機械メーカ×新進バイオのシナジーで
まだ世の中にはない
新しいものを生み出したい

TEAM: New Business Architecture Department Biotechnology Solution Section
Hitoshi Ono, Keita Shibuya, Koji Hattori
Sponsored by 荏原製作所

 荏原製作所では、次世代事業の1つとしてバイオ分野も検討し始めている。その1つが、細胞農業のプロジェクトだ。人類にとっても、荏原にとっても未開拓の領域だが、このプロジェクトが見据えるのは細胞農業だけではない。その技術の発展の先には、「再生医療」へ展開できる可能性があるという。

バイオ出身者×機械メーカの
ハイブリッドなチームワーク

「最初は、家族も周囲の人も驚いていました。荏原に転職してバイオをやるの? 荏原ってバイオ事業をやっているの?って。だからこそ、早くプロジェクトを世に出して、荏原が本気でこの領域に取り組んでいることを証明したいですね」

 彼がそう口にすると、隣にいたもう1人もこう続けた。

「荏原はバイオのプロジェクトを夢物語で終わらせるのではなく、1つ1つ実装する道筋を作ろうとしていると感じました。それができると思ったからこそ、荏原に入社しました」

 2022年春、バイオ領域で長くキャリアを積んできた澁谷慶太氏と、同じくバイオ関連領域の知見を持つ服部浩二氏は、荏原製作所のマーケティング統括部 次世代事業開発推進部 バイオソリューション課にやってきた。部署名から分かる通り、未来の事業としてバイオ領域の開拓を担うチームだ。

 荏原製作所では現在、複数のバイオ領域のプロジェクトを進めている。その中で彼らが取り組んでいる1つが「細胞農業」だ。プロジェクトのリーダーを務めるのは小野仁氏。異分野から転職した澁谷氏・服部氏とは真逆の、荏原一筋25年のベテランだ。

 なぜ荏原製作所は細胞農業に取り組み始めたのか。そして、その技術が再生医療へとつながる理由はどこにあるのか。

この領域に挑む理由。
社会実装にかける思いとは

 そもそも細胞農業とはどんなものなのだろう。

「通常、細胞は体内で成長しますが、それを体の外で同じように再現する、つまり細胞を培養するのが細胞農業の考え方です。体内で行うよりも効率よく、しかも必要な部材だけをつくれる可能性がある。その代表が培養肉で、食用の肉を細胞からつくる研究が盛んになっています」(小野氏)

 培養肉はまだ実験段階で、実用化・商用化までの「社会実装」には至っていない。ではなぜ、荏原製作所がこの領域に挑んだのだろうか。そこには、こんな実直な思いがある。

「未来に役立つようなイノベーションが社会実装されるのを手助けし、世の中に貢献したいからです。新技術を実用化しようとすれば、さまざまな課題が生まれます。そこに、これまで培った荏原の技術や知見を活かしたいと。たとえば、課題を解決する装置やシステム、プロセスを提案して、社会実装の起爆剤にしたいのです」(小野氏)

荏原製作所 マーケティング統括部 次世代事業開発推進部
バイオソリューション課 技術リーダー 小野仁氏

 仮に培養肉を量産する場合、細胞を大量に培養する装置が必要になる。

「細胞の培養には培養液が使われますが、その培養液の酸素濃度やpH(水素イオン濃度)、栄養素や代謝物の濃度を監視し、的確なタイミングで適切な量に調整する装置が求められます」(服部氏)

「もし商用化する場合、なるべく人の手を入れず細胞を培養することがポイントになります。なぜなら、個体差を生まず一定につくることがカギだからです。そのためには機械による自動化が必要。特に細胞は繊細で、人が食べるものとなれば一層の品質担保が求められることになります」(澁谷氏)

 そこで、産業機械メーカである荏原が、装置やプロセス構築などの要素技術で貢献する。これは1つの青写真だ。小野氏は「胸を張ってできる事業だと思いますし、実現すれば、子どもや孫も誇りに思ってくれるのではないかな」と笑顔をこぼす。

培養肉から再生医療へ、
夢はつながっている

 目指す先にあるのは、細胞農業の技術が未来の再生医療にもつながることだ。

「体外で細胞を培養して塊肉をつくることと、同じように体外で組織や臓器をつくることは、『細胞の三次元組織化』という点で本質的に共通しています。つまり、培養肉分野で開発する技術は、再生医療分野へも応用できる可能性があるのです」(服部氏)

 さらに、製薬業界では、動物試験や細胞試験をもとに創薬を行う。もし細胞培養の技術が進めば、創薬試験用の臓器を体外でつくることができ、新たな創薬アプローチにつながる未来が見えてくる。

 荏原が見ている領域も、決して細胞農業のみではない。再生医療プロジェクトも立ち上がっており、澁谷氏と服部氏も参加している。

「再生医療の臓器となれば立体的かつ血管や神経の構築も必要ですが、食用の培養肉はまだシンプルな構成でつくれます。まずは培養肉の実装に必要なソリューションをつくり、将来的にはその技術を再生医療に展開していく。1つの業界で技術を抱えることなく、まして荏原だけで抱えることなく、外に広がっていくことが望ましいです」(澁谷氏)

 実現は簡単ではないが、荏原ならそのシナリオに貢献できると、小野氏は、信じている。

「荏原には、100年以上培ってきた技術や先輩方の努力の蓄積があります。ポンプに代表される流体技術のイメージが強いですが、それだけでなく、食品・化学・鉄鋼業などさまざまな企業のエンジニアリングを担ってきました。その中には、この分野の課題解決に使える技術やノウハウがあるはずです。過去の蓄積を埋没させず、活用することで可能性を広げていきたいのです」

 細胞農業については、まずこの分野の企業とヒアリングを重ね、社会実装の課題を見つけて解決策を提案していく。

荏原のノウハウはknow who

 澁谷氏や服部氏といったバイオ分野の知見を持つキャリア入社組が加わったのは、社会実装に専門領域の知見が欠かせないからこそだという。

 それにしても、澁谷氏と服部氏はどんな思いで荏原という新天地を選んだのだろうか。ずっとバイオ畑にいた澁谷氏は、荏原がこの領域でプロジェクトを始めていると知り、最初は驚いたと話す。

 ただ、事業の詳細やバイオベンチャーへの投資を知る中で、「荏原の蓄積と私が培ってきたバイオの知見で化学反応を起こしてみたい」と考えたという。

「細胞農業も再生医療も、企業にヒアリングを重ねる中で、課題や『こうしたい』という情報が入ってきます。バイオ業界ならではの専門用語もあるわけですが、それを私が『翻訳』して、荏原の技術とつなげていくイメージです。『こういう装置を組み込めば叶うのでは』と提示し、早く世に出すことで、本当に荏原はバイオをやっているんだと伝えたいです。」

荏原製作所 マーケティング統括部
次世代事業開発推進部バイオソリューション課 澁谷慶太氏

 対する服部氏は、自身の夢を次のように語る。

「ステーキのカット肉のような、立体的な培養肉をつくった例は現在ほとんどないはずです。いつかは立体の培養肉を売れる未来を実現したいですね」

 服部氏は、大学院で応用化学を専攻し、半導体メーカでプロセス開発に携わったのちに、荏原に入社した。その経験もふまえ、彼は荏原での可能性を感じている。

「半導体メーカに勤めていたときも荏原の装置に囲まれていて、技術力の高さは知っていましたから(笑)。細胞農業も再生医療も、商品化には品質や安全性、有効性の確保のためのさまざまな規格やレギュレーションが課されるはずです。荏原は、装置やエンジニアリングを通じてさまざまな産業に向き合ってきた企業ですし、そのノウハウは必ず生きるでしょう。未知の技術を新しい事業にすることができる会社だと思っています」

荏原製作所 マーケティング統括部
次世代事業開発推進部バイオソリューション課 服部浩二氏

 2人は荏原に入社して半年ほどだが、いろいろな技術や知識を持つ人が社内におり、わからない課題も誰かがその解を持っていることが多いと感じているという。

 そんな話を聞き、小野氏はこんな表現で場を和ませる。

「聞ける人がたくさんいるのは荏原の強みですよね。荏原のノウハウはknow whoなんですよ。つまり、どんな課題解決の方法も、誰かが知っているんです」

 このプロジェクトのミッションは、「イノベーションになりうる新技術の社会実装を手助けする」ことだ。さまざまな技術を社会実装し、社会課題の解決に貢献し続けてきた荏原製作所。

 100年以上の歴史が培ってきた機械メーカとしての技術と、新進バイオのシナジーで、まだ世の中にはない新しいものを生み出したい。その思いを原動力に、彼らのプロジェクトは、未来の細胞農業、そして再生医療にまで広がっていく。

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