新潮社の会員制国際情報サイト「新潮社フォーサイト」から選りすぐりの記事をお届けします。
量子コンピュータの「量子超越性」を実証したとグーグルが発表(2019年10月撮影・提供写真、提供:Google/ロイター/アフロ)

(文:新潮社フォーサイト編集部)

イノベーション研究で最も権威ある国際賞の一つ「シュンペーター賞」を受賞した早稲田大学商学学術院教授・清水洋氏。日本人で同賞を受賞するのは、1998年に受賞したスタンフォード大学名誉教授の故・青木昌彦氏以来、2人目の快挙となる。清水氏に日本のイノベーションの現状について聞いた。

――「シュンペーター賞」受賞、おめでとうございます。

 ありがとうございます。「比較制度分析」の青木昌彦先生、「進化経済学」のリチャード・ネルソン、「インダストリー・ダイナミクス」のスティーブン・クレッパーなど錚々たる受賞者の系譜に、自分が加わるというのは少し場違いな気もしますが、とても光栄です。

――受賞の対象となった研究について、教えてください。

「シュンペーター賞」を受賞した早稲田大学商学学術院教授・清水洋氏

 私は、社会に大きな影響を与えるGeneral Purpose Technology、すなわち汎用性の高い技術のイノベーションについて研究しています。古くは「蒸気機関」や「電気」、戦後なら「レーザー」、現在ならば「人工知能」などが、それに該当します。

 これらのイノベーションに成功すると、さまざまなところで使われるため、社会の生産性が大きく向上します。また、このようなイノベーションは企業の競争力に直結します。かつては蒸気機関や電気を発明した英米が世界経済を牽引し、レーザーでは、日米独がしのぎを削りました。現在は人工知能の基幹技術をめぐって米中が激しく競争しています。

「ヒト・モノ・カネの流動化」のプラス面とマイナス面

――汎用性の高い技術のイノベーションに成功する条件とは何なのでしょうか?

 かいつまんで言うと、ヒト・モノ・カネの流動性を高めること――私はそれを「野生化」と呼んでいます――が、イノベーションを起こしやすくする条件と考えられています。つまり、アメリカ社会のように、人々が転職を繰り返し、企業や生産設備などのスクラップアンドビルドが盛んで、またベンチャーキャピタルによる資金提供が活発になれば、それだけイノベーションが起こりやすくなるわけです。

 一方、私の研究では、アメリカのような流動性の高い社会は、たしかにイノベーションは起こりやすくなるものの、達成される技術水準が低くなってしまう傾向があることを、半導体レーザーの技術革新の調査から実証的に明らかにしました。つまり、スタートアップを促進すれば、イノベーションが次々と生み出され、万事OKとなるわけではないという議論です。これは従来の常識とは異なる視点であり、それが今回の受賞につながったのだと思います。

――なぜ流動性の高い社会だと、達成される技術水準が低くなってしまうのでしょうか。

◎新潮社フォーサイトの関連記事
経済冷戦下、「意志」を手放した東芝の忖度と凋落30余年
モサド前長官がソフトバンクの投資ファンドに転職――スパイたちのセカンドキャリア事情
裁判も企業の人材採用も「気まぐれ」なのか? 意思決定の「ノイズ」と人間の未来