“心、おどる、デジタル”を実現する
「デジタル化がもたらすもの」
クリエイティブはプロフェッショナルだけのもの。
特に、アドビのツールを使ったクリエイティブは――。
そんな常識をアドビ自身が覆し、
クリエイティブの民主化を進めている。
多様なビジネスの現場で、
そのクリエイティブを支える基盤と
ドキュメントによるビジネス基盤、
顧客体験向上を実現させる基盤が三位一体となり、
コストを削減するだけではなく
新しい価値を創造するDXを推進中。
2021年4月にアドビの代表取締役社長に就任し、
自社のDXも推し進めてきた経験のある神谷知信氏が、
アドビだから提供できる価値を語る。



デジタルに関わるビジネスは
いかがですか。
昨年3月から、私たちのオフィスはグローバルでシャットダウンされ、立ち入るには許可を必要としています。もちろん、新型コロナウイルスのパンデミックの影響によるものです。パンデミックによって私たちは困難を強いられましたが、変化の追い風となった面もあります。日本ではなかなか進まなかったDXが一気に加速したことです。
テレワークの導入を余儀なくされた企業が増え、学生もリモートで講義を受けるようになるなど、多くの人にとってデジタルは必須のものとなりました。
これまでも多くの日本企業は、紙からデジタルに移行したいと考えていましたが、書類に捺印が必要といったルールや慣習があり、なかなか実現に踏み切れませんでした。しかし規制が緩和されたこともあり、電子サインや電子署名の普及が進み、今は紙でなくてはならない理由はなくなっています。
ただ、“紙からデジタルへ”と言葉で表現するのは簡単ですが、紙ベースの業務にはいくつものプロセスが付随しており、そのプロセスを適切にデジタル化できないと、DXは進められません。デジタルでのプロセスを支えるソリューションがなければ、移行は進まないのです。
どのような企業ですか。
デジタル化を効率的に進めている顧客のひとつにアパレル業界の企業があります。アパレルはパンデミックを奇貨としてECへと大きく舵を切りましたが、以前のようにスタジオにモデルやカメラマンが集まって新商品を撮影することができません。そこで、以前はエンタメ業界や自動車業界など限定された業界で使われていた『Adobe Substance 3D』で3D化したデータを商品写真の代わりに使い始めています。
もちろん、ECはアパレルに限らず、幅広い業界で拡大しています。ECが拡大するということは、企業はお客様と直接の接点を持ちやすくなったということです。すると、とるべき広告戦略は変わります。すべてのお客様に向けて、十分な時間と予算をかけて壮大なたったひとつのコンテンツを制作するのではなく、それぞれのお客様に合ったいくつものコンテンツをスピーディに制作する必要が出てきているのです。このことは、2億点を超えるロイヤリティーフリーの写真などを提供している『Adobe Stock』の利用状況からも実感できますし、実際に、以前は外注していたクリエイティブの制作を内製化する企業も増えています。私たちはこうした、より多くの個人がクリエイティブに関わるようになる変化を“クリエイティブの民主化”と捉え、歓迎しています。
アドビは何を提供できるのでしょうか。
新しい価値を創造する」
『Adobe Creative Cloud』、『Adobe Document Cloud』、『Adobe Experience Cloud』という3つのクラウドソリューションでデジタル変革を支援しています。Adobe Creative Cloudは写真やイラストを使ったクリエイティブを支え、Adobe Document Cloudはデジタル文書を用いたプロセス効率化を実現します。そして、Adobe Experience Cloudはデータを活用して最適なコンテンツを最適なタイミングでお客様に届けるためのソリューションです。
Adobe Creative Cloudに関しては、プロフェッショナルユーザーが多くいらっしゃるため、新しいユーザーの方には「難しい」と感じさせてしまうこともこれまではありました。しかし、『Adobe Sensei』というアドビ独自のAI・機械学習のプラットフォームを導入したことで、使う方の習熟度に応じたUIを提供できるようになっています。
これら3つのクラウドはそれぞれ個別に使うこともできますが、連携させることで、新しい価値を創造できます。たとえば、Adobe Creative Cloudで制作したコンテンツは速やかに、Adobe Experience Cloud経由でお客様に提示できます。クリエイティブはAdobe Creative Cloudで制作しながら、そのクリエイティブに関わる契約はAdobe Document Cloudで行うことも可能です。リモートが当たり前になった時代にデジタルで必要な機能をひとまとめにして提供できること、これがアドビの大きな強みです。
このほか、DX先進国であるアメリカであらゆる業界に豊富なユースケースを擁していることもアドビの強みと言えるでしょう。
DXを進めてきた企業です。
その足跡を教えてください。
2012年に、グローバルで、永続版ライセンスモデルから今では珍しくなくなったクラウドベースのサブスクリプションモデルへと移行しました。このときには社内にも反対の声があったと聞いています。しかし、アドビCEOのシャンタヌ・ナラヤンが強いリーダーシップを発揮して移行を断行しました。その結果、永続版ライセンスモデルの頃には年単位のサイクルだった製品提供を、より頻繁に、最適なタイミングで行えるようになりましたし、ユーザーと直接の接点を得たことで、そこでは何を大事にすべきかを学ぶことができました。
ただ、日本ではサブスクリプションモデルの浸透に時間がかかりました。私自身はその停滞から抜け出し、前進させるために2014年にアドビに加わりました。入社して感じたのは、アドビには十分なテクノロジーがあるにも関わらず、プロセスが追いついていないということでした。当時、社内には、クリエイティブとドキュメントを担当するデジタルメディアの事業部と、デジタルエクスペリエンスの事業部とがあり、それぞれが別会社のようだったのです。互いに協力し、名実ともにワン・アドビになればもっと価値ある提案ができるのにとずっと感じていました。2021年、社長に就任した初日に着手したのは、壁を完全に取り払うことでした。
もっともその前から、融合に向けた取り組みを始めていました。データの共有が組織の壁をなくすことがわかってきました。たとえばマーケティング担当者と営業担当者の話がかみ合わないのは、それぞれ、自分の部署で囲い込んでいるデータしか見ていないからです。そこで、デジタルアセット管理システム『Adobe Drive CC』を使って、全社員が同じUIで同じデータを見られるようにしたところ、やりとりがスムースになりました。このときにDXが社内に与える影響の大きさを強く実感しました。
この新ビジョンに込めた思いを
お聞かせください。
目的はコスト削減だけではない」
DXという言葉には、どこか硬さがありませんか。その目的はコストの削減といった印象を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし私たちは、それだけがDXだとは考えていません。デジタルは私たちをワクワクさせながら、世の中を今以上に良くすると信じています。そうした思いを、2021年に新しく設定したこのビジョンに込めました。
このビジョンを実現させるテクノロジーの基盤がさきほどお話しした3つのクラウドですが、これらはビジネス以外にもお使いいただきたいと思っています。小中学生、高校生や大学生にもより気軽に使っていただけるよう、様々な形のライセンスを用意し、若い世代に親しみのあるスマートフォンやタブレットに代表されるタッチデバイス向けのUIも洗練させていきます。
私たちは、多様な顧客に恵まれています。クリエイティブのプロフェッショナルもいますし、個人で楽しまれている方もいます。大手企業にお勤めの方にもフォトグラファーにも学生にも使っていただいています。すべての方それぞれにデジタルで心おどる体験をしていただくため、また、私たちが競争力を維持して成長を続けていくためにも、社内でもダイバーシティの考えを大切にしています。様々な声を広く反映するため、例えば若手社員の考えを事業戦略に反映させるための新たな取り組みを進めています。
メッセージをお願いします。
デジタルへの投資を」
もはや、デジタルは必須のものになっている。このことはすべての方が実感されていると思います。DXはコストを削減するだけのものではありません。デジタルは、フェイス・トゥ・フェイスであってもオンラインであっても、お客様をより理解し、自社を選んでもらうために欠かせないツールです。このツールを有効活用して収益を高め、その結果、社会に貢献する企業が増えること、その支援をすることが私たちの仕事です。ぜひ、強いリーダーシップを発揮し、デジタルへの投資を決断していただきたいです。
これからはVRやARなどの技術も当たり前のように使われます。デバイスの品質は向上の一途をたどります。今まで以上にリアルとデジタルの区別はつかなくなり、これまではお客様に提供できなかったような新しい体験を提供できるようになります。そうした心おどる未来への道のりを、一緒に歩んで行ければと思っています。


