10月15日(金)、ウェスティンホテル東京にて開催された「インテージフォーラム 2010」(主催:株式会社インテージ)には、混迷を続ける経済情勢から抜け出すヒントを求めて、様々な業種から大勢のビジネスパーソンが来場した。現在のような時代の中、マーケティングリサーチ業界のパイオニアであるインテージが提唱する経営におけるインサイト、近未来への洞察や新たな動向に対する関心の高さがうかがえたといえよう。今回で10回目を数えるフォーラムのテーマは、同社の創業50周年を記念して「Insight for the Next 50」。C.W.ニコル氏のオープニング講演や夏野剛氏の特別講演のほかに、具体的事例を含めたソリューションが紹介された6つのミニセッションなど、興味深い発表が数多く展開された。
各ミニセッションと連動した展示ブースでは、より詳細な説明を求めるビジネスパーソンで活況を呈し、各々のビジネスにおいてイノベーションを引き起こすためのエッセンスを吸収しようという熱意にあふれていた。
【オープニング講演】
森から未来をみる
C.W. ニコル氏
「私は今年70歳になりますが、どの国よりも日本に長くいます。初めて来日したのは22歳の時で、3回目の北極探検の後でした」と語るC.W. ニコル氏は、14歳から英国で柔道を習い、講道館で乱取りを経験したくて来日したという。「当時から、私は町に4日もいると頭が痛くなる、熊みたいな人間でした。そこで、先輩が日本の山に連れて行ってくれたんです。日本は、素晴らしい自然に恵まれた国だと思いました。北に流氷があって、南にサンゴ礁があるのは、日本だけです」と日本の自然の豊かさに魅了されたと話す。
ニコル氏が手掛けている「アファンの森」の"アファン"は、ケルト語で「風が通る谷」という意味だ。故郷であるウェールズにアファン・アルゴード森林公園という公園があり、そこはかつて石炭採掘でハゲ山になっていた場所だったが、見事に森に再生されていることを28年前に知り、アファン・アルゴード森林公園から名前をもらって「アファンの森」として、日本で森の再生活動に取り組んだという。
さらに「森の再生は大事です。森が良くなれば、水が良くなり、人間も健康になります。しかし、経験がないとうまくいきません。現場を知っている人と情報交換しないとダメなんです」とニコル氏は、自然の回復に取り組むにあたっての、情報共有の重要性を指摘する。カナダでは、森の伐採で鉄砲水を発生させている川の再生に取り組み、幸いサケが戻ってくるようになったが、数が多すぎて産卵する前に酸素不足で死んでしまったこと、ウェールズのアファン・アルゴード森林公園でもカラマツばかりを植林したために、すべて枯れて山火事の原因になったことなどを紹介した。こうした事態を防ぐには、現場での経験が役に立つと指摘する。
「最近、日本では、あちらこちらで熊が出てきたと騒ぎになっていますが、どうしてでしょうか。天然林がなくなり、里山がヤブになり、キクイムシによるナラ枯れが広がってドングリが足りなくなったからです。しかも、生態系がこれだけ変わっているのに、何も対策が取られていません。これでは熊が人里に出てくるのは当然です」とニコル氏。人間が競争するだけでなく、自然と協力していくことの大切さを強調した。
ニコル氏が再生したアファンの森も、以前はヤブになっていて、幽霊森といわれていた場所だという。「そこに手を入れて"森"を作ったんです。愛情と汗をかけるとヤブも元気な森になります」「花が咲くと、昆虫が来て、鳥が集まり、種が持ち込まれます。そうして生き物が戻ってくるのです」とニコル氏は自然のつながりを指摘する。「木も70種以上あります。現在、26種の絶滅危惧種が生息しています。最初は大きい木がなかったので、鳥箱を作りましたが、今は天然のウロができてフクロウが営巣しています。キノコも戻ってきました」(ニコル氏)。
アファンの森は小さいかも知れないが、生物の多様性が自慢だという。「多様性は可能性であり、森は人類の遺伝子の故郷です。人間の遺伝子は、半分は森、半分は海から生まれたんです。だから森の音を聞くとほっとするんです」とニコル氏は、人間にとっての森の重要性を説き、虐待を受けてきた子供たちが森で笑顔で過ごしている映像を通して、森の中で子供たちの心が開いていく様子を伝えた。
最後にニコル氏が語ったのは「私は日本の未来を信じています」という言葉だ。そこには、長年にわたって日本の森の再生に取り組んできたニコル氏の熱い想いが込められている。
【インテージ講演】
地球社会の明日を拓く「知」の創造
代表取締役社長 田下 憲雄
講演の冒頭で田下憲雄氏は「大きな経済的な変動があるなかで、50年にわたって成長できたのは、皆様に支えられたからです。これまでのご支援に感謝申し上げます」と感謝の意を表し、50周年を機に培ってきた想いを「THE INTAGE WAY」という形で明文化したことを披露した。「THE INTAGE WAY」は、これまでの50年を支えたインテージの魂を伝承し、グローバルな価値を加えることで、次の50年を乗り切るためのものだ。
「THE INTAGE WAY」の基本となる価値観は、"「まともな企業」であり続けること"である。「英語では"Matomo" company、中国語ではMATOMO(正)的企业と表現し、「まとも」という言葉をグローバルにも使っていくつもりです。英語では『Decent and Serious-Minded』と注釈をつけました。Decentは、日本人にはなじみが薄い言葉ですが、直訳すると『きちんとした、慎み深い、適正な』といった意味です。1999年、ILO(国際労働機関)は、Decent work(働きがいのある人間らしい仕事)という理念を提唱し、日本の厚生労働省も政策の指針にしています。Serious-Mindedは、斜に構えずに、まともに向き合う、といった意味で使われ、お客様や現場と一体となって仕事を進めるという姿勢にも通じるものがあります。当社がこれまで培ってきた価値観を表すのにふさわしい言葉だと思って採用しました」と田下氏は"まとも"という言葉に込められた意味を説明し、意気込みを語る。
また田下氏は、次の50年に向かって「モチベーション3.0」と「マーケティング3.0」という新しいパラダイムへの模索が進んでいることを指摘した。「自発的な動機やわくわく感が仕事に求められ、『世界をよりよい場所にする』という価値主導がマーケティングに求められます。自分がどうしたいかをはっきりさせ、共感を求めていくスタイルが当社にも求められていると思います」とそれを受けた同社のスタンスを語る。
次のキーワードとして挙げたのが、"ICTの未来と「リサーチ3.0」"だ。今後は、情報を共有してコラボレーションするためのプラットフォーム、インサイトの抽出と予測へのシフト、そして情報を「集める」仕組みから「集まる」仕組みへの転換の3つが求められるという。「例えば、国のIT戦略本部が推進する『どこでもmy病院構想』です。当社の京都分室が事務局をしている実験プロジェクトでは、PHR(Personal Healthcare Record)という考え方に基づいて、電子カルテの情報を病院や診療所を越えて共有し、医療の効率性を高めることに取り組んでいます。私たちはICTを活用し、情報の価値を高めることによって、医療崩壊の危機に挑戦します」と田下氏は、現在進められている取り組みを例に、今起きている変化を解説した。
さらに田下氏は、同社のグローバルシフトへの取り組みに触れ、キーワードとして「日本人駐在員の現地への棲みこみ」、「ローカル人材のグローバル化」、「マネジメントの現地化」の3つを挙げ、「インテージは、この3つを実現することで、ビジネスの現場で役に立つローカルインサイトの提供につなげ、お客様のグローバルシフトのパートナーとして貢献していきたいと考えています」と語った。
お客様のビジネスの現場と生活者の視点が「知」の創造の原点とする同社では、これからも現場を起点に、情報の価値を創造していくという。田下氏は、最後に11月下旬に開催されるアジア諸国のマーケティング・リサーチへの取り組みを考えるイベント、「JMRA ANNUAL CONFERENCE 2010 / APRC CONFERENCE TOKYO 2010」を紹介して、講演を締めくくった。

