THE TIP of CHANGE Mizuho Research & Technologies, Ltd. Special website

進化するテクノロジーによる
新たなビジネスの可能性
ブロックチェーンに
期待する未来

 ビジネスと社会に大きな変革をもたらす先端技術を実社会に適用するため活動しているのがみずほリサーチ&テクノロジーズ 先端技術研究部のメンバーだ。なかでもインターネットに新時代を画す重要技術が「ブロックチェーン」。Web3(ウェブスリー)と呼ばれる新トレンドの中核をなすこの技術は、私たちのビジネスと生活をどう変えようとしているのか、同部のエキスパート2人に聞いた。

01 最適な課題解決をめざし、
適所にブロックチェーンを利用

 先端技術をいかに早くキャッチアップし、独自のサービスや製品に活かすかが問われる現代。応用可能性が見えていない理論実証レベルから、すでに一部の社会実装が始まり本格普及を待つばかりの技術まで様々なレベルの先端技術が存在している。そのような先端技術がどのように実課題の解決に役立つかを研究し、DX推進や生産性向上、業務効率化、コスト削減などのビジネスにおける多様な課題に適用してきたのが先端技術研究部である。同部は最新技術や開発手法に関する自主研究、システム開発案件へのその適用を通じて知見を蓄積し、同社のシステム開発部門やみずほフィナンシャルグループのIT戦略をモダナイゼーションのエキスパートとして支えている。

 片岡正輝氏は「ビジネスにインパクトのある先端技術や、矢継ぎ早に登場するシステム開発技術を先回りして見極め、調査・研究を通じて蓄積した知見を、実装・人材育成という形で社内や、広くみずほ内に還元することにより、その先にいるお客さまに価値を提供していくことが仕事です。コンサルティング、アーキテクチャ設計、実装からビジネス支援まで、他部門やパートナー企業、そしてお客さまと協調して支援・伴走できることが当部の強みになっています」と語る。

 先端技術動向やビジネス動向を調査し、最新技術・先端技術の合理的かつ効果的な適用を探る調査・研究系の仕事と、モダナイゼーション志向で実際にモノを作るシステム開発系の仕事との両方をカバーしているのが特徴だ。

 様々な先端技術の知見を集める同部がいま、注力しているのが「ブロックチェーン」の活用である。ブロックチェーンは、暗号資産の基礎技術として普及した新しい情報管理・流通のための技術であり、金融分野をとりまくビジネスや社会構造を大きく変える可能性がある技術として注目されている。

技術開発本部 先端技術研究部
片岡 正輝氏

また、非金融分野においても各種取引や契約、データ保管などのニーズが発生する様々なケースへの活用に向けた取組みが進んでおり、ビジネス・社会への潜在的なインパクトの大きさから同部はブロックチェーン技術の研究と適用に注力しているという。

 ブロックチェーン技術は、簡単に言えば取引情報などのデータをネットワーク上で共有して更新していく仕組みである。定められたルールに従ってネットワーク参加者による検証が可能なようにデータは更新され、悪意のあるユーザーが参加していたとしてもデータ改ざんなどの不正が行いづらい仕組みとなっている。これまでの仕組みではユーザーはサービス利用者の立場であり、データの管理を信頼のおける特定の企業等に委ねてきた。一方、ブロックチェーンの仕組みのもとでは、ネットワークに参加するユーザーである個人・組織は、サービス利用者の立場だけではなくネットワークの維持やサービス提供者の立場としてネットワークに参加することができる。このように特定の一組織に依存せずともサービスが成り立ち、ネットワーク参加者の自由な活動のなかで、オンライン上で様々なサービスが実現できるところがブロックチェーンの大きなメリットだ。

図1 従来のサービス利用のイメージ(左)とブロックチェーンを活用したサービス利用のイメージ

 片岡氏は「現在ではブロックチェーンを応用した多様なユースケースが出てきています」と言い、表1に示すような代表的なユースケースを示した。

表1 ブロックチェーンの代表的ユースケースの例
(注)「トークン」はブロックチェーン上での発行や流通等が可能なデータの総称である。トークンに対して特定の価値・性質を紐づけることで様々なユースケースの実現が考えられている。例えばビットコインやイーサリアムなどの各種ブロックチェーン上の「暗号資産」も広義ではトークンと呼ばれる。

「こうしたユースケースは、3つの類型で考えることができます」と片岡氏。

・価値交換タイプ
ブロックチェーン上で流通可能なトークンを発行し、そのトークンに資産性を問わず特定の価値を付与し、ユーザー間で交換を行う。(送金・決済、トークン化した有価証券やゲームのアイテムの交換等)

・データの真正性担保タイプ
例えば資格証明、サプライチェーン情報記録(トレーサビリティの確保)、個人情報記録などのように、データが改ざんされるリスクを排除し、真正性を担保して保管するもの。

・組織間での情報共有タイプ
各組織で独立して管理していた取引情報等のデータをブロックチェーン上で共有して管理することにより、業務効率を高めることができる。

 また、坂本健太郎氏は、取引の透明化や合理化だけではないブロックチェーンの活用法についてこう語った。

「例えばデータの真正性が担保できる特徴を活かせば、小売業で産地偽装を防ぎたい場合に、生産者から店舗までのサプライチェーン情報をブロックチェーン上に記録していつでも経路をトレースできる仕組みを作れます。製造業でも不良品発見時の発生原因特定に役立ちますし、生産にかかわるCO2排出量を生産工程すべてにわたって改ざん不能な記録として管理することができます」

 上記のような流通や企業活動での事例は思い浮かぶ人も多いだろう。ブロックチェーンを活用することで新たな付加価値を生むことが期待される事例もあるという。

技術開発本部 先端技術研究部
坂本 健太郎氏

「ブロックチェーン技術を用いることで、ユーザー自身の個人情報やライフログを必要な相手に対して必要な情報だけ開示することもできます。例えば、ボランティア活動やふるさと納税などユーザーが愛着を持つ地域に対する活動履歴を自治体に開示することで、自治体がその情報を活用してユーザーとのつながりを維持・深化させるような仕組みを作ることができます。これは地方自治体が地域外にファンを増やすファンマーケティングに有効だと考えています。また同様に、個人の保有する免許や資格など客観的に証明できる情報に加えて、就業記録や講演・講師を行った活動など各組織に帰属する情報をブロックチェーン上で共有・管理することができれば、就職や転職などの際に選択的に開示する仕組みも考えられます。これまでは流通させることが難しかった数字やお金で換算することができない価値を可視化し、オンラインで相手先に伝えられることも、ブロックチェーン活用のメリットだと思います」(坂本氏)。

02 多様な
ブロックチェーンを連携する
クロスチェーン技術を追求

 上掲のようなユースケースを実現するには、当然既存の情報システムとの連携が必要となり、モダナイゼーション志向で全体設計を行うことになる。そのときに、目的を実現しやすいブロックチェーンは何か、場合によっては複数のブロックチェーンを併用・連携していく中で、どう組み合わせることが最適なのか、既存システムとどのように連携・協調するのかなどアーキテクチャを検討することが重要である。

 片岡氏は「既存の情報システムとの連携に関しては、API開発などに関する知見を活かし実務への適用を行っています。また、ブロックチェーン同士の連携技術を『クロスチェーン』技術と呼びますが、新しい領域だけに世界では様々な手法が提案されています。その一部が実用化されていますが、各手法の特徴を生かしてどのように適用していくかは難しい問題です」と語った。

 その難しさを坂本氏は次のように語った。

「世界には様々な種類のブロックチェーンがありますが、ネットワーク参加者が取引内容に合意して取引データを保管する仕組みがブロックチェーン毎に異なります。クロスチェーン技術の難しいところは、取引内容の合意やデータ保管の仕組みが異なるブロックチェーン同士をいかに連携できるかという点ですね」。

 少し説明すると、現在は図2に示すような各種のブロックチェーンが併存している。ビットコインやイーサリアムのような誰でも参加できるブロックチェーンを自由参加型(Permissionless型)と呼ぶが、限られたメンバー組織や企業からなるコンソーシアムによって運営されるブロックチェーンである許可型(Permissioned 型)もひしめいており、その基盤上には各種サービスが提供されている。このような多様なブロックチェーンやサービスは世界各国で続々登場している状況にあり、ブロックチェーン市場は急速に拡大してきている。

 その多様なブロックチェーン間では、例えば図3のように、証券取引をあるブロックチェーンで行い、決済は別のブロックチェーンで実行するといった仕組みを、両ブロックチェーンの連携によって自動化して速やかに完結させることができるようになってきている。

図2 各種併存するブロックチェーン
図3 異なるブロックチェーン上で提供される送金・決済と証券取引とを連携

 坂本氏は「当社では、様々なユースケースに適用可能だと考えられる有力なクロスチェーン技術を保有する企業やエンタープライズ向けのブロックチェーン技術・製品を提供する企業と連携してブロックチェーン間の連携手法を研究しています。ブロックチェーン間連携が実現できれば、ブロックチェーンを跨いでも各々の特徴や利点を損なうことなく各種サービスを組み合わせて新しい便利なサービスが提供できるようになりますし、連携による自動化によって取引にまつわる関連業務を削減できる可能性も大きいと考えています」と語った。

03 新たなユースケースを生む
先端技術で
未来の変化に備える

 先端技術の中でもブロックチェーン技術を追求する姿勢の裏にはどんな意思があるのだろうか。

「ブロックチェーンは、ユースケースによってはドラスティックな変化をもたらす可能性を秘めています。ビジネスを構造的に変えるだけの力があるので、どのようなユースケースを想定するかがとても興味深いです。また、既存技術の開発支援や技術検証では、基盤サイドの視点でアドバイスを行う場面が多く、ビジネスロジックやユーザーであるお客さまとはやや距離がある関係性でした。一方、ブロックチェーンはこれまで以上にビジネスに密接したテクノロジーであると考えており、よりビジネスに近いところで私たちの技術的な知見をコアにした価値提供を行えることにやりがいがあります」と片岡氏は語った。

 坂本氏も「テクノロジーでビジネス構造を大きく変えられることに最もやりがいを感じる」と話す。

「変化をどう受け止めるかは人によりますが、ブロックチェーンはこれまでとは異なる選択肢を示すことができます。一般にブロックチェーンへの興味・理解は様々ですが、ブロックチェーンに可能性を感じて何かを実現したいと思っていたり、具体的なビジネスアイディアを持っていたりするビジネスパーソンは多くいらっしゃいます。私たちはユースケース企画段階から実証段階など幅広いフェーズで新しいチャレンジを行う方々と共に取組みを行ってきています。アイディアを一緒に考えたり、アイディアの技術的な実現方法・アーキテクチャを提案したり、自ら開発も行っています。お客さまと共に試行錯誤し成長しながらアイディアを形作っていくことにやりがいを感じます」(坂本氏)

 ブロックチェーンはキーワードとしては一般に浸透しているが、実際にどう使えばビジネス・社会課題に対する新たなソリューションとなりうるかはまだまだ理解が進んでいない。みずほリサーチ&テクノロジーズではすでに実ケースへの適用実績をもち、様々なユースケースへの適用を支援しながら、更なる進化・発展に向けてブロックチェーン連携の最適手法の探索等をしているところだ。今後の事例報告を注視したい。

【研究開発員紹介】

片岡 正輝氏(ITアーキテクト/先端技術領域専門)
 大学で応用化学を学ぶなか、ITに興味をもってSEとして当社に入社。銀行向けシステム開発に従事後、現部署に異動。先端技術の調査研究ほか、実案件への技術支援を行いアーキテクチャ設計の範囲はAI、API、クラウドネイティブ、ブロックチェーン等多岐に亘る。技術人材の育成にも従事しており「自身が育成に携わった社員の活躍を耳にすることが自分のことより嬉しいです」とのこと。

坂本 健太郎氏(ITアーキテクト/ブロックチェーン関連等の先端技術領域専門)
 大学では政治や経済を学びモノづくりに憧れて入社。以来先端技術研究部に所属し、モバイル、オープンAPI、ブロックチェーンなど時代にあわせた先端技術の研究開発や案件支援、人材育成に従事。UX/サービスデザイン手法の普及推進にも携わり、同手法を用いて先端技術を活用したビジネスアイディアを形にすることに取り組んでおり、新しい技術を追求することや技術によるビジネス・社会の変化に携われることにやりがいを感じている。

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