜本的な改革を進めてきた。その中でも、松倉氏がCHRO(最高人事責任者)に就任した2018年頃は、人やカルチャーの改革に着手している最中だったという。
「当社の強みであるテクノロジーを中心に据えたときに、暮らし・社会・環境に対して何ができるのか、われわれの存在価値とは何かについて、社内で議論を重ねました。その結果、将来に描く社会像として定められたのが、中期経営計画の先にある『NEC 2030VISION』です。ここでは、『個人や社会との調和』や『地球との共生』といったキーワードが浮かび上がり、当社の目指すべきところはSDGsの追求であることが明らかになりました」(松倉氏)
この「NEC 2030VISION」を支えるのが、「NEC Way」だ。NEC Wayは、企業としての姿勢を示した「Purpose(存在意義)」「Principles(行動原則)」と、働く社員としての姿勢を示した「Code of Values(行動基準)」「Code of Conduct(行動規範)」から構成されている。その中でも、行動基準であるCode of Valuesは、社員一人一人の行動のあるべき姿を定めた極めて重要な指針だ。これらを単なる目標に終わらせることなく、実際に行動に移せるよう、下に示す5つの項目を行動基準として掲げるとともに、人事の評価基準としても採用している。
NEC Way自体は2020年に体系が整備されたものだが、これから本格的に推進しようとしている矢先に新型コロナウイルス感染症が発生。緊急事態宣言によって、同社もリモートワークへの移行を迫られた。社員同士が対面で仕事をする機会が減少する中で、どのようにNEC Wayを浸透させるべきか頭を悩ませたと松倉氏は話す。
「自宅で作業することの多いリモートワーク下では、組織とのつながりが希薄になりがちです。だからこそ、社員がNECにいる意味を実感できる機会を提供する必要があると考えました。そこで、NEC Wayと自分の志(My Way)との共通点を見いだしてもらえるワークショップを多数開催したのです。その結果、離れていても社員の気持ちが少しずつまとまり、リモートワーク中心の働き方でも組織が前進できたと考えています」(松倉氏)
戦略と文化、両面の変革によってパーパス経営を強力に推進
自社の存在意義、すなわちパーパスを軸として社会に貢献する経営を「パーパス経営」と呼ぶ。NEC Wayにも示されているように、NECのパーパスは「安心・安全・公平・効率」の4つに集約される。2025年までの中期経営計画の根幹には、「未来の共感を創る」というコンセプトのもと、戦略と文化を両輪としたパーパス経営を実現することが描かれている。松倉氏は次のように補足する。
「社会価値を創造し、未来の共感をつくるためには、当社の従業員だけではなく一緒に事業を進めるパートナー企業やお客様、社会との協力が不可欠です。加えて、戦略と文化の両面で変革を進めていかなくてはなりません。どちらか片方だけでパーパス経営を実現することは、極めて困難でしょう」(松倉氏)
「戦略」として目標や達成率を数値化するのは容易だが、人の気持ちによって左右されやすい「文化」を数字にするのは難しい。そこでNECでは、文化に対しても効果測定を可能にするべく「エンゲージメントスコア」という指標を導入し、50%達成をKGI(経営目標達成指標)に設定した。
エンゲージメントスコアとは、社員と企業の間にある信頼や信用、愛着といった目に見えないものを数値化する手法で、同社では年1回のアンケートを通じて、社員と会社とのつながりの度合いを測っている。これによって社員が経営に参画しやすくなる、アンケートで出てきた意見を経営施策に反映するなど、ポジティブな効果が生まれているという。同社ではこうした戦略の変革に加え、文化の変革も強化することで、パーパス経営を強力に推進している。