現在のコンピュータでは数億年かかるような処理を数秒〜数分で実行できると期待されているのが「量子コンピュータ」だ。とてつもない処理能力を実現する基礎になるのが超微細な「量子」の世界で起きる物理現象である。みずほリサーチ&テクノロジーズには、こうした先端的な科学技術の発展による社会創造の可能性を展望し、基礎研究を地道に続ける研究者たちがいる。
未来の社会を豊かにするための
量子コンピュータ技術とは
量子コンピュータ技術とは
「よりよい未来を創るために、科学の知見をベースにして現実社会の課題解決を図るのが私たちの使命です」と語るのはサイエンスソリューション部の谷村直樹氏だ。
「そのためにはまず社会現象の背後に必ずある物理現象を数理モデルで説明できなければなりません。数理モデルが確立すれば、世の中で起きる現象の数値解析が可能になり、未来に起きるであろう現象を予測し、対策をとることができます。」
みずほリサーチ&テクノロジーズでは、50年以上の長きにわたり、物理現象の数値解析に取り組んでおり、現在では、材料化学、バイオ、創薬、防災、社会インフラ、自動車、燃料電池など多くの分野で大学、企業や官公庁などに解析エンジニアリングや伴走コンサルティングとして技術提供しているという。
「エンジニアリングや研究開発を委託していただく大学、企業・官公庁の皆さまと共に、未来社会の創造に貢献できる技術の基礎研究と応用研究を長年続けてきました。
「そのためにはまず社会現象の背後に必ずある物理現象を数理モデルで説明できなければなりません。数理モデルが確立すれば、世の中で起きる現象の数値解析が可能になり、未来に起きるであろう現象を予測し、対策をとることができます。」
みずほリサーチ&テクノロジーズでは、50年以上の長きにわたり、物理現象の数値解析に取り組んでおり、現在では、材料化学、バイオ、創薬、防災、社会インフラ、自動車、燃料電池など多くの分野で大学、企業や官公庁などに解析エンジニアリングや伴走コンサルティングとして技術提供しているという。
「エンジニアリングや研究開発を委託していただく大学、企業・官公庁の皆さまと共に、未来社会の創造に貢献できる技術の基礎研究と応用研究を長年続けてきました。
その歴史の中で、いくつもの軸で深い知見と技術を磨くことができたことが、我々の強みとなっています。なかでも最先端の量子コンピュータの研究は、幅広い領域に亘る社会課題の解決策を迅速に見出す基礎技術になると考えています」
谷村氏はこれまでに物性シミュレーションやマテリアルズインフォマティクス、創薬などをはじめとする様々な分野で研究開発をリードしてきており、現在では燃料電池開発に必要なシミュレーションシステムも担当するチームを率いている。その経験から「より精密な計算を行うには量子物理学に基づく方程式が必要です。しかしその計算コスト(=計算時間)は増加する一方です。量子コンピュータには桁違いの計算能力が見込まれ、極めて精緻な解析・シミュレーションを様々な領域で迅速に実現できると期待しています。特に脱炭素社会、水素エネルギーを利用する未来の水素社会の実現に寄与するところも大きいのではないかと思います」と語る。
大きな期待が寄せられる量子コンピュータの研究を担うのは同部の宇野隼平氏だ。宇野氏は東京大学の客員教授としてサスティナブル量子AI研究拠点の副プロジェクトリーダーも務める同領域のトップランナーの1人である。
大きな期待が寄せられる量子コンピュータの研究を担うのは同部の宇野隼平氏だ。宇野氏は東京大学の客員教授としてサスティナブル量子AI研究拠点の副プロジェクトリーダーも務める同領域のトップランナーの1人である。
宇野氏は「技術開発部門は先端技術をプロダクト化するのがミッション」だと語る。
「量子コンピュータは、既存のコンピュータで多く時間を要する特定のタスクにおいて、既存のコンピューティング技術を凌駕するポテンシャルを持っています。例えば、材料・創薬領域では量子力学を応用した計算により、新材料や新薬の開発を加速する可能性があります。機械学習では、現在は大量のパラメータを持つモデルを多くの計算時間を費やして学習していますが、量子コンピュータにより、圧倒的に学習時間を減らせることで、更に大規模で精度の高いモデルが構築できるかもしれません。また流体シミュレーションなどのなかなか正確な予測ができていない領域でも量子コンピュータにより、従来よりも精度の高いシミュレーションが可能になることで、台風や津波な
どの自然災害の予測精度の向上や、防災対策の強化に貢献する可能性があります。量子コンピュータの応用はまだ始まったばかりですが、未来の技術革新に大きなインパクトを与える技術の一つになると思っています。」
宇野氏は「技術開発部門は先端技術をプロダクト化するのがミッション」だと語る。
「量子コンピュータは、既存のコンピュータで多く時間を要する特定のタスクにおいて、既存のコンピューティング技術を凌駕するポテンシャルを持っています。例えば、材料・創薬領域では量子力学を応用した計算により、新材料や新薬の開発を加速する可能性があります。機械学習では、現在は大量のパラメータを持つモデルを多くの計算時間を費やして学習していますが、量子コンピュータにより、圧倒的に学習時間を減らせることで、更に大規模で精度の高いモデルが構築できるかもしれません。また流体シミュレーションなどのなかなか正確な予測ができていない領域でも量子コンピュータにより、従来よりも精度の高いシミュレーションが可能になることで、台風や津波などの自然災害の予測精度の向上や、防災対策の強化に貢献する可能性があります。量子コンピュータの応用はまだ始まったばかりですが、未来の技術革新に大きなインパクトを与える技術の一つになると思っています。」
そもそも
量子コンピュータとは何か、
どこまで開発が進んでいるのか
量子コンピュータとは何か、
どこまで開発が進んでいるのか
さて、社会的にも大きな期待が寄せられている量子コンピュータとはどのようなものなのだろうか。量子の世界の難解な話は抜きにして、現在の研究開発の状況を概観してみよう。
量子コンピュータに関する情報は、異なる仕組みや目的をもった研究であっても同じ量子コンピュータという言葉で括られることもあり、混乱しやすい。まず理解しておきたいのは、量子コンピュータには2種類があるということだ。
1つはみずほリサーチ&テクノロジーズが注力し、多くのシステムベンダーやベンチャー企業が開発に拍車をかけている「量子ゲート方式の量子コンピュータ」だ。これは汎用的に利用でき、現在のコンピュータ(古典コンピュータとも呼ばれる)と同様の処理をさせても、一部のタスクに関しては、超高速に(圧倒的に少ないステップ数で)処理が行えることが期待されている。
もう1つは「量子アニーリング方式の量子コンピュータ」(量子イジング方式とも呼ばれる)だ。こちらは汎用ではなく、「組み合わせ最適化問題」の解決に特化したものである。
量子ゲート方式の量子コンピュータは、IBM、Google、マイクロソフトなどが開発を推進中で、現実の課題解決に向けて性能を向上させる技術開発が精力的に行われている。従来のコンピュータとの違いは、「ビット」の代わりに「量子ビット」を用いるところだ。量子ビットは、量子の世界でのみ起きる「量子力学的重ね合わせ」と呼ばれる現象を利用し、0と1の両方の値を一度にとれる。例えば従来のコンピュータで4ビットの値をそれぞれ変えてすべての組み合わせを処理するとしたら16回の計算が必要になるが、4量子ビットを利用して同じ処理をすると一度だけの処理ですべての結果が出る。この特徴を応用すれば、扱える量子ビットが多くなればなるほど、複雑な計算処理でも処理時間は指数関数的に減少していく。つまり量子ビットの数が増えるほど処理が高速化していくというわけだ。
現在はIBMが1000量子ビットを超えるマシンを開発しており、2029年には1億量子ビット超のシステムを実現するというロードマップを描いているところだ。IBMやGoogleなどは超伝導素子を用いた技術で量子ビット拡張を進めているが、他のメーカーもそれぞれ独自の方式で大規模化を進めている。ただし方式にもよるが量子効果が発揮できる時間が短いこと、ノイズが混じりやすいことなどの障壁があり、なかなか実用化には行き着いていない。
一方の量子アニーリング方式の量子コンピュータは2011年にカナダのD-Wave社が「世界初の商用量子コンピュータ」を唱った商用機「D-Wave One」により世界の耳目を集めた。現在は5640量子ビットにまで拡張されているが、前述のように組み合わせ最適化問題に特化していることと、実課題になかなか適合しない面もあり、利用可能性は限定的だ。
宇野氏は「量子ゲート方式は様々な分野への応用が期待でき、東大が運営する量子イノベーションイニシアチブ協議会(QII)ではIBMの実機を導入して研究を加速させています。研究では量子力学や計算科学、統計学などの知見ももとにして仕組みを理解し、どう活用できるかを考えています。現在の量子コンピュータは演算などの影響によりノイズが必然的に混入するため、ノイズをどう低減・処理するかのアルゴリズム開発が伴わなければ活用はできません。私はこれまでにノイズを回避する新しい方法を継続的に開発・発表してきました。特に、金融業界でデリバティブの価格計算やリスク評価でよく使われるモンテカルロ計算を量子コンピュータでより高速に行うアルゴリズムの開発で特許も取得しています」と語る。ハードウェアの開発競争の傍らで、それを利用して現実課題をどう解決できるのかを宇野氏は追求しているのである。
ともすれば遠い未来の夢に聞こえる量子コンピュータだが、国内外のグローバルな研究機関や技術者が切磋琢磨しながら近づきがたい量子の世界を現実社会の課題解決に役立てるために身近なところに引き寄せようとしているのが現在の状況のようだ。
量子コンピュータを
はじめとする
科学技術研究の楽しみとは?
はじめとする
科学技術研究の楽しみとは?
みずほリサーチ&テクノロジーズでは、多岐に亘る分野のプロフェッショナル集団が日々研究開発に取り組んでいる。サイエンスソリューション部では、特に科学技術分野における高い専門性をもつメンバーが多いというが、そのような環境で、どのようなことに楽しみを見出して働いているのだろうか。
谷村氏は次のように語る。
「我々は、多くの研究機関をお客さまとして先端的な技術研究やエンジニアリングを行っていますので、様々な業界の最先端の知見を、業務を通じてキャッチアップできるのが当社で働く喜びの1つです。さらに基礎研究分野では専門分野の研究者が集う技術的コンソーシアムをつくりやすく、所属組織の壁を超えた研究者のネットワークができることも楽しいところです。しかも使命感をもって研究開発プロジェクトに携わった仲間として、強い絆も生まれますので、同志として互いを高め合いながら共にキャリアを積みその分野での自分や当社のプレゼンスが高まっていくことを感じることがあります。」
基礎研究は一朝一夕に成果がでるものではないため、研究者の強い信念と企業が後押しする風土が必要だといわれるが、どのようにモチベーションを維持し成果に繋げてきたのだろうか。
「私たちの部門で燃料電池シミュレーションの研究開発を始めてから20年経ちます。水素が燃料として重要になり燃料電池シミュレーションが鍵となるというアイディアをおそらく初めて提案したのは私たちの部のメンバーです。その後NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)などによる国家的な取り組みにも携わってきました。そのような産業技術政策にも貢献できるのも研究開発業務の醍醐味です」
宇野氏はこう語る。
「量子コンピュータの応用研究をするには、物理学や量子計算の基本的な研究だけでなく、金融などの実用的な分野の知識も不可欠です。私たちの強みは、多様な業界の技術や課題を深く理解し、広範な知識を持って、一つの技術や応用分野に限定されず、俯瞰的な視点から研究開発を行えることです。例えば、メーカーの研究所では自社製品に関連のない研究は後手に回されがちですが、当社の場合だと全体の研究状況を俯瞰的に見ながら、特定の技術領域に留まることなく、社会に貢献できる部分に積極的に取り組んでいくことができます。これは私自身のことばかりでなく、当社の研究部門全体に言えることではないかと思います。」
みずほリサーチ&テクノロジーズの研究開発部門では、技術潮流を先読みしながら研究者自らが、研究テーマを選定し事業として広げていくサイクルができているという。
「当時は原子力関連の研究でしたが、入社後すぐに自分のアイディアが通り、物理現象を数理モデル化して技術検証できたのは感激的な出来事でした。入社した2011年はちょうど福島第一原子力発電所事故が起きた年で、社会から科学的な説明が強く求められている時期でもあり、科学技術が人間生活にいかに重要かを考えさせられました。当部は科学技術が中心の業務ですが、当社では金融をはじめいろいろな領域の知見を使った業務が行われています。そのような幅広い知見があればこそ、ある技術がどう役立つのかを考えることができます。技術力で何かの課題を解決できたら、その技術を別分野・別産業にも適用・展開していけます。それができるのが当社の研究開発環境だと考えています」
最先端の専門性の高い研究開発を仕事にしていながら、目線はあくまで社会を向き、どうすれば未来を豊かにできるのかを追求しているのがみずほリサーチ&テクノロジーズの研究者たちの姿だ。量子コンピュータ実現の後、どのような社会変革が起きるのか、ワクワクしながら事業を見守りたい。
【研究開発員紹介】
谷村 直樹氏(技術開発本部 サイエンスソリューション部 次長)
幼少期に工学博士のかこさとし氏が書いた「科学者の目」を読んで科学の楽しさに気づく。
そのころから科学、特に物理科学者になりたいと思っていたところ物質の根源を説明したいと素粒子論を研究していたとき、先輩が勤めている当社に興味をもって入社。経験のない様々な分野の知見に触れることができる環境に身をおくことを今も楽しんでいる。
宇野 隼平氏(技術開発本部 サイエンスソリューション部 上席主任コンサルタント)
百科事典を読み耽る小学生時代から本好きで、特に科学の本が好きだった。計算を遊びにしていた少年は当然のように理系の大学へ。
「素粒子論に興味をもって研究していた大学院生時代(2008年)に、益川敏英先生(故人)がノーベル物理学賞を受賞されました。実は当時、受賞をお祝いする新聞記事に私も一緒に写っており友人たちから連絡を貰いました。嬉しかったですね。」それ以来、自分の物理の知見を社会の広い分野に使いたいと考えるようになり、当社に魅力を感じて入社。