情報通信分野の技術は、進化の速度が速く、他分野の技術との組み合わせも多様である。企業の研究所にせよ、国の研究機関にせよ、内部のリソースだけでは、この速度や多様性に対応するのが困難になりつつある。みずほリサーチ&テクノロジーズでは、情報通信分野の様々な技術のプロフェッショナルが、お客さまと共に試行錯誤を繰り返しながら、研究開発を前進させている。
研究開発のプロに
期待されること
期待されること
お客さまの多くは、企業の研究所や国の研究機関の研究者や技術者だという。そうしたお客さまの課題を解決し、達成したいことを実現するためには、同等かそれ以上の知見や技術を身に付けていることはもちろんのこと、課題を整理し、優先順位を見極める技量が必要となる。さらには、品質・コスト・期間を鑑みながら、対価に見合う達成基準の合意をとる提案力や交渉力も必要だ。特に研究開発は「やってみないと分からない」ことが多く、必ずしも当初の目論見どおりに成功するとは限らない。そのため、お客さまの指示を待っているだけではなく、積極的にアイデアを出して自ら試行錯誤を繰り返す姿勢が求められる。研究者、技術者の要素に加えて、コンサルタントとしてお客さまをリードすることも信頼され続けるプロには必要である。
「私たちが、企業の研究開発部門や、大学や国の研究機関と違うのは、私たちは、お客さまの達成したいこと、解決したいことを実現するために研究開発をしているという点です。お客さまと何回もキャッチボールをしながら、課題や解決策を見極めていくコンサルティングの要素が多分にあると思います。
「私たちが、企業の研究開発部門や、大学や国の研究機関と違うのは、私たちは、お客さまの達成したいこと、解決したいことを実現するために研究開発をしているという点です。お客 さまと何回もキャッチボールをしながら、課題や解決策を見極めていくコンサルティングの要素が多分にあると思います。そして最終的には、私たちの出した成果に対して、お客さまの満足が得られるかというところが研究開発を行う上で非常に重要です」
そう語る水谷氏は、信号処理分野の専門家として、様々な顧客の課題解決を実現してきた。
そして最終的には、私たちの出した成果に対して、お客さまの満足が得られるかというところが研究開発を行う上で非常に重要です」
そう語る水谷氏は、信号処理分野の専門家として、様々な顧客の課題解決を実現してきた。
専門性を掛け合わせることで
課題解決を加速
課題解決を加速
水谷氏は、建設業のお客さまとともに、トンネルなどのコンクリート構造物の欠陥をより簡単により正確に検査する手法を開発したことがある。
「職人の方がハンマーでコンクリート壁を叩き、音を聞いて欠陥を判定する方法があるのですが、検査をしたい構造物の数が多いため、人手が足りません。そこで、検査を省力化しながら高度化するために、弾性波トモグラフィを用いた手法を開発しました。もともとあった手法ではありますが、従来は、センサーとしてマイクが16個必要でした。そこで波形処理の方法を変えて新たに開発しました。この手法では、マイクの数を4つに減らしながら、より細かい欠陥が検出できるようになりました」
オフィス家具製造業のお客さまには、オフィスのどこにどの従業員がいるのかを把握できるシステムの共同開発を提案した。
「オフィスがフリーアドレス化すると、どの従業員がどこにいるのか分からないという課題が生まれます。それを何とか解決したいという案件でした。従業員には社員証以外に新たにセンサーを持たせたくないというご要望もあり、それが可能なシステムがまだないのであれば作りましょう、というところから始まり、AIを使い、監視カメラなどの映像から誰がどこにいるのかを把握する方法を提案しました」
ほかにも、画像分析によるソリューションを生み出している。技術によってドライバーの認知や判断、操作を支援し、安全を確保するシステムを搭載した自動車を先進安全自動車(ASV)と呼ぶ。そのASVに関する国土交通省のガイドライン策定にも関わった。
「ドライバーの正常挙動と異常挙動の閾値を把握するには、それぞれのデータが必要です。そこで、運転挙動の計測と分析の方法を提案しました。既存のシステムでは実現が難しいということで、では作るしかありませんねというところからスタートしました。成果はすでにASV推進計画第6期報告書にまとめられています」
一方、数理工学による社会課題の解決に貢献してきた小泉拓氏は、流体シミュレーションのプリ・ポストの開発からキャリアをスタートさせた。
「シミュレーションとはコンピュータ上での計算による模擬実験のようなものですが、計算をするには、実際の空間をコンピュータ上で再現する必要があります。そのためにコンピュータ上に格子またはメッシュと呼ばれるものを用意しなければならないのですが、さまざまなトレードオフを勘案しながら複雑形状の3次元メッシュを作成することは難しく、その道の職人が何ヶ月もかけて作成する場合もあります。そのような手間のかかるメッシュ作成を半自動化するプログラムを開発していました」
外部の研究開発機関に出向した5年目からは、AI・データサイエンス技術を流体シミュレーションへ適用しようと、流体力学の専門家と協業しながら研究開発に取り組んだ。
「複雑な現象から発生する騒音をシミュレーションした場合、どういったメカニズムで騒音が発生するのか、どの流れが重要なのか、どうしたら騒音を抑えることができるのかといったことを特定するためには、専門家による深い洞察が必要です。例えば、構造物が流体の中にあるとき、その後方にはカルマン渦と呼ばれる周期的な渦が発生することで、構造物の疲労や騒音につながることが知られています。私は、外部の研究機関とともに、円柱の後流におけるカルマン渦の制御問題を対象として、この頃に発達し始めたAI・データサイエンス技術のひとつである深層強化学習を試行しました」
深層強化学習は、Alpha Goが囲碁で人間に勝った事例などで脚光を集めた技術だという。
「より複雑な現象の制御を見据えて、新たな視点が得られるのではないかと思い、このような技術を活用し、その結果を学会等で発表しました」
出向先では、数理工学が専門の小泉氏の周辺は流体力学の専門家ばかりだった。
「最初は何もできず苦しんだのですが、そこに私の専門分野を掛け合わせることで協業が進み、私自身の立ち位置も確立できました。もともと、数学を使って社会課題を解決したいと考えてきましたが、それだけではなく、異なる分野の研究者の方々と一緒に難しい課題にチャレンジできる面白さを実感できたプロジェクトでもあります。現在では、幸いなことに、様々な分野の研究者の方々とご一緒する機会をたくさん頂いています。今後も、数理工学という私の専門分野は磨きつつ、柔軟に時流に乗りながら、その時々のお客さまの課題解決に貢献できればと思っています」
水谷氏も、「経験を重ね引き出しが増えると、これでうまくいくのではという複数のパターンが浮かんできます。それを一つひとつ検討して最適なものへ絞り込んでいきます。その過程で、私とは異なる専門分野を持つ上司や同僚と雑談のようなディスカッションをすることもあります」と語り、異なる専門家との協働により、新しい着想を得ることがあるとのことだ。
お客さまと共に
研究開発を進める醍醐味とは
研究開発を進める醍醐味とは
「先ほど、業務を進める中でコンサルティングの要素があると申し上げました。コンサルティングというと、机上で考えた計画段階のアイデアをお客さまへ提案するというイメージもあるかと思いますが、私たちの仕事では、実際に技術に触れ、その知見をもとにより実現性が高く社会事象に近い提案をしています。そうすることによって、より価値の高いコンサルティングや研究開発をお客さまに提供できると思っています」(水谷氏)
小泉氏は「研究開発部門は一般的にはコストセンターである場合が多いと思いますが、私たちはプロフィットセンターであり、自社の研究開発よりも、お客さまの研究開発を進めることがメインです。そのため、幅広い分野、テーマに柔軟に対応する必要があります」という。
「ですから、自分がしたいことだけをしていればいい職場とは言えません。しかし、お客さまのしたいことと自分のしたいことの重なる領域を見つけ、広げていくことはできますし、そのようにして自分の知らない世界を知り、視野が広がっていく楽しさを実感できるのはこの仕事ならではだと思います」
「研究開発力」という抽象的な概念に「価値に見合う価格」がつく仕事である。お客さまから必要とされ続けるためには、弛まぬ努力と研鑽が必要であり、常に新しいものを創造しようとする気概が求められる。その厳しさを乗り越えたときに味わえる達成感が、この仕事の醍醐味である。
【研究開発員紹介】
水谷 麻紀子氏(情報通信研究部 課長)
コンピュータビジョン・ロボットビジョン、移動体通信、データ解析、機械学習等を対象に主として論文・技術調査、論文実装、アルゴリズム開発、ソフトウェア開発などを行ってきた。現在は、AI人材育成や社内外講習、お客さまへのAI導入提案なども行っている。
学生時代の専攻は電気電子工学で、専門分野は無線通信。政策立案支援に興味を持ち入社するも研究開発部門に配属となり研究漬けの日々を送る。今は政策提言も技術的な裏付けをもって臨むことに意味があると考えている。
小泉 拓氏(情報通信研究部 課長)
修士課程修了後、博士課程への進学も考えたが「社会のことを知りたい」と思い入社。
格子、流体、構造、レーダー、自然言語、経済指標などを対象としたAI・データサイエンス技術の適用を通じて、学生時代の専門である数理工学の知識を活かしながら社会課題を解決したいという目標を叶えてきた。現在も、常に新しい技術に関心を持ち、様々な分野の研究者との協業を模索している。