働くひとの健康は、こうやって
パラダイムシフトを迎えた。
企業が創る5つの健康とは。

GUEST 株式会社iCARE 代表取締役CEO 産業医・労働衛生コンサルタント 山田 洋太氏
Sponsored by 株式会社iCARE
拡大画像表示
株式会社iCARE代表取締役
産業医・労働衛生コンサルタント 山田 洋太氏

健康経営やウェルビーイングなどの働くひとの健康創りは、企業として「やったほうがいい」取り組みではなく、「やらなければならない」取り組みへと変わりました。しかし、健康はもっとも多様なニーズのひとつです。持続的な事業成長という一つの目的のために、多様な従業員の、多様な健康ニーズにどのように応えていけるのか。経営と健康をつなぐ産業医であり、株式会社iCARE代表取締役CEOの山田洋太氏に、企業が創る健康の定義と人事部門に求められる健康戦略について話を聞いた。

労働者と使用者の
関係性が変わった。
これは不可逆な共存革命である。

10年以上、働くひとの健康に関わってきた中で、明らかに時代は変わったことを実感しています。それまで当たり前だと認識されていた思想や社会の価値観が後戻りできないほどに劇的に変化することを、「パラダイムシフト」と呼びます。働くひとの健康は、今まさにパラダイムシフトを迎えていると私は捉えています。
以前の価値観がどんなもので、これからはどのように変化しているのかを知るためには、過去に起きたパラダイムシフトを整理する必要があります。

拡大画像表示

第一のパラダイムシフトは農業革命です。約1万5千年ほど前、狩猟社会から農業社会へ移り変わりました。この変化によって人々はその日しのぎの生活から、穀物を貯蔵することで明日明後日の未来に時間を使えるようになりました。
第二のパラダイムシフトが産業革命です。18世紀後半、さまざまな技術革新によって産業の中心が農業から工業に移り変わりました。大量生産・大量消費による物的な豊かさを人々が感じるようになり、貨幣価値も高まりました。ここで労働者と使用者という関係性が生まれたのですが、当時は使用者が労働者を過酷な労働環境で酷使する現象が多発します。そこで労働法が整備され、使用者が労働者を守らなければならないという動きが各国で生まれたのです。
労働者と使用者の関係は、第三のパラダイムシフトである情報革命によって変化の兆しをみせます。情報革命では、これまで物理的な紙によって情報交換する社会が、デジタルデータによって情報共有する社会に変わりました。物質的な豊かさではなく、精神的な豊かさに対して幸せを感じる人々が増えてきました。 そして現在進行形で起きている第四のパラダイムシフトは何なのか。私は共存革命だと考えます。これまで対立構造にあったもの、たとえば環境と経済成長、人とテクノロジーが融合していく。そして当然ながら労働者と使用者の対立構造も変化を迎えます。

個人の特性と価値観が
職場に影響する時代

これまで労働者と使用者の関係は契約による縦関係です。使用者は労働者と契約を結ぶことで労働力を提供してもらい、対価として賃金を渡すという契約です。縦関係の場合、使用者が労働者の声を踏みにじることができてしまう社会でした。しかし、情報革命によって労働者ひとりの声が社会を味方につけることができるようになり、使用者は労働者を無視できない横関係に変わってきています。
縦関係から横関係に変わることで、企業にとってどんな影響があるのでしょうか。

拡大画像表示

共存革命以前の職場は、職場の一律なルールが最重要であり、働くひとの個性や価値観を揃えるために数多くのルールを決めてきました。就業規則を充実させ、健康に関するルールも厳格に定めることで、スピード高く生産性を高める環境が職場でした。一方、共存革命以後の職場では最小限のルールになってきます。働くひとの個性や価値観を活かすために、「仕事に人を合わせる」のではなく、「人に仕事を合わせる」環境として職場づくりが進みます。
働くひとの健康創りという面でも同様な変化が起きます。共存革命以前では、厳格で隙間のないルールによって労働者を守ってきました。法律によって安全と衛生が確保されていたので、企業としてはその他の健康を考える必要がなかったのです。ところが共存革命以後では、一律なルールベースでは職場から働くひとが離れていってしまいます。そのため安全と衛生にとどまらない多様な働くひとの健康を、企業自身が選択して取り組まなければいけないのです。

事業成長を支える5つの健康、
ファイブリングス

健康、と一口に言っても関連する言葉がいくつもあります。企業に関わるキーワードでいえば、ウェルビーイング・健康経営・ワークエンゲージメント・ヘルスプロモーションなどがありますが、iCAREではこれらの健康を5つに分類しました。

拡大画像表示

これをファイブリングスと呼びます。「安全と衛生」・「健康増進」・「働きやすさ」・「働きがい」・「生きがい」、これら5つの健康はいずれも企業が主語になって、「従業員の◯◯をつくる」と捉えてください。
ファイブリングスは、健康に関する企業アクションを整理できるフレームワークです。例えば、業務改善プロジェクトではPDCAによって施策や体制を整理するように、働くひとの健康を創るプロジェクトではファイブリングスによって制度や取り組みを整理してほしいのです。
ファイブリングスには2つの特徴があります。1つめの特徴は、健康創りの土台として「経営者のコミットメント」がある点です。言い換えれば、経営戦略・人事戦略に基づいて人・金・時間といった経営リソースを投下しなければ、健康と事業成長は結びつかないということです。2つめの特徴は、5つの健康の重要度は並列であり、それぞれの企業が選択できる点です。たとえば、健康経営ではピラミッド型のフレームワークがよく使われており健康創りに序列がついています。しかし私の経験では、5つの健康に優劣はありません。事業成長することを前提に考えれば、企業ごとにどれを重視して、どこから優先して取り組むかは選択できるのです。

従業員が企業から
離れてしまう要因は、
「嫌い」と「好きじゃない」

働くひとの健康を創るフレームワークであるファイブリングスは、ある中小企業での産業医活動から生まれました。今から7年前、従業員数は約200名ほどの電子部品を提供するこの企業にはカリスマ技術者が在籍しており、「自身の技術力を高めたい」「カリスマ技術者とともに働きたい」と働きがいに溢れて入社してくるような職場でした。しかし、産業医面談を続けていると長時間労働によって心と身体を壊してしまう従業員が目立ってきて、「私この会社が嫌いになってしまいます」「過酷な状況でもう働けません」という声があがっていたんですね。
それから5年が経ち、この企業は離職への対策に尽力されて、最高な働きやすさを実現した良い職場に生まれ変わりました。オフィスは隅々までキレイで、自動販売機にはヘルシーなラインナップが揃っている。企業として従業員の働きやすさを大切にしている姿勢が見えます。ところが、離職者数が減っていないのです。なぜでしょうか?産業医面談の中で従業員にヒアリングしてみると、「別に会社のことは嫌いではないけど会社の方向性が見えない」「他社のほうが自分にあってる、好きになったから転職します」と言うのです。ここでハッと気が付きました、従業員が企業から離れてしまう理由は過酷な労働環境だけではないことに。

拡大画像表示

私の気付きとは、従業員と企業の関係において「嫌い」と「好きじゃない」は独立因子なんだということです。その裏付けとして、臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグの『動機付け・衛生要因理論』があります。彼はひとが仕事に満足を感じる要因と不満足を感じる要因は別々であることを唱えています。つまり、従業員と企業の関係性を改善するには、嫌われない環境整備と好きになる制度設計の両面からアプローチする必要があるのです。
ファイブリングスには「嫌われない」と「好きになる」の視点が含まれています。5つの健康のうち左側には嫌われない環境整備が、右側には好きになる制度設計が並びます。
従業員の健康創りといえば、共存革命以前では嫌われない環境整備が中心でした。安全に事故がなく働けること、最低限の健康が確保できるように、法律や就業規則といった一律のルールで従業員を守っていました。一方で、共存革命以後では個人の特性や価値観を尊重した好きになる制度設計が求められています。仕事に熱中できるような働きがいや、プライベートを含めた生きがいを企業として応援するような制度も従業員の健康創りに含まれるのです。

押し付けにならない、
健康経営のあり方

これから健康経営をはじめる企業、あるいはウェルビーイングのための健康施策を考えている人事部の方は、一度立ち止まって見直してほしいことがあります。それは企業の価値観を優先した「健康の押しつけになっていないか?」ということです。
現在、日本では健康経営やウェルビーイング経営がブームの様相を呈してきています。経済産業省が顕彰する健康経営優良法人制度では「投資」や「生産性」といったキーワードが盛んに持ち出されており、企業としても従業員の健康に配慮する理由としてこれらのキーワードを掲げています。しかし、「投資」や「生産性」はあくまでも企業視点の価値観ですので従業員視点の価値観からすると、「なぜ会社から健康についてうるさく言われるないといけないのか」「健康管理は自分自身で十分にやっている」と反発を生み、結果的に勤務意欲の低下を招きかねません。

拡大画像表示

共存革命以前の考え方のままで、つまり職場の一律なルールで従業員の健康行動を促そうとしても、従業員は企業のことを好きになるどころか嫌いになってしまいます。一方で、昔の福利厚生のように従業員のニーズばかりを優先した制度設計では、持続的な事業成長にはつながりません。そのため景気の変動や感染症の流行といった外部環境の変化によって続かない取り組みになっていました。
共存革命によって企業と従業員が横関係に近付いてきたこれからは、企業の優先度と従業員のニーズを両立した健康施策に取り組んでいくことが重要になります。
そのために、今日ご紹介したファイブリングスを活用していただきたいのです。ファイブリングスの根底にある想いは、働くひとの健康を世界中に創ることです。働くひとが健康になれば、組織は成長します。健康を軸とした組織の成長は、社会を幸せにします。そして社会の幸せが、また働くひとの健康につながるのです。こうした好循環が当たり前の世界を実現できれば、こんなにうれしいことはありません。

ウィンドウを閉じる
TOPへ