列車は、奉天から新京を目指して、ひたすら北上を続けた。その間、途中の駅に停まると、そこには必ずソ連兵の姿があった。女性は絶対に駅で降りないように、窓は決して1センチ以上開けないようにと厳しく注意され、8月の列車内は蒸し風呂のようだった。 四平街駅に着いた時のことだ。駅に停車している間は窓を背にして車内のほうを向くようにと言われていたので、そのとおりにしていたのだが、誰かが私の服を後ろから引っ張るのを感じ、反射的に振り向きそうになった。すると、途端に母が私に向かって、「富美子っ、振り向くな!」 と怒鳴った。私は言われたとおりに、じっとして動かなかった。ようやく発車のベルが鳴って汽車が動き出したが