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2018.09.18

日本での視界は良好か?「空飛ぶ自動車」の未来
IoT時代、<モビリティ体験>が変わる

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空飛ぶ車はいかが? 予約受け付け始まる

モナコの「トップ・マルケス・モナコ」で展示された空飛ぶ車「エアロモービル」(2017年4月20日撮影)。(c)AFP/VALERY HACHE〔AFPBB News

『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』(1989年)、『フィフス・エレメント』(1997年)、『マイノリティ・リポート』(2002年)、そして昨年(2017年)公開された『ブレード・ランナー2049』・・・。

 名だたるハリウッド映画の中で「空飛ぶ自動車」は、近未来のライフスタイルを象徴する、夢の乗り物としてスクリーンを彩ってきた。

 イノベーションには「技術の確立」「法律や運用環境の整備」の2つのステップがあるが、今回のテーマ「空飛ぶ自動車」は前者の「技術の確立」については、そのハードルをすでにクリアしつつあるように見える。

 それでは「空飛ぶ自動車」は2つ目のハードル、すなわち「法律や運用環境の整備」に向けてもその視界は良好なのか。

 そして「空飛ぶ自動車」が空中を行き交うIoT時代、人々の<モビリティ体験>はどうあるべきか。

いよいよ予約発売が開始された「空飛ぶ自動車」

・1人ないしは2人乗りの自動車兼飛行機。
・翼は折りたたみ式もしくは収納式で、自宅ガレージにも収納できる。
・しかも、ボタンを押すだけで自動車モードと飛行機モードの切り替えが短時間で可能。

 このような画期的なコンセプトの「空飛ぶ自動車」がすでに数社の企業から発表され、予約販売をスタートさせている事実は、当面その恩恵を受ける可能性が低い日本ではあまり知られていない。

 今回の記事では「空飛ぶ自動車」の予約販売をスタートさせたプレイヤーのうち、スロバキアのエアロモービル(AeroMobil)社と米テラフージア(Terrafugia)社の2社を紹介する。

 いずれもこの道では由緒正しく、評判の高いスタートアップ企業だ。

 まずは、エアロモービル社。

 1990年に創業者シュテファン・クライン(Štefan Klein)がブラチスラヴァ芸術・デザインアカデミーにおいて、自動車としての走行と航空機としての飛行を速やかに切り替えることができるという、エアロモービル(AeroMobil)1.0のコンセプトをまとめたことに端を発する。

 1993年に開発した最初のプロトタイプ(試作機)は失敗に終わった。

 しかし、その後、改良を繰り返すと同時に、スロバキア国内で超軽量動力機としての認証を獲得するなど着実に地歩を固めていき、2014年に発表したエアロモービル3.0では各種装備を充実させて実用化にめどをつけた。

 そして、2017年9月に開催されたフランクフルトモーターショーに、満を持してエアロモービル4.0を出展したのである。

 モーターショー会場にて500台限定でエアロモービル4.0の予約注文の受付を行うと同時に、2018年から生産開始、2020年までの「納車」がアナウンスされた。

<参照>AeroMobil 4.0 official video (https://www.youtube.com/watch?v=2cCngTljr_M

 ビデオをご覧になっていただければ一目瞭然だが、創業者がBMWやフォルクスワーゲンでカーデザインの実績を積んだと言われるだけあって、そのフォルムは極めてクールだ。

 気になるスペックだが、飛行は車体後部のプロペラをエンジン(2.0L水平対向4気筒ガソリンターボエンジン)の動力で回転させ、地上の走行は電気モーターで前輪を駆動する。

 走行時の最高速度は約160km/h、航続距離は約700km。

 片や、飛行時の最高速度は約360km/h、航続距離は約750km。

 ヨーロッパでも十分、実用に耐えうる性能と言えよう(ヨーロッパでの操縦にはパイロットのライセンスと飛行場(滑走路)の使用許可が必須になる)。

 ちなみに、エアロモービルの値段は120万〜150万ユーロ(約1億4000万〜1億8000万円)とのことで、一般人にとっては「高嶺の花」の存在だ。

 もう1つの代表的プレイヤーは、2006年にMIT(マサチューセッツ工科大学)の卒業生5人によって起業されたテラフージアである。

「空飛ぶ自動車」トランジッション(Transition)の2019年の発売をコミットし、予約を受け付けている。

<参照>The Transition® Is... (https://www.youtube.com/watch?v=rs8oqYU0YT0

 2017年にボルボの親会社である中国浙江吉利控股集団(ジーリー・ホールディングスグループ)に買収されたことで、関係者の間ではちょっとしたニュースになった。

 トランジッションの動力は、ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッド型だ。

 自動車として走行する際の最高速度は約100km/h程度に過ぎないが、飛行時の最高速度は約160km/hで、航続距離は約640kmとされている。

 テフラージアは、設立と同時にプロトタイプの開発を開始、早くも2009年には米連邦航空局(FAA)の監督下、ニューヨーク州でテストフライトを行っている。

 この「空飛ぶ飛行機」は小型軽量であるがゆえに、ライトスポーツエアクラフトのカテゴリーに分類されていて、取得容易なスポーツ・パイロットのライセンスがあれば操縦できるというのが最大の利点である。

 気になる自動運転(航行)化の取り組みはどうか。

 テラフージアは2023年頃を目標に、自動運転(航行)が前提で、滑走路が不要な垂直離着陸(VTOL:Vertical Take-Off and Landing)タイプのTF-Xを市場投入することを発表、完成度の高いコンセプトCGを公開している。

<参照>The Terrafugia TF-X™ (https://www.youtube.com/watch?v=wHJTZ7k0BXU

「空飛ぶ自動車」をライドシェアで運用するウーバーの野望

 モビリティサービスの風雲児、米ウーバー・テクノロジーズ(以下、ウーバー)。

 シェアリングエコノミーの追い風に乗って、配車アプリを使った「ライドシェア」(乗り合い)というCtoCのユニークなシェアサービスを成功させた。

 そのウーバーが今、ライドシェアのサービスを、地上から空へと一気に拡大しようと積極的な攻勢に出ている。

「スカイポート」と呼ばれる、ビルの屋上の離発着施設を利用し、テラフージアのTF-Xのようなタイプの垂直離着陸機(VTOL)を使って、空のライドシェアサービスを実用化しようとするものだ。

「uberAIR(以下、ウーバー・エア)」と呼ばれるこの新サービス*については、2017年の秋の構想発表とともに魅力的なコンセプトビデオが発表された。

<参照>UBERAIR: Closer than you think | UBER (https://www.youtube.com/watch?v=JuWOUEFB_IQ

*:事業名は「uber Elevate(ウーバー・エレベート)」と言われている。

 パイロットと4人の乗客が相乗りできるこのサービスは、地上でのライドシェア同様、シンプル&カジュアルであるだけでなく、慢性的な交通渋滞からも無縁で、確かに目的地の到着時間が不安というストレスから人々を解放するかもしれない。

 ウーバーは、2018年5月にも「ウーバー・エア」の最新コンセプト機 「eCRM」のCGを公開している。

 垂直離着陸を可能にする複数枚の同方向回転プロペラと、推進力を生むローターの組み合わせによる「電動」の垂直離着陸機(eVTOL)であることが最大の特徴で、いわば有人ドローンの進化系と言えるものだ。

<参照> https://www.uber.com/info/elevate/ecrm/

 3タイプあるうちの機体の1機「eCRM-003」の巡航速度は240〜320km/h、航続距離は充電1回あたり約97km程度という。

 エアロモービルやテラフージアの「空飛ぶクルマ」ように、地上の道路を高速で走ることはできないが、離着陸のための広い滑走路は必要なく、しかもより多人数に効率よくモビリティ体験を提供できるのが、「eCRM」の最大の強みだ。

 ウーバーはこの機体の開発に向けて、米ベルヘリコプターやブラジルの航空機製造大手のエンブラエル、無人航空機開発で知られる米カレーム・エアクラフトや米陸軍研究所との提携を相次いで発表している。

 また、ウーバーは一連の「技術の確立」とともに「法律や運用環境の整備」についても余念がない。

 混み合った上空で無数の「空飛ぶクルマ」が行き交うためには、高度の管制技術が不可欠であることは想像に難くないし、離発着のための「スカイポート」の整備も必要になる。

 ウーバーは、上空でのライドネットワーク情報のモデリングについてはNASAとの共同研究を進めているほか、ロサンゼルスの不動産会社サンドストーン・プロパティーズ(Sandstone Properties)とも離発着ターミナルに関する契約を締結していると言われている。

 ウーバーは2020年までにはロサンゼルスやダラス近郊などで飛行実験を開始、2023年をめどに「ウーバー・エア」のサービスをリーンスタート、そして2028年のロサンゼルス オリンピック・パラリンピック開催時の完全な商業化、2030年代には自動飛行の実現、と具体的なロードマップを示している。

「空飛ぶ自動車」の世界には、以上、ご紹介した以外にも、「CityAirbus(シティエアバス)」構想を進める仏エアバス、グーグルの共同出資者ラリー・ペイジ氏が極秘裏に出資していると言われているズィー・エアロ(Zee.Aero)、中国の有人ドローンのベンチャー・イーハンなど、有力なプレイヤーは目白押しだ。

周回遅れの日本、巻き返しは地に足のついたロードマップの作成から

 2018年8月30日、東京。

 日本における「空飛ぶ自動車」実現に向けて重要なイベントが2つ開催された。

 1つはウーバーによる「ウーバー・エレベート」の事業説明会。

 ウーバー社の幹部から、2020年までの実験拠点として既に決定済みの先述の2都市のほかに、東京(日本)、オーストラリア、ブラジル、インド、フランスの5カ国が候補に挙がっていることが表明された。

 東京が候補に挙がったことの背景には、トヨタ自動車やソフトバンクがウーバーの大株主であるという事情に加え、空のライドシェアには、地上におけるタクシー業界のように日本政府が規制をかけて守るべき対象が存在しないという、したたかな計算があるに違いない。

 仮に東京で「ウーバー・エア」の実証実験が行われる場合、既存設備を活用できオペレーションも容易な、羽田空港と成田空港をピンポイントで結ぶようなルートでスタートするのではないか、と推察される。

 そして、もう1つの動きは「空の移動革命に向けた官民協議会」(以下、官民協議会)の開催である。

 国土交通省や経済産業省など官庁が主体となって「空飛ぶ自動車」の実現を推進するものだ。

 官民協議会には、企業ではNEC、スバル、エアバスといった大手メーカー、ウーバーやANAなどモビリティサービス企業、加えて、トヨタグループ、パナソニック、NECなどの支援を受けたベンチャー企業CARTIVATOR(以下、カーティベーター)、愛知県の産業用ドローンメーカー・プロドローンなどが参加をして開催された。

 電動の垂直離着陸機(eVTOL)、かつ将来的に自動運転を目指すという官民協議会の開発ビジョンは、ウーバーの「eCRM」のコンセプトと極めて似通っている。

 官民協議会のメンバーで異色な存在は、何と言ってもカーティベーターだ。

 トヨタ自動車出身者が中核になってスタートしたこのベンチャー企業は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックで「空飛ぶ自動車」を使って聖火台に点火することを目標に開発を進めていることをホームページで謳っている。

 昨年2017年6月に愛知県の廃校のグラウンドを使って、カーティベーターが「テスト飛行」を行った模様はYouTubeで観ることができる。

<参照>Toyota is working on a "flying car" (https://www.youtube.com/watch?v=nBamPRd7-uU

 1903年12月17日、ライト兄弟の弟オービルがライトフライヤー号に乗って、12秒間、約37mを飛行し、ノースカロライナ州沿岸の砂地に突っ込んだ。

 カーティベーターのファーストフライトは、偉大な成功のための「最初の一歩」だと積極的に解釈したい。

 とはいえ、当面の目標の2020年7月までに残された時間はそう長くはない。

「技術の確立」と「法律や運用環境の整備」を同時並行で進めながら、数年後に設定した現実的なゴールからバックキャストする発想で明確なロードマップを描いていくことが求められて行くだろう。

 しかも、先行プレイヤーとの差別化を強く意識しながら・・・。

狭い国土の日本で「空飛ぶ自動車」を開発・導入する意味とは

 著者が日本初の「空飛ぶ自動車」についてこう考えるのには、明確な「理由」がある。

 何故ならば、欧米(や中国)と日本とでは「空飛ぶ自動車」に期待される機能は違うし、それゆえ「空飛ぶ自動車」がお客さまに提供する体験のタイプも異なる、と考えるからだ。

 そもそも日本は、ロサンゼルスや上海のように慢性的な渋滞は発生しづらいし、幸いにも鉄道や地下鉄など公共交通のネットワークが高度に発達しているので、「ウーバー・エア」をそのままのコンセプトで導入しても、事業としてはうまくいかないだろう。

 今一度、マーケティングの基本に立ち返り、日本における「空飛ぶ自動車」が「誰のための」「何か」であるかを真摯に問い直してみよう。

 ウーバーがロードマップを描く近未来、日本は少子高齢化の進行や地震・台風などの甚大災害発生のリスクなど、ソーシャルの課題が山積しているはずだ。

 ドクターヘリや過疎地におけるシニアの日常的な移動、災害発生時の孤立支援や救助など、これらの課題を全て行政がカバーするのは、リソース(予算や人材)の面から考えても不可能になっていることは想像に難くない。

 カーティベーターのような企業が、コンパクトかつ機動力に富み、省スペースでの垂直離着陸が可能、低床で誰でも乗り降りがしやすい「空飛ぶ自動車」を開発し、事業として「ソーシャル・モビリティサービス」を運営していくことが必要ではあるまいか。

 自動運転に続く、IoTが実現する「空飛ぶ自動車」の未来予想図。

 それは、富裕層のステイタス・アイコンとしてではなく、社会的弱者のクオリティ・オブ・ライフを向上させることにも貢献するものであってほしい。

「最大多数の最大幸福」を意識しながら、お客さま目線でエクスペリエンスデザインをしていく目配りが、「空飛ぶ自動車」を推進する行政にも企業の側にも大切なのは言うまでもない。

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