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テクノロジー
2017.12.13

シリコンバレーで見たAIとIoTビジネスの未来【3】
AIにつきまとう漠然とした「脅威論」をどうとらえるか

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決着がつかない「AI脅威論vs楽観論」

 2017年7月のことだ。米フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグ氏と米テスラモーターズのCEOイーロン・マスク氏が、AIの危険性について真っ向対立する意見をそれぞれ展開、ソーシャルメディア上で論戦状態となった。

 AI技術の開発と進歩について、利点を重視し楽観論を展開するザッカーバーグ氏に対し、マスク氏は「AIは人類の脅威になりうるため規制が必要」という立場。互いに、相手を「AI技術に対する理解が限定的だ」と指摘し合ったということで、メディアを沸かせた。

 フェイスブックとテスラという先端技術をビジネスに活用し世界をリードする企業を率いるこの二者の間でも、AIについての見方が異なるというのが、興味深い。世界を大きく変える可能性を持つ技術だからこそ、こうした楽観論と脅威論も生まれるのだろう。

 本稿の第1回2回では、AIビジネスの最先端を走るPreferred Networks(PFN)社のCRO(チーフ・リサーチ・オフィサー)比戸将平氏の講演から、同社の携わる事例をもとにAI技術の開発にまつわる最新情報を述べてきた。

 このところのAI技術の飛躍的な発展から、もはやコンピュータが人間の知能に追いつく日もそう遠くはないというような漠然としたイメージが抱かれがちだが、開発の歩みを具体的に見ていくことで、実用化にむけた段階や難所もあることが見えてきたのではないだろうか。

 今回は、AIにつきまとう漠然とした「脅威論」――「AIが進歩すれば、機械に職が奪われる」「AIが人間の能力を超えるまで発展し、人間の存在自体が脅かされる」といった見方について、見ていきたい。

過度な脅威論が開発の足かせになる可能性

 AIが自律的に発展し、人間の制御を超えて暴走するおそれについては、世界でも実際に議論されている。また、そのような事態を防ぐためのAI開発における倫理規範が策定される動きもある。日本では、総務省がAIの開発指針(ガイドライン)を作成しており、7月にその案が公表された。

 PFNはこの指針の内容を検討する有識者会議に参加していたが、途中で脱退。比戸氏によると、「正しい事実理解に基づかないような安易な脅威論が入り込みすぎていた」という理由があったようだ。「その指針がそのまま規制のような形になり、AIの研究開発が日本で委縮してしまうという懸念があった」という。

 比戸氏は「人工知能という言葉がひとり歩きして、過度な期待論、過度な脅威論に振り回されるような状況が多い」と苦言を呈する。

「国なり組織なり会社なりが、そのように振り回されることのないようにしなくてはいけない。現実的な技術的理解と、技術の発展ロードマップに従ったガイドラインを求めたい」(比戸氏)。

 なぜ、このようにAIにまつわる「過度な」期待論や脅威論が、世間はおろか国レベルの検討会でも見られるのだろうか。ここでまず押さえておきたいポイントは、 「汎用人工知能」と「タスク特化型人工知能」の違いだ。

「強いAI」が擬人化して人類を脅かすイメージ論

 現在、さまざまな分野で実用化に向け開発が進められているのが「タスク特化型」の人工知能だ。

 囲碁をする、車を運転する、といったように、特定の目的のために動くもので、それ以外の用途にはそのまま使うことができない。それに比べ「汎用」人工知能は、複数のタスクを幅広く実行することができる人工知能だ。

 この「汎用」AIが、人間の代わりにどんなことでもできるようになると、果てはさらに進化して人間の能力を超えるのではないかという脅威論にたどり着く。

 人工知能が人間の能力を超える時、あるいは人工知能が自ら、より高い知能を持つ人工物を創り出すようになることを指して「シンギュラリティ」「技術的特異点」という。

 汎用人工知能がいつか生まれるのか、シンギュラリティはおとずれる可能性があるのかどうか、といった話題もよく語られる。そして、汎用人工知能が意思を持った状態を指す「強いAI」と結びつき、SF映画に出てくるターミネーターやロボットのような擬人化されたAIが人類の存在をおびやかすというようなイメージが出来上がる。

 もう一度言おう。今の開発ブームで飛躍的に進歩しているAIの技術は、タスク特化型の方だ。これは言ってみれば、単に現実的なタスクで工学的に役立つ道具として編み出されてきたものであり、そもそも「強いAI」を目指して研究されてきたわけではない。

 だから比戸氏は「今のAIは、どうがんばっても人間の知能には届かないと考えている」と主張する。「我々の理解としては、少なくとも今の技術の延長上には、人間の知能を超えるようなAIはない」と。

 このあたりの混同を解きほぐすことで「過度な脅威論」と距離を置くことができるのではないだろうか。比戸氏はこうも付け加えた。「強いAIを実現するには絶対、深層学習とは異なる、強いブレークスルーがなくてはならない。だが、そのブレークスルーが何なのか、まだ分かっていない」。

ヒトの仕事を奪うとき――タスク別予想

 現在開発が盛り上がっているのはあくまでも「特化型」のAI技術だが、深層学習以外の研究と組み合わせることで、これから「強いAI」の実現に向かっていくことは考えられる。

 しかし今はまだ、その道筋が見えてはいない。だから“シンギュラリティ説”を声高に訴えるような人がいたとすれば、残念ながらその人は技術的な認識が足りないか、あるいはそうすることによって単に何らかのメリットがある人なのだと思った方がよいだろう。

 興味深い資料がある。AI技術の進歩により、人間のすべての仕事が機械で全自動化できるようになるにはあと120年くらいかかるだろう、という研究者たちによる予測である。

 NIPS、CMLといった機械学習の世界最先端クラスのカンファレンスに2015年に参加した研究者たちに、機械が人間の仕事を代わりに行うことができるのがいつごろかを尋ねたアンケ―ト調査の結果をまとめた平均的な値だ。それぞれの回答結果の中央値を見ると・・・。

・洗濯物をたたむ作業には5年ちょっと
・小売販売業で約15年
・外科手術なら40年弱
・通訳は2024年ごろまでに
・AIがベストセラー本を書くのは2049年ごろまでかかる

 2015年に囲碁の対局でコンピュータがプロの囲碁棋士を破ったことが話題になったが、この囲碁についても、「AlphaGo」のように何千万局という自己対戦による学習をさせずに、人間と同じくらいの対戦回数だけで人間と同等レベルになるには、まだ10数年かかると出た(※)。
※「When Will AI Exceed Human Performance? Evidence from AI Experts 」 

 これらは研究者たちの予測をまとめたものであり、何らかの根拠のある数字というわけではない。だが、専門家たちはAIが人間の能力を超えるのにまだ100年以上かかると予想しているということを知れば、むやみに脅威論に振り回されることはなくなるのではないだろうか。

加熱するAI投資、見極めのコツ

 最後に、おまけとしてAI投資における優良スタートアップの見分け方を簡潔に紹介したい。AIブームは、投資の世界でも湧きかえっており、AI関連企業の株式への投資額は、2012年には5.8億ドルだったのが2016年には約10倍に。今年に入っても、米国では1億5000万ドルのAIベンチャーキャピタルファンドが立ち上がるなど、話題になった。

 だが、ここでもやはり冷静な目をもってもらいたい。AI関連スタートアップも含め、投資先をいかに選ぶか?

 比戸氏はまず「独自のAI技術を持っている、特許出願中、などと自社の強みをうたっている企業は、あやしい」と切り出す。今や、AIの進歩は日々、急速だ。数日単位で論文が出ては、その改善版が翌週には現れ、さらにまたそれを塗りかえるものが翌週に出てくるというスピーディな世界。

 「独自のAI技術」を持つスタートアップ企業があったとしても、世界中の何万人もの研究者たちがオープンな議論の場で磨いている技術に勝てるだろうか?いや、難しいだろう。そう考えると、このようなうたい文句には要注意、と分かるはずだ。

(第4回に続く)

 

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