PR

AIの台頭

 内閣府は「ICTの発達により新たなる経済価値が生まれる現代」を第4次産業革命と位置づけています*1。しかし様々なサービスの創出や経済域の拡大が見込める一方、イギリスの建築関係コンサルタント企業MaceはロボットやAIなどの技術革新により、2040年までに60万人以上に相当する仕事がイギリスの建築業界において自動化されると発表しました*2。

 またこのような世界の潮流のなか、来るべきAI時代には日本の労働人口の49%はコンピューターやAIに取って代わられる*3、と言われており、AIの研究者である英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン教授は「なくなる仕事」「生き残る仕事」をまとめています*4。以下はその一部を抜粋したものです。

 「空の産業革命」と呼ばれるドローンの積極的活用も今後も拡がり、多くの人々の仕事を奪っていくでしょう。特に測量分野の活用は目覚ましく、空撮だけで3Dモデルをつくることが可能になっており、ドローンは「撮影」という分野に留まらず「防災」「林業」「土木」など多岐に渡ってくることになります。

「表現力」を鍛えよう

 AIが特定の分野で活躍できるようになるためには、以下の3つの要素が必要と言われています。
・ビッグデータ
・並列コンピューター
・アルゴリズム

 これらを複合することで「役に立つAI」の開発が進むわけです。コンピューターの量産は進むでしょうから、人間は「有用なデータを収集する能力」「そのデータを解析するためのアルゴリズム開発」が重要な役割を担うことになっていきます。つまりコンピューターを積極的に活用できる人材が必要になってくるのです。そのため文部科学省も2020年度から「プログラミング教育」を必修化することは前回の記事で述べた通りです。

 それではAIの台頭があっても、困らない大人に育つためには一体どのような力が必要でしょうか。それは「交渉力」や「表現力」といった、コンピューターではできない力を育成することです。コンピューターは「その場の空気を読んで会話する」ことはできません。以下のようなツイートが昨今話題になりました。

 まだまだ「空気を読む」ことはAIには苦手分野であるようです。

 コンピューターは、過去のデータに基づいてしか判断できないため「表現をすること」は苦手です。例えば仕事でプレゼンテーションをするためにパワーポイントで資料をつくることを想像してください。おそらく「見栄えのよい」きれいなパワーポイントを作成することは、コンピューターにも今後可能になっていきます。過去データと突き合わせ適切な文字のポイント数やフォントを選び、さらには気を利かせたイラストも勝手に挿入してくれるようになるでしょう。

 しかし、現場においてパワーポイントなどで資料をつくる仕事をされている方は、すぐにご理解いただけると思いますが、実際は「この営業先への訴求ポイントは『コスト』ではなく『機能』重視」「この部長に説明するためには、営業成績の文字は大きく」などプレゼン先によって「表現を変えている」はずです。逆に言えば、こういった「差別化プレゼン」ができないと仕事の現場では必要とされない人材になってしまいます。

 一方、子どもたちの表現は独特な文化が広がっており、コミュニケーションは成立しているものの「表現力が豊か」とは言い難い状況になっています。

 以前は「了解」の意味で「りょ」がLINEなどで使われていましたが、今は最早「ょ」を省略して「り」です。スマホではいかに文字をタイプするのが億劫かを表すエピソードですね。これは同質なコミュニティのなかで許容される表現であって、文化や世代を超えたコミュニケーションには明らかに不向きです。

 現代の若者は上司にスタンプで返信をしてしまうそうですが、これが取引先にまで拡大してしまうと、企業人としては困ってしまいますね。

それでも言葉にすること(言語化)が大事

 やはり仕事ができるようになるためには、きちんと「文章にする」「言葉にする」ことが大切だと言えます。

 ICTの活用により商圏が拡がり、グローバル化が進むご時世には、国内だけでなく海外の取引先とメールをする際にはやはり適切な表現力が必要となってくるでしょう。上述の通り、スマホが文字タイピングに適切でないようにタブレットPCのソフトウェアキーボードもまだまだテキストタイピングは得意ではありません。

 タブレットPCは主にブラウジングやSNS閲覧などに使われることが頻繁です。タブレットPCユーザーは単なる「情報の消費者」であり、「情報の提供者」になることはできません。情報の提供者となるためには「表現力」が豊かにならなければいけないのです。

 ICT活用が進む多くの学校では「学んだ内容を発表すること」をゴールとしています(例:茨城県古河市教育委員会など*5)。つまり習得するだけでなく、自ら考えをまとめ、発表することで学びが完結すると考えられているのです。

 お子様に教育用としてパソコンを購入することをお考えになるのなら、物理キーボードが付いているパソコンが適切と言えるでしょう。表現をすること、言葉を紡ぐこと、プログラミングを学ぶことは単なる消費者でなく創造する側にお子様を教育することです。例えば誕生日に欲しいものを単に「聞く」だけでなく、「何故それが欲しいのか」をお子様にプレゼンしてもらうのはいかがでしょうか。

大辻雄介 NPO法人SOMA副代表理事(https://nposoma.org/
島前教育魅力化プロジェクト教育ICTディレクター