障がい者一人ひとりの能力は
もっと引き出せる
ダイバーシティ&
インクルージョンへの挑戦

COMPANY: Ebara Earnest
Etsuko Sakurai
Sponsored by 荏原製作所

 荏原グループには、荏原アーネストという特例子会社がある。特例子会社とは、障がい者の雇用促進と安定を図るために、親会社によって設立された子会社のことだ。荏原アーネスト社長の櫻井悦子氏は、「社員一人ひとりの潜在能力を引き出し、荏原アーネストがロールモデルとなって障がい者の活躍の機会を社会全体に広げたい」と、「ダイバーシティ&インクルージョン」の新しいビジネスモデルを示そうと挑んでいる。

気づきをもたらした
テレビ番組の取材

 荏原アーネストの敷地内には、魚の陸上養殖と野菜の水耕栽培を組み合わせた「アクアポニックス」と呼ばれる設備が置かれている。このアクアポニックスは、もともと親会社である荏原製作所が、新規事業プロジェクトの1つとして取り組んでいる魚の陸上養殖システム開発の一環として導入した。櫻井悦子氏が社長に就任する前年から、荏原アーネストがその管理業務を担当している。ある日、アクアポニックスの取材で、同社の社員たちがテレビ番組の取材を受けることになり、櫻井氏が現場に立ち会った時のことだった。

「一人の社員が、『野菜の育ち方には個性があります』とコメントしたのです。そして、もう一人の社員は、『自分はこの仕事をやっていて失敗もあったけれど、それも自分としては学びだと思っています』と。二人のコメントは、私にとってうれしい発見でした。日頃、補助的な業務が中心の当社の社員が、こんな風に自分の仕事を『変化』という視点を持って捉えているとわかり、感動しました」

「アクアポニックスを活用しつつ、障がい者の潜在能力を引き出し、活躍の場を拡大するためのノウハウを確立することで、荏原アーネストの新規事業になりうると確信しました」

荏原アーネスト 代表取締役社長 櫻井悦子氏

社員の可能性を引き出し、
全力化する

 荏原アーネストの社名は、荏原の創業の精神「熱と誠」にちなみ、「熱心な、誠実な」という意味をもつ「アーネスト」が由来となっている。

 櫻井氏は荏原製作所に入社後、長年にわたり社会インフラに関わる事業に携わっていた。その後、コーポレート部門でダイバーシティ・働き方改革推進を担当することになった。「当時、私は工事調達の責任者になったばかりでしたが、新たな分野・キャリアにチャレンジできると考えました」

 そして2021年1月に、荏原アーネストの社長に就任。「荏原アーネストでは、社員の定着に力を入れてきました。そのため、私が来た当初は、アーネストの仕事の多くは、補助的な作業が中心でした。そこで、もっと社員たちの可能性を引き出し、荏原グループの事業に貢献してもらうことはできないだろうかと考えました」

荏原の技術との親和性が高い
アクアポニックス

 アクアポニックスでは、養殖で飼育している魚の排泄物がろ過機内で微生物に分解され、植物の栄養となり、栽培している野菜が育つ。浄化された水はふたたび水槽に戻され、きれいな水で魚が育っていく循環型のシステムだ。

 荏原が培ってきた技術とアクアポニックスの親和性は高い。このシステムで循環するのは水だ。荏原はポンプ事業を主軸に、水量・水質の管理や冷熱に関して高い技術力がある。また、水処理を専門とする関連会社もある。これらの要素技術を掛け合わせることで、陸上養殖の事業化を目指すプロジェクトが社内で動き出した。プロジェクトチームはまずその足掛かりとして、アクアポニックスの装置を実験的に導入。その管理業務の委託先を検討していたところ、障がい者も含めて多様な人材の活躍を推進する荏原の経営目標とも合致し、荏原アーネストが管理業務を担うことになった。

荏原製作所藤沢事業所内にあるアクアポニックスにて

 荏原製作所の神奈川県藤沢事業所内にあるアクアポニックスで作業する社員たちはこう話す。

「野菜を苗から育てているので、大きくなっていき、収穫できるようになったときに楽しさを感じます。土曜・日曜の休みを挟んで月曜に会社に来ると、野菜が大きくなっていることに気づきます」

「魚も初めは半分くらいの大きさでしたが、餌をあげていくうちに大きくなっていくのを見るのが楽しい。野菜は、(荏原の)社員たちに配っていますが、美味しいと感じてもらえるか気になります。自分たちで持ち帰って食べたときは、美味しかったです」

 櫻井氏は、「野菜も魚も生きものです。きちんと育てなければ収穫という結果はともなわない。それを社員たちは認識しており、生育の変化を捉え、必要な対応を彼らなりに工夫して取り組んでいます。アクアポニックスを通じて、彼らの潜在能力に気づくことができました」と話す。

取材の質問に答える荏原アーネストの社員

一人ひとりの
「得意」を見出し、活かす

 社会や組織において、誰もがそれぞれの経験、技能、考え方を生かして貢献する機会を持ち、多様な人材が活躍する「ダイバーシティ&インクルージョン」の考え方は、近年の社会のあり方や一人ひとりの生き方をめぐるキーワードとなっている。

 櫻井氏は、従来の障がい者の働き方に一石を投じ、潜在能力の顕在化と活躍の場を拡大したいと強調する。

「人は誰でも得意・不得意があります。当社の社員たちにも不得意なことはあって、その部分が健常者よりは大きいのかもしれません。けれども、得意なところ、さらにいえば優れているところもたくさんあります。一人ひとりの可能性を見出して、それを業務に生かしていくことができれば、それぞれのより一層の活躍に繋げることができます」

 櫻井氏は、様々な仕事を任せてみることで、それぞれの得意なことを見出している。例えば作業マニュアルづくりにおいて、荏原アーネストの社員が優れていると感じることとして、「行間を省かない」という点がある。「健常者がマニュアルを作ると、自分にとって当然だと感じる作業を省略する傾向があります。でも彼らに任せると、自分たちが何をわからないかがわかっているので、行間を省くことなく、誰が見てもわかるマニュアルを作成することができます。このような点は、私たちにはできないことです」

 このような社員たちの能力や成長を、櫻井氏は誇らしく感じている。

「ダイバーシティ&
インクルージョン」の
モデルとして

 障がいのある社員たちの活躍の機会を今後は一層増やし、社会全体に還元していきたいと櫻井氏は語る。業務の幅を広げている社員たちの姿から、確実な手応えを感じている櫻井氏は、荏原アーネストの事業展開の新機軸も描いている。例えば、障がい者たちが担う業務の幅が広がり、一般社員が他の業務に充てる時間を創出することで、広く世の中に価値を提供していきたいと考える。結果として、社会全体の生産性を高めることに貢献できるだけでなく、障がい者自身の働きがいにも繋がる。それを実現するために、荏原アーネストがロールモデルとなり、広く社会に向けて示していくことを視野に入れている。

「いま社会では、少子高齢化による人材不足や労働力不足が大きな課題となっています。国も施策を進めていますが、障がい者が活躍の場を広げることで、その一助になると考えています。ただし、荏原アーネスト1社で実現できることではありません。当社の経験を社会に還元し、障がいのある方々がより社会で活躍できる仕組みを作り、好循環につなげていけたらと思っています」

 障がい者たちの能力をより引き出して、障がい者たちが活躍し、社会全体が利点を共有する。「ダイバーシティ&インクルージョン」の新しい形が、いま誕生しようとしている。

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