「難しいことほど、
荏原が挑戦する価値がある」
100年企業に息づく
大学発ベンチャーのDNA

COMPANY: Ebara Corporation
Masao Asami, Director, President,
Representative Executive Officer
Sponsored by 荏原製作所

 100年を超える歴史を持ちながら、新規事業の開拓に注力する荏原製作所。それをけん引するのが、浅見正男代表執行役社長だ。同氏は、こうした荏原の挑戦はいまに始まったことではなく、もともと大学発ベンチャーとして創業し、そのDNAがこの会社に長く息づいてきたからだと話す。そして浅見氏は言う、難しくて新しいことこそ「荏原がやる価値がある」とーー

社長懇談会での会話に
インスピレーション

 社長に就任した2019年、浅見氏は従業員との社長懇談会で、国内9ヶ所、さらには海外拠点9ヵ所を回り、社員と話す場を持った。

「懇談会の場で、ある技術やアイデアを事業化してみたいと思いついた時に、誰に相談したらいいかわからない、という声を参加者から聞きました。当社は、2018年から事業開発推進に力を入れ始め、2019年に新規事業を創出するための次世代事業開発推進部を立ち上げた組織的な動きもあり、社内公募による新規事業アイデアコンペ『E-Start2020』の実施に繋がっていきました」

 2020年に実施された「E-Start2020」では、航空宇宙に関する提案をはじめ、入賞したビジネスアイデアはいずれも事業化に向けてプロジェクトが進行している。浅見氏が何より誇らしかったのは、新しいことをやろうとする荏原の従業員の熱い思いを確認できたことだ。

「合計120件の新規事業の提案が集まりました。また、900人もの社員が最終審査に進んだ9件のプレゼン動画を見て、事前投票に参加してくれました。やりたいことがある人も多ければ、それを応援したいという人もたくさんいたのです」

 E-Start2020だけではない。別の研修プログラムでは、水素に関する新たな事業提案が生まれ、陸上養殖への挑戦も始まるなど、次々と新しい事業領域を切り拓こうとしている。

 新しいことをやろうとする熱。それは「創業から先輩たちが続けてきたもの」だという。たとえば、創業の精神である「熱と誠」は、「与えられた仕事をただこなすだけでなく、熱意を持って創意工夫して、人のためになることを誠心誠意やる」というもの。

「創業者の畠山一清は、関東大震災が起きる2年ほど前、地震が来ると東京の水が途絶えると考え、みずから役所を回って備えの必要性を説いたそうです。ただ、誰も真剣に耳を傾けてくれなかった。そこで畠山は、8台ものポンプを自費で寄贈しました。その2年後に関東大震災が来たのですが、このポンプによって震災で止まってしまった水をわずか1日で復旧させることができたのです」

 新しいこと、困難なことでも、人のためになるならばやる。その積み重ねが荏原の歩みであり、「大型ポンプから汎用品の標準ポンプ、やがては廃棄物処理に関わる環境プラント事業や半導体の製造に関わる精密・電子事業へと広がっていった」と話す。

荏原製作所 代表執行役社長 浅見正男氏

なぜ新たな取り組みを
後押しするのか

 浅見氏もたくさんの「新しいこと」に対峙してきた。そしてそれが大切だと感じるからこそ、社員にも同じ経験をしてほしいと考える。

「社会人になると、学生時代の勉強では学べないことばかりです。日々、新しいことの連続です。いますぐにはそれができなくても、一生懸命学び、努力する中でできるようになる。その繰り返しが人を成長させます。“できて当たり前”のことを続けても、成長にならないですから」

 浅見氏は次のように続ける。

「私は、もともとは開発希望で荏原に入社したのですが、技術系の営業の担当になりました。しかも、相手は海外のお客さま。すべてが新しい体験でしたが、自分が知らない世界で経験ができるからこそ、面白いし刺激になるのです」

 1960年に生まれた浅見氏は、幼い頃から環境問題を身近に感じてきた。日々、公害のニュースが報道され、光化学スモッグの影響で、外で遊ぶことができない時もあったという少年時代の日々が記憶に残る。

「それが原体験となって、環境の技術に強かった荏原の入社動機につながっていったのだと思います。」

 工学部出身だったため入社当初は開発を希望していたが、化学に関する知見と英語も比較的得意だったことから、ポンプの海外営業を担当することになった。その後、荏原の中ではまだ歴史の浅かった精密・電子事業の半導体製造機器や装置を拡販するため、海外事業を担当するようになった。「8週連続12回出張ということもありましたよ」と懐かしそうに語る。

 半導体業界はスピードが速く、お客さまの要求も厳しい。遅れは許されない。しかもそのスピード感では「最初はうまくいかないことも多い」という。

 それでも、ストレスや“仕事をやらされている”感じはなかったという。なぜなら、常にお客さまに向き合って真摯に対応してきたという自負があるからだ。

「厳しい要求だとしても、お客さまの真剣な表情を見ていると、この製品がどれだけ大切かが伝わってきます。そして、真剣に向き合ってお客さまの課題を克服することができれば、そのときは心からお客さまが喜んでくださる。これがモチベーションでした」

 いまでは主力製品となったCMP装置(※半導体のウェーハ表面を平らにする半導体製造装置)のビジネスが成長途上の頃、世界的な半導体製造メーカで荏原の製品が採用された。新しいコンセプトのプラットフォームを採用したCMP装置だった。

 しかし最初からすべてうまくいくわけではない。納入して生産を開始して、初めてぶつかる問題も出てくる。「この時は本当に大変でした」と振り返る浅見氏。あきらめずにお客さまと一緒になって続けたことで、壁を乗り越えた。

 そんな浅見氏がうれしかったのは、お客さまが心から喜び、信頼関係が生まれたことだという。日本のサプライヤーとして、最多となる年間表彰の快挙も成し遂げて来た。また、当時導入した新しいプラットフォームは、いまや荏原のCMP装置における“基本コンセプト”となっている。

「自分を一番育ててくれるのはお客さまです。社員にはいつもそのように話しています。社員一人ひとりが、そのような経験を重ねて成長していってほしいと思います」

はじめは成果を出せなくても、
技術は次につながる

 こういった経験をふまえて、浅見氏は新しいことに踏み出す社員を後押しする。とはいえ、新規事業のプランには徹底して“真剣さ”を求める。

「新規事業で大切なことは、どこまで先を見通しているか。荏原の関わる領域だけでなく、その分野全体のバリューチェーンを見渡して、何が足りていないのか、どこで荏原が貢献できるか、ジグソーパズルのピースを埋めるように徹底的に見える化した全体像を描く必要があります」

 もちろん、いくら深く検討を重ねたとしても、新規事業が大きな成果を出せない可能性もある。それでも、浅見氏は“無駄だった”とは捉えない。

「荏原の事業全体を見ても、過去に消えていった製品はたくさんあります。では、それをやらなければよかったかというと、そんなことはありません。難しくて誰もやらないことと真剣に向き合えば、失敗したとしても必ず技術は残っていくからです」

 たとえば精密・電子事業の初期、荏原では真空トンネルの中を磁気によってモノを浮上させ、移送するシステムを作った。大きな成果は出なかったが、その技術を端緒に「ドライ真空ポンプ」が生まれた。いまや荏原の主力製品だ。

 難しいことであるほど、それを突き詰めれば技術は次につながる。だからこそ、浅見氏は社員にこのように伝える。「誰にもできないことに挑戦しよう」と。社会が求めているけれど、しかし簡単には出来ない難しい課題。それを「荏原がやらなくて、誰がやるんだ」と。

「真剣にやっていると、ひたむきな姿を見たお客さまが『それなら、こんなことはできないか』と、新たな課題や荏原の技術に対するニーズを示してくれます。それもまた、次の事業につながっていくのです」

 社長に就任してから、浅見氏は「新しいこと」を始めやすい環境も作ろうとしている。一例が、今年1月に立ち上げたダイバーシティプロジェクトだ。国籍や年齢、性別といった基礎属性ではなく、能力や経験といった個人そのものを尊重するタスクダイバーシティに重きを置く。

 その結果、年齢や外見などの目に見える属性に関係なく意見を出せるほか、心理的安全性も確保され、一人ひとりの本音が届きやすくなる。活発な議論からはじめは思ってもいなかったアイデアが活発に生まれ、新しいことを起こりやすくするのが狙いだという。

海外では初の試みとなった2019年実施の社長懇談会。
イタリアのグループ会社にて。

100年後の荏原へ。
私が望むこの会社の“未来”

 創業から100年以上にわたって、事業を広げてきた荏原について「創業者がいまの荏原を見たら驚くでしょう」と浅見氏は笑う。

 浅見氏自身は、これからの荏原をどんな企業にしていきたいのか。

「ひとことで言えば、世界の人を幸せにする会社です。社会インフラを支え人々の暮らしに貢献する荏原は、お客さまの不便・不満・不足を解決する、まさに世の中の“不”を解決する存在です。“不“を解決する方法を提供できれば価値になります。これからも、荏原は誰かを幸せにしたい人に集まってきてほしいと思っています」

 その実現のためには、普段から“不”に気づく問題意識と、それを解決するための熱い想いが大事なのだと、言葉を続ける。

「さらに言えば、問題意識を高めるための『感度と想像力』を、荏原の社員に持ってほしいですね。人が何を思い、何に困っているのか。言われたことをやるのではなく、人や未来を思い浮かべて、自分から動いてほしいと思います」

 これからも、荏原が挑み続ける姿勢は変わらない。創業者がいまの会社を見て驚くように、100年後の荏原もまた、驚くほどに進化している。そんな未来を、社長の浅見氏は望んでいる。

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