
以上、前回と合わせて4つの側面から、シスコの企業経営の姿を掘り下げてみた。シスコカルチャー、VSEMという経営執行管理プロセス、ビジネステクノジーが、相互に関連しながら、サッカー型の組織で実行されていることが理解できる。シスコによるこれらの取り組みの最大の目的は、社員のポテンシャルを最大限に引き出すことにある。平井社長も「経営者にとって最も重要なのは“Unlock the Potential”にある」と説明する。これが顧客に驚きを与え、ビジネスを成長させる原動力になるのだ。
しかしそれだけではなく、高度なリスクマネジメントにつながることも見逃せない。これは東日本大震災直後のシスコ社員の行動を振り返れば、はっきりとわかるはずだ。
まず交通網が乱れた期間、シスコでは多くの社員が自宅勤務によって、平常通りに業務を遂行していた。自宅待機ではなく在宅勤務だ。シスコ社員はビジネステクノロジーによってどこででも社内と同じように仕事ができるため、このような対応も可能になったのである。また各社員がシスコカルチャーやVSEMによって、「何をすべきか」を自分で判断できたことも、在宅勤務が可能になった大きな要因だといえる。
その一方で、被災地支援も積極的に進められた。避難所でのワイヤレスLAN環境や、子どもたちをケアするためのビデオコミュニケーション、遠隔からの医療相談やカウンセリングなど、多岐にわたるシステムを短期間のうちに構築しているのだ。しかもこれらの活動は、社員が自発的に、社会の一員として自分たちがやるべきことに、率先して取り組んだ結果なのである。
このようなシスコ経営のあり方を、一橋大学 名誉教授の野中郁次郎氏は「ミドルアップ/ダウンが非常にうまく機能しているケース」だと評価する。そもそもミドルアップ/ダウンとは、日本企業のお家芸 のひとつ。しかし今の日本企業はこのお家芸についても、シスコの周回遅れの位置にあり、学ぶべきことは多いはずだという。
もちろんこのような仕組みを一朝一夕で作ることはできない。しかし適切な形で取り組めば、3年程度で目に見える成果が得られるはずだと平井氏はいう。「大切なことは“失敗の回転率”を高めることです。新たな取り組みを行えば必ず失敗がつきまとう。しかしそれを避けず、スピーディに経験を積んでいくことで、 経営品質は確実に高まっていくと考えています」
もうひとつ忘れてはならないのが、「その過程を社員全員が楽しむこと」だともいう。また社員に楽しんでもらうことは、決してコストがかかることではなく、ちょっとした工夫で実現できるとも指摘する。
楽しみながらビジネスに参画することはクリエイティビティの源泉である。そしてこれこそが顧客に新たな価値をもたらし、日本全体を活性化するエネルギーへとつながっていくのだ。
米国シスコ(NASDAQ:CSCO)の日本法人。ビジネスの基盤となる企業ネットワークを核に様々な顧客企業の経営を支えている企業として、音声、映像、データ、ストレージ、セキュリティー、エンターテインメントをはじめとする様々な分野で、人々の仕事や生活、娯楽、学習のあり方を一変するネットワークプラットフォームの提案を目指しています。シスコの会社概要・詳細は以下のWebサイトでご参照いただけます。