近年、自動運転が次世代の有望な技術として注目されているが、実用化に向けた取り組みも世界各国では進んでいる。みずほリサーチ&テクノロジーズは、早期から自動運転に関する調査研究や提言を行ってきたわが国における草分け的存在だ。これまで培った知見やネットワークにより、自動運転の社会実装に関する研究開発や調査の取りまとめなどを担う他、MaaS(Mobility as a Service)など次世代モビリティサービスのコンサルティングを行っている。
自動車業界の新たな潮流
「自動運転」の検討初期から参画
「自動運転」の検討初期から参画
みずほリサーチ&テクノロジーズには、多様な専門知識を持つコンサルタントがそろう。大学・大学院での専攻もさまざまだ。デジタルコンサルティング部課長の築島 豊長氏は、大学院では電気工学を専攻していた。
「大学院で研究していた頃は、答えは『ゼロか1か』という感じで常に正解を求めていました。ただ、実社会を見ると必ずしも『解』は1つではありません。むしろVUCAの時代とも呼ばれるように、なかなか解が見えづらくなっています。お客さまにとっても解がない中で、どう導いていくか。そこに価値があるのではないかと感じてコンサルタントを志しました」
築島氏は2008年にみずほリサーチ&テクノロジーズに入社。当初はサイバーセキュリティの評価などに携わった。4年目に異動になったが、「メーカーなどとは違う中立公正な立場で物事を見ることができるのが非常に面白いと感じました」と振り返る。
一方、デジタルコンサルティング部上席主任コンサルタントの西村 和真氏は、2013年にみずほリサーチ&テクノロジーズに入社した。「大学院時代の専攻は物理工学で、センサーに関わる研究でした。メーカーに進むことも考えましたが、そうなると、1つの企業で関係できる範囲での製品にのみ携わることになります。コンサルタントであれば、常に幅広く新しいテクノロジーをキャッチアップできるのではないかと考え、当社を選びました」
両氏が所属するデジタルコンサルティング部は、デジタルビジネスにおける最先端技術の他、政策・法制度、業務DX・システム改革など幅広い領域を手掛けている。その中で両氏が携わるのが自動運転だ。
築島氏は「デジタルコンサルティング部ではデジタル技術の社会実装なども手掛けています。中でも、2016年くらいから力を入れているのが『デジタル×自動車』の領域、すなわち自動運転です」とプロジェクトについて紹介する。
今でこそ自動運転は次世代の中核技術として、また有望な産業として注目されているが、当時はまだそれを認識している人は少なかったという。
「2016年に警察庁の委託事業で『自動運転の段階的実現に向けた調査研究』を当社で行いました。当時、警察庁でもまだどのような自動運転が実現されるのか分からない段階でした。実は当社社内でも『自動運転は現実的なのか、その中で当社が自動運転に関わる意義があるのか』と上司から尋ねられたほど、理解されていなかったのです」(築島氏)
まだ社会にニーズがあるのかも分からない中、新しい取り組みに果敢に挑戦する気概と、それを認める度量が同社にあった。その後、一気に自動運転が注目されるようになったが、まさに先見の明があったともいえるだろう。
レベル4自動運転トラックの
社会実装に向けた
研究開発プロジェクトにも参加
社会実装に向けた
研究開発プロジェクトにも参加
西村氏は「自動運転に限らず、当社は鉄道を含む公共交通のデジタル活用を手掛けてきました。自動運転に関していえば、当社は大きく『法規制』、『技術開発』、さらに『社会実装』の3つの領域で取り組みを進めています」と話す。
「法規制」では道路交通法の改正の他、道路運送車両法という車両側の法律も関係するという。そこには警察庁や国土交通省など複数の官庁が関係している。また、「技術開発」では、自動運転に限らずIT・デジタル技術の知見が不可欠だ。
興味深い取り組みも進んでいる。築島氏は次のように紹介する。「当社は今、自動運転技術をトラックに実装した自動運転トラックを社会実装し、社会課題を解決するプロジェクト『RoAD to the L4プロジェクト』に参画しています。これは経済産業省が主導するプロジェクトで、大手自動車メーカー、物流事業者、ベンチャー企業など、さまざまなステークホルダーが入って、社会実装に向けた技術開発や事業モデル等について議論をしています」
プロジェクトに参加しているのは、日本を代表するような自動車メーカー、物流事業者などである。その中に、みずほリサーチ&テクノロジーズが参加することで、どのような存在感を発揮しているのか。
「プロジェクトに参加しているステークホルダーはいわば呉越同舟の競合企業です。それぞれが自社の都合だけを主張していてはなかなかまとまりません。そこで当社のような中立公正で透明性の高い立場の者が入ることによって、それぞれの意見を聞き合意形成を図りながら1つの解に持っていくことができます。長く培ってきた当社の知見や議論をまとめて方向づける力を信頼され、その役割を担うことが期待されているのだと思うので、その期待に応えなければと感じています」と築島氏は話す。
みずほリサーチ&テクノロジーズは黎明期から自動運転に携わってきたことで技術や法制度、社会実装にも精通している。多くのステークホルダーとの人脈も形成されている。これらを兼ね備えたコンサルタントは国内では貴重な存在であろう。
MaaSの基盤となる
データ連携のあり方を提言
データ連携のあり方を提言
次世代モビリティサービスという視点では、「MaaS」への期待も高まっている。
人口の減少等にともない、地方の公共交通の経営は厳しさを増している。しかし、公共交通サービスは地域の足を支えるインフラとしての側面もあり、その維持も必要である。
西村氏は次のように語る。「そこで注目されているのがMaaSです。モビリティの利便性を高めることは、通勤・通学、買い物、通院などの他、インバウンドも含む観光への好影響も期待されます。その点では、都市部だけでなく地方部におけるモビリティの利便性も重要な視点となります」
西村氏によれば、トラックの自動運転による物流網の構築に比べれば、MaaSを単に実現することは容易だという。実際に、海外ではフィンランドのように既にMaaSを導入している国もある。だが、日本では自治体や鉄道会社等の交通事業者による実証実験は行われているものの、広く社会に浸透できているとは言えない状況にある。遅れている理由はどこにあるのか。
「トラックによる物流と同様に、MaaSにもさまざまなステークホルダーがいます。例えば、運賃の算定の他、行き先の検索などにおいては、ステークホルダー間でのさまざまなデータの連携が不可欠です。ところが現状は、各社がばらばらの内容、形式、ルールでデータを運用しています。これらを連携させるためには、連携を行う際の内容や形式、ルール等に対する指針が必要になります。この指針としてのガイドラインは、国土交通省で整理・公表しており、当社がその作成を支援しています」(西村氏)。
ただしここで難しいのは、単に技術面での課題を解決し、スマートフォンアプリ等を実装するだけでは、MaaSは実現しないことだ。「事業者にとっては、このサービスが事業として成り立つのかという大きな意思決定があります。MaaSを導入して、地域の住民の方に利用されるのか、地域の外から観光客等の利用者は来るのか。採算ベースに乗せるためには、利用者数を増やさなければなりません。移動需要を喚起し、移動の総量
を増やす必要があります。そのためには、単に交通を便利にするだけではなく、移動の目的となる観光や、飲食店、小売店などとも連携して取り組んでいくことが求められます」。街の魅力づくりなども含めて、移動需要を喚起する必要があるわけだ。
「そうなると、特定の地域・事業者だけの問題ではなくなります。解も1つではありません。当社では、交通だけでなく、交通以外の企業を含めて、MaaSにどう巻き込んでいくかといった提言や提案も行っています」(西村氏)。
自分の専門性を磨き、
個性を持ったコンサルタント
として成長できる
個性を持ったコンサルタント
として成長できる
築島氏は「自動運転もMaaSも、技術やビジネスのあり方をしっかりと考える必要があります。私たちは自動運転の技術には精通していますが、自動運転の技術そのものをつくっているわけではありません。あくまでも、自動運転車をつくっているのは自動車メーカーであり、物流事業を担っているのは物流事業者です。では私たちは何のプロなのか。私は、既存のビジネスにはないものを将来の社会像を構想して『未来のサービスはこのようになるのでは』とデザインしてみせ、そして合意形成を図るプロだと思っています。また、そこに私たちの存在意義があると自負しています」
大げさでなく、みずほリサーチ&テクノロジーズのコンサルタントが提言した内容が、メードインジャパンのガイドラインや規格に繋がっていくのである。将来的にはそれを海外に輸出することも期待される。
振り返れば、冒頭に築島氏が紹介したように、2016年に初めて自動運転の調査に参加したときには社内でも懐疑的な向きがあった。「海の物とも山の物ともつかないような段階から『やりたいならやってみろ』と任せてくれる社風には感謝しています」と築島氏は語る。
西村氏は「前例のないことにも積極的に挑戦できるのが当社の強みだと感じています。その挑戦をする上では、やはり<みずほ>グループの総合力が大きいですね。テクノロジーだけでなく、産業調査、戦略、サステナビリティ、医療福祉などの専門家が<みずほ>内のあちこちにいますし、グループ内にはファイナンスの機能があるので事業化まで見据えて支援することができます。国や民間の案件などで引き合いがあったときに、必ず相談できる専門家がいるので心強いです。逆にそれぞれのコンサルタントが専門性を磨いて、自分の強みとなる柱を持ちながらさまざまなプロジェクトに参画することもできます」
築島氏は「解のないところでお客さまを導く」ことがコンサルタントの醍醐味であると語る。
モビリティだけでなく、これからも次世代の技術、サービスが次々と生まれてくるだろう。それらに率先して柔軟に対応する、そして自分で仮説を立て、動く力を高めることこそが、コンサルタントが第一線で活躍しつづける不可欠な要素であるに違いない。