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イノベーション
2017.09.22

ロボットが人間を超える“目”を持つ日
東京電機大学が開発を進めるコンピュータビジョン技術

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人間以上の精度を持つ“コンピュータの目”

IoT、AI、ロボット。最近これらのキーワードを耳にすることが多くないだろうか? 関連分野では世界中の研究者・技術者がしのぎを削り、日夜研究を重ねている。

7月20日に行われた、ソフトバンクの法人向けイベント「ソフトバンクワールド2017」の基調講演では、アメリカのロボット企業、ボストン・ダイナミクスが登壇。そこで、アーム付き4足歩行ロボット「Spot Mini(スポットミニ)」が登場し、会場を大いに沸かせた。

デモンストレーションでは、Spot Miniが自ら物体を手にし、移動して側にいる人物に渡してみせた。段差などの障害物を器用に避けていく様子は、まるで本物の生き物かのように見える。

CEOのMarc Raibert氏いわく、「Spot Miniは、視覚から得た情報をもとに、周囲の障害物と衝突しないように判断しながら歩いている」という。ロボットの目、すなわち“コンピュータビジョン(CV)”は、着実に生物の目に近づいてきているのだ。CVの発達が、今後のロボットの未来を大きく左右するだろうことを想像させてくれるようだった。

CVの研究は、教育の現場にも大きな影響を与えている。ロボット工学を学べる大学は国内でも年々増加し、中には大きな功績を挙げた研究室もある。東京電機大学もその一つだ。

東京電機大学の未来科学部ロボット・メカトロニクス学科の知能機械システム研究室(中村研究室)では、まさにそのロボットの目に関する研究が行われている。この研究室では、情報投影提示型「どこでも」インタフェースや、視覚障がい者を安全に目的地に導くための道案内システムなどの研究・開発に取り組み、複数のメディアで取り上げられた実績を持つ。研究室にお邪魔し、中村明生准教授と、大学院修士2年生の阿部さんにお話を伺った。

「CVは、カメラで撮影した二次元の画像から、三次元の被写体に関する情報を取り出すための技術です。分かりやすく言えば広い意味での画像処理に含まれます。ロボットでたとえると、目の部分に当たります」(中村氏)

東京電機大学 中村 明生 准教授 (未来科学部ロボット・メカトロニクス学科)

「なぜロボット・メカトロニクスなのに画像処理? コンピュータビジョン? と聞かれます。我々研究者にとっては何も不思議ではないのですが、一般の人は疑問に思うようです。そのとき、『ロボットの目』の部分ですよ、というと納得していただけることが多いです。加えて、コンピュータビジョン技術を使って身近にある困った問題の解決や、弱者のサポートを目指すシステムの研究・開発をしています、というと興味を持っていただけます」(中村氏)

CV技術を使った製品は、私たちの身の回りにもあふれている。顔認識やパノラマ合成機能搭載のデジタルカメラ、運転アシストシステムが実装されている自動車、画像に加え距離情報も取得可能なゲーム用入力デバイス(Kinectなど)がそうだ。さらに、9月13日に行われたAppleのイベントで発表されたばかりの新型プレミアムiPhone「iPhone X」にも、顔認証が搭載されるという。これらは世界中の研究者・技術者の努力の賜物である。

ペットロボットやヒューマノイドロボットの登場でロボットがより身近に感じられる昨今であるが、家庭内にロボットが入ってくるのはまだ先である。ロボット本体より、「ロボットの目」の普及の方が早そうだ。

「千里の道も一歩から」地道な努力が必須

修士2年の阿部香織さんは、中村氏の研究室でCVについて学んだ一人だ。

阿部 香織 さん (未来科学部ロボット・メカトロニクス学科 修士2年生)

「私がロボットに興味を持ったきっかけは、子供の頃に父と見た特撮映画です。特にメカゴジラが好きでした。それだけが原因ではないでしょうが、それ以来、機械系に指向をもち、高校も普通科ではなく、科学技術科に行きました。そこでさらにロボットに対する興味を深め、大学ではロボット・メカトロニクス学科に進学することにしました。

最初はロボットにのみ興味があったのですが、入学後、機械、制御、電気電子、情報の4分野からなる『メカトロニクス』を統合的に学ぶことができ、その関連分野の範囲の広さに驚いたのを記憶しています。座学や実習・実験を通して、情報分野の中でもカメラをセンサとして利用するCV技術に興味を持ちました。CV技術は、ロボットに留まらず家電機器、自動車、娯楽、防犯など幅広い応用先があります。そこで、学科の研究室の中でもCV技術を研究している中村研究室を志望し、希望通り所属することができました」(阿部さん)

阿部さんの言うとおり、CV技術の応用範囲はとても広い。実は、CV技術は人工知能(AI)分野のもっとも最初から考えられたサブ問題といわれているのだ。現在、第3次AIブームと言われているが、AI、CVの長足の進歩とコンピュータの発達とは切っても切れない関係にある。少し前までは扱うことができなかったこのような膨大なデータを高速に処理できるようになっているのだ。

現在、阿部さんは世界の各地域のファッショントレンドを調べる研究を行っている。一見CV技術とは関係なさそうだが、もちろん大きく関係している。調査の中では、WEBに散在する約7600万枚もの人物画像を収集し、データベースとしてまとめあげるという、気の遠くなるような地道な作業に取り組む必要があった。

「阿部さんの研究は、とある研究機関との共同研究であり、私が直接指示したものではありませんでした。彼女の画像収集作業を横から見たり聞いたりしていて、その努力に脱帽するしかありませんでした。7600万枚の画像を収集して処理するという作業は、並大抵の根性ではできないです。彼女の真摯な努力は周囲から認められ、様々なところで発表を行って、高い評価を得ています。惜しいことに博士課程には進学せずに就職するようですが、技術者として社会で活躍すると信じています。いくら技術が発達しても、誠実かつ地道に努力することができなければ成功はできません。『千里の道も一歩から』、これはどのような研究・開発でも同じだと思います」(中村氏)

AI、CV、ファッション、といった華やかな言葉と関連する研究、しかし泥臭い一歩一歩が重要ということらしい。

「実学尊重」「技術は人なり」国際ロボコンにも積極的に参加

東京電機大学では、大学内での研究だけではなく、グローバルな視点での研究にも力を入れており、「IDCロボットコンテスト」(IDCロボコン)の参加校の一つでもある。IDCロボコンは創造性や国際的感覚を有するエンジニアの育成を目的として、1990年に東京工業大学とアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)によって始められた。

2017年の参加国は、日本(東京工業大学、東京電機大学)、アメリカ(MIT)、中国(清華大学、上海交通大学、浙江大学)、韓国(ソウル大学)、タイ(国内大会で選抜された学生)、シンガポール(シンガポール技術デザイン大学)、エジプト(ミヌーフィーヤ大学)、メキシコ(国立工科大学)である。東京電機大学では、学内選考会を突破した6名の学生がロボコン参加のチケットを得ることができる。

「IDCロボコンでは国別・大学別のチームではなく、各国代表の学生たちをシャッフルした混成チームでロボットの設計・製作を行い、競い合います。大会初日に初めて顔を合わせた言語が異なるメンバが、英語でコミュニケーションをとり、二週間ほどでロボットを作り上げるという難しさがあります。しかし、共同作業を続けていくうちに次第にコミュニケーションが円滑となり、ものづくりも順調に進むようになります。ロボット製作を通して、世界の名だたる大学の学生と交流することで学生の創造性と国際感覚を養うことのできる、実践的な経験の場であるといえます」(中村氏)

中村研究室の様子

ロボコン以外にも、フォーミュラSAEプロジェクトにも参加するなど、実験実習に重きを置いている。東京電機大学の教育・研究理念である「技術は人なり」、すなわち技術者である前に社会の一員として常に成長する必要があるという理念の表れであるといえよう。

「メカトロニクス」広い視野を持ち、進め、進め

学生たちには広い視野を持って学問に取り組んで欲しいと中村氏は言う。

「ロボットに興味を持つことは素晴らしいことだと思います。しかし、ロボットはメカトロニクスの最新応用事例の一つに過ぎません。それに対し、メカトロニクスはもっと広い分野を表す言葉です。もともとは日本の技術者が提唱した和製英語ですが、現在は世界中の研究者・技術者に知られている言葉です。メカトロニクスは機械・電気電子・情報・制御といった、現代のモノづくりに欠かせない諸分野に関連します。研究者・技術者を志す学生たちには、広い視野を持って、地道に、コツコツと、研究にいそしんでもらいたいと思います。とにかく、進め、進め、です」

一口にロボットと言っても様々な分野に関連しているのだ。研究者・技術者の卵である学生たちがそれぞれの分野で将来を夢見てたゆまぬ研鑽をしている。この先の未来、彼らが科学技術立国・日本の未来を支えていくのだろう。

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