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イノベーション
2019.02.01

P&GがCES初出展、美容の破壊的イノベーションとは
IoT時代、<お客さまの美容体験>が変わる

BY

『CES DAILY』の表紙を飾ったP&Gライフラボのキャッシー・フィッシュ氏。(筆者撮影、以下同)

 CES 2019の開催日、筆者が足早に向かったのはTech West・サンズエクスポ会場・P&Gの展示ブースである。

 あのP&GがCESに初出展だって?!

 そのインパクトの大きさは、P&GのLIFE LAB(以下:ライフラボ)を統括するチーフR&D・イノベーションオフィサーのキャッシー・フィッシュ(Kathy Fish)氏が、CESの機関誌『CES DAILY』(JANUARY 8, 2019号)の表紙を華々しく飾っていることからも推し量ることができよう。

 この1~2年を振り返っても、AI美容家電を戦略的に推進するフィリップス(Philips)やジョンソン・エンド・ジョンソンの化粧品ブランド・ニュートロジーナ(Neutrogena)がCESに出展し、野心的な提案を行ってはいた。

 しかし、グローバルで売上高トップクラスの消費財企業の登場を前にすると、先行プレイヤーが真打ち登場前の前座であったかのように霞んで見えてしまう。

 ベネチアンホテルのIBMの基調講演会場からサンズエクスポに向かう長い廊下を歩きながら、筆者の脳裏に去来したのは、CES 2015のパネルディスカッションでシスコシステムCEO(当時)のジョン・チェンバースが発言した以下の「予言」である。

“IoTによってすべての業種はハイテク企業になる。今後10年間でフォーチュン500の中で生き残れる企業は40%程度に過ぎない。巨大企業であっても自らが「破壊者(Disruptor)」にならなければ生き残れない“
 

【参考】巨大企業をなぎ倒していくIoTの凄まじい衝撃
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/47868

 既存の製造業はもちろんのこと、サービス業であっても「売り切り型のビジネスモデル」から脱却し、「お客さまの近未来の体験の予測と改善提案」を基軸とする、サブスクリプション型タイプのサービス業にその「なりわい」を転換していかないと、IoT時代の破壊的イノベーション(Disruption)を勝ち抜けないのだ。

 冒頭のフィッシュ氏によれば、P&Gのライフラボでは130ものプロジェクトが現在進行中で、リーン・スタートアップで市場導入を目指しているという。

P&Gが目指すのは「お客さま目線での新たな美容体験の創造」

 早速、P&Gブースのプレゼンテーション内容を見ていこう。

 展示スペースで最も目立つ位置でその存在をアピールしていたのは、新コンセプトのスキンケアシステム「opte」(以下:オプテ)である。

 お客さまが顔の皮膚の上でデバイスを動かすと、センサーがシミの部分を自動検出、青い光が照射された後、小さなインクジェットプリンター状のノズルからピコリットル単位のトリートメント液が射出され、肌になじむ形で付着させるというアイデアだ。

【参考】P&G opte
https://www.youtube.com/watch?v=B7qzb8ptH3U


 お客さまは高額なトリートメント液を顔全体に塗りつける必要もないし、中長期的にはシミの部分が改善される(?)という効果も期待できるかもしれない。

「OLAYスキンアドバイザー」は、AI技術を導入した機械学習型のスマートフォンアプリ。顔をスマートフォンで自撮りすることで、お客様は現時点での肌年齢を知ることができ、適切なスキンケアのアドバイスを受けられるというものだ。

OLAYスキンアドバイザーのイメージ。P&Gブースでは「超パーソナライゼーションがいかに美容に破壊的イノベーションをもたらすか」というテーマでパネルディスカッションが行われていた。

 顔のお肌の改善提案を一過性でなく、OLAYアプリのように継続型・対話型とすることで、お客さまの満足度や腹落ち感は高まることが期待される。

 また、デンタルケアでは、AIを搭載した「Oral B Genius」(オーラルBジーニアス)が興味を引いた。

AIを搭載した「Oral B Genius」。

 内蔵された加速度センサーがお客さまの歯磨きのクセを瞬時に認識し、磨き残しの改善や正しい歯の磨き方についてのアドバイスをスマートフォンのアプリとも連携してリアルタイムで行ってくれる。

 また、化粧品の基幹ブランドであるSK-IIは、東京の原宿でも期間限定(2018年11月26日〜2019年1月24日)で展開されていたポップアップストア「SK-IIワンダーランド」のコンセプトを移植、グーグルの最先端AR技術「AR Core」などを活用した斬新なスキンケア・ショッピング体験をアピールしていた。

【参考】原宿でも展開されていたSK-IIのポップアップストア「SK-IIワンダーランド」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000075.000018267.html

 一方、男性向けのソリューションでもカミソリのリーディングブランド・Gillette(ジレット)関連で際立ったものが2点あった。

 Gillette Razor Maker(ジレットカミソリ製造機)は、ジレットとMIT出身のスタートアップ企業Formlabsが始めた、3Dプリンターを使ってカミソリの柄の部分をカスタマイズできるユニークなサービスである。

カスタマイズされたGilletteのカミソリの柄とFormlabsの3Dプリンター。

 お客さまは「razor maker powered by Gillette」のサイトへ行き、簡単な操作をするだけで、自分だけのオリジナルバージョンを作成できる。ちなみに価格は1個あたり19〜45ドルということだ。

「もしもこんなことができたら(What if)?」という問いかけ

 そのほか、Gillette The Heated Razor(ジレット加熱式カミソリ)はプロトタイプ出展だということだったが、P&Gが標榜するブランドビジョンと親和性が高いという点で興味深い打ち出しだと感じた。

 電動ヒーター内蔵のこのカミソリは、蒸しタオルを顔に当てた時と同じくらいの適温を瞬時に提供するだけでなく、お客さまがヒゲを剃り続ける間、その温度を維持し続けるというものだ。

 “P&Gは、日用品とサービスに最新テクノロジーを融合することで人々の生活を変えていきます。「もしもこんなことができたら(What if)?」という質問に答えていくことで、優れたコンシューマーエクスペリエンスを提供していきます”

Marc Pritchard - Chief Brand Officer, Procter & Gamble
 

 ジレット加熱式カミソリの「もしもこんなことができたら(What if)?」は、毎朝の髭剃りにおける、髭剃り前の気持ちの良い蒸しタオル体験(そう、ちょうど理髪店で体験するような瞬間だ)ではないか。

【参考】Gillette The Heated Razor
https://www.youtube.com/watch?v=RmcCn55ef_Q


 多くの男性にとって、髭剃りは忙しい朝の時間帯での面倒な儀式に過ぎないかもしれないが、P&Gが考えるようなお客さま主語のアプローチで、少しだけディライトな体験に転換することができるかもしれない。

 P&Gは本来の得意分野である、お客さまに幅広くリーチできるマスマーケティングのアプローチと、AIやIoTを技術基盤とする、高度にパーソナライズされたOne to Oneマーケティングの手法とのハイブリッドな融合によって「美容の概念に破壊的イノベーションを起こそう」と真剣に企てているようだ。

 未来は企業の意思でどのようにでも変えることができる。ただし、競争優位な未来を描くためには、ブランドが持つDNAや強みを生かしながら「摘むべき未来」を冷静に決断することが重要だ。

 企業がAIやIoTのテクノロジーを自社の製品やサービスにいかに導入するかということ以上に、お客さまをいかにブランドの価値創造プロセスに戦略的に取り込むかについてのマーケティングセンスが問われてくる時代になった、と言っても過言ではないだろう。

 次回・CES 2019特集最終回は『誰がための技術?』というテーマで、テクノロジーと市場ニーズの乖離が目立ち始めたドローン、8Kテレビについてレポートしたい。

(続く)

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