一般紙やテレビでも見かけることが増えてきたキーワード「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」。資源の有効活用と循環的な利用を両立させるだけでなく、商品やサービスの付加価値を最大化しようとする、新しい経済の在り方だ。国としてまた企業としてこのサーキュラーエコノミーへの移行をどのように実現させるのか。その道筋を、みずほリサーチ&テクノロジーズのコンサルタントが支えている。
官公庁と民間企業の
プラン策定と分析を支援
プラン策定と分析を支援
作って売って終わり、買って使って廃棄して終わり。そうした従来型の直線的経済に対し、サーキュラーエコノミーは資源の循環の上に成り立つ。注目されるようになったのは、2015年にEUが海洋廃棄プラスチックやフードロスにも触れた循環経済行動計画を発表したのがきっかけだ。無駄遣いしない、再利用するといった既知の概念にこの分野での雇用創出といった経済政策が紐づけられたことで、グローバルな関心が高まった。
「実は日本は、世界に先駆けて資源循環への取り組みを進めていました。環境省が最初に循環型社会形成推進基本計画を発表したのは2003年で、現在は、2018年に策定された第4次循環型社会形成推進基本計画の実施期間にあたります」
そう話す水上碧氏は、これまで環境省の複数の計画策定を支援してきており、第4次循環型社会形成推進基本計画でも策定支援に深く関わってきた。こうした計画には、施策が機能しているかどうかを確認するための指標が必要だ。財務的な指標であれば売り上げや利益、気候変動の分野なら温室効果ガス排出量が主な指標に当たる。では、サーキュラーエコノミーの場合はどうなのか。
そう話す水上碧氏は、これまで環境省の複数の計画策定を支援してきており、第4次循環型社会形成推進基本計画でも策定支援に深く関わってきた。こうした計画には、施策が機能しているかどうかを確認するための指標が必要だ。財務的な指標であれば売り上げや利益、気候変動の分野なら温室効果ガス排出量が主な指標に当たる。では、サーキュラーエコノミーの場合はどうなのか。
「資源生産性、循環利用率、最終処分率が3大指標と言われています。しかし、世の中の変化に合わせた新たな指標も必要になります。また、森林面積のような、5年間であまり変化がないものを指標としてしまうと、効果が分かりにくいという問題が生じます」
そこで、研究所や大学に所属する有識者の意見を聞きながら適切な指標を設定していくことになる。第4次循環型社会形成推進基本計画では指標の数は100以上に上っており、現在は、それぞれの指標の分析と並行して、2024年度からの第5次循環型社会形成推進基本計画のための指標づくりを支援している。
経済産業省も2020年に循環経済ビジョン2020、2023年に成長志向型の資源自律経済戦略を策定済みで、制度の整備や産官学の連携などを進めている。この過程では、他国の状況や最先端事例を踏まえ、日本としてどのような方針を取るかを決める必要がある。
経済産業省も2020年に循環経済ビジョン2020、2023年に成長志向型の資源自律経済戦略を策定済みで、制度の整備や産官学の連携などを進めている。この過程では、他国の状況や最先端事例を踏まえ、日本としてどのような方針を取るかを決める必要がある。
「新たなルールがどのような影響をもたらすのかを定量的なモデルやシナリオを使って分析し、検討を支援するのも私たちの仕事です」と佐野翔一氏は説明する。その佐野氏は民間企業の支援も行っている。
「新たなルールがどのような影響をもたらすのかを定量的なモデルやシナリオを使って分析し、検討を支援するのも私たちの仕事です」と佐野翔一氏は説明する。その佐野氏は民間企業の支援も行っている。
「カーボンニュートラル実現のための手段としてサーキュラーエコノミーをどのように実現するか、また、サーキュラーエコノミーへの移行によって、自社製品の製造に必要な資源がどの程度確保できるかといったご相談が多いです。体制構築のために具体的なこの企業と組みたいといったご相談もあります。その場合には企業理解を深めるため、みずほグループのネットワークを活用しています」
絡み合っているものを
解きほぐすところから始まる
解きほぐすところから始まる
多くの企業は、他社と連携することを前提にサーキュラーエコノミーへの移行を目指している。一社だけでは実現できないからだ。
「たとえば、自宅の家電製品が壊れて交換したとします。廃棄された家電製品はどこへ行くのか。現状でも、ユーザーはもちろん、メーカー側も把握していないケースがあります。ですから、自社に戻す、すべてを戻さないとしてもそこから資源を取り出す体制を、他の企業と組むことで構築しようとする企業が増えています」(佐野氏)
大きな課題だからこそ、大勢での解決が必要なのだ。ただ、関わる関係者が多ければ多いほど、調整は複雑になる。
「それぞれの文化が違う中、どのように共通のルールを作り、リスクをシェアするのかが争点になります」
企業の取り組みの指針となる国の基本計画の策定支援をするうえでも同様のことが言える。
「多くの主体が関わることになるので、それぞれに気持ちよく行動していただけるようなものにする必要があり、調整事項は多いです。新たなご意見を聞くたび『対応しなくては』となってしまいがちです。しかし、一見異なることを主張しているようでも、プラスチックの廃棄を減らしたいというような要点は一致しているということもあります。そうしたとき、絡み合っているものを解きほぐし、真摯に話を伺いながら合意を得ていくのが“調整”という仕事だと思っています」(水上氏)
そうした仕事をする上での資質は、十分な知識に加えて「いろいろなものを受け止める力」だと水上氏は言う。
「大きな計画を作るとなると、把握すべき対象が広く、一人ではとてもカバーできません。有識者の方に助けていただくことも多く、そのためにも、人間関係やコミュニケーションは最も大切にすべきことだと思っています」
佐野氏も「受動的であっては情報収集に限界があります。ですからネットワークは重要です」と言う。「また、収集した情報を咀嚼することも必要で、そこでも、お客さまや有識者の方々との意見交換が欠かせません。コンサルタントとしてはそうした姿勢が求められていると思っています」
簡単ではない仕事だけに、やりがいも格別だ。社会課題の解決に貢献できるだけでなく、刺激される好奇心を成長への糧に変えられる。
「サステナビリティ分野はここ数年で大きく盛り上がっている分野でもあり、次々に新しいテーマ、過去にはなかった論点が生まれます。お客さまも広がっていて、それぞれのお客さまに求められる役割、アプローチを変えて一つひとつの案件に取り組めるところに面白さを感じています」
水上氏も、様々な分野の最先端に触れられること、そして「完全に裏方」だからこそ見られる景色に喜びを感じるという。
「地道に色々なデータを集めても使われるのはほんの一部であったり、当社の名前は前に出なかったりもします。けれど、お客さまと検討した結果が成果に結びついたり、お客さまから『そこには気付いていませんでした』と言っていただいたりすると、一緒にひとつのものを築いているんだなと実感できます」
サステナビリティには
統合的で長期的な
解決策があるはずだ
統合的で長期的な
解決策があるはずだ
2人はこれまで複数回、社内の「チャレンジ投資」の制度を活用し、自ら仕事の幅を広げてきた。チャレンジ投資とは、若手育成、新規事業開拓、グループでの共創につながる活動に資金支援するもので、みずほリサーチ&テクノロジーズのコンサルティング部門独自の制度だ。
ここでの佐野氏の過去の実績は、現在の民間企業向けのサービスにつながっている。水上氏は現在もこの制度を利用中。目指しているのは、分野を超えた民間企業と有識者による勉強会を実施し、議論した内容を用いて社会にサステナブル分野の統合的な評価の重要性を発信することだ。
「サステナビリティを統合的に考えるための勉強会です。この分野は取り組みが進めば進むほど『確かにリサイクルできるけれど、そのために大量のエネルギーが必要になる』『プラスチックを使うことで、ほかの廃棄物を減らせる』といったトレードオフが出てきます。そして、どちらを優先させるかは企業によっても異なるはずです。すでに多くの企業と有識者はこの問題を認識していますし、私自身もそう思ってきました。そのために一歩進む機会がチャレンジ投資によって得られたことにとてもやりがいを感じていますし、一石を投じられればと思っています」
水上氏は当面、この勉強会と、勉強会を踏まえたシンポジウムの開催と第5次循環型社会形成推進基本計画の策定支援に尽力することになる。
「環境基本計画、地球温暖化対策計画、そして循環型社会形成推進基本計画。これらに関わったコンサルタントは、みずほリサーチ&テクノロジーズの上司と私くらいかなと思っています。そのバックグラウンドを生かし、複合的な課題解決のパートナーとなることを目指します」
学生時代は都市と化学物質の関わりについて研究し、より実生活に近いところに関心を抱いてこの仕事を選んだという佐野氏も「本来、サステナビリティには長期的な解決策があるはずだと思っています」と言う。
「もともと取り組んできた政策関連の仕事を引き続き担い、最近増えている、民間企業のお客さまの課題解決も支援していきたいと思っています」
サステナブルな社会の実現に向けたサーキュラーエコノミーへの移行という歴史的変革を、みずほリサーチ&テクノロジーズのコンサルタントが支えている。