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イノベーション
2016.09.30

私たちの知っている会社ではなくなっていくインテル
「PCの会社」から「IoTの会社」へと大転換

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米国・カリフォルニアのインテル本社(写真提供:インテル)

 2016年7月、ソフトバンクが英アーム・ホールディングスを240億ポンド(約3兆3000億円)で買収するというニュースが世界中を驚かせた。

 アームはスマホ向けCPUの設計に特化した会社であり、その設計仕様は業界標準となっている。IT業界の専門家やアナリストの一部からは、3兆3000億円の買収は「無謀な賭けだ」という声も聞かれるが、多くは孫社長の決断を「本格的なIoT時代に向けた強力な布石」と評価している。

 それらのニュースや解説に接していて気になることがあった。インテルは何をしているのか、ということだ。

 インテルは言わずと知れた世界最大の半導体メーカーである。1968年の創業以来、約半世紀にわたりCPUを作り続け、コンピューターを進化させ、IT業界の成長を牽引してきた。調査会社のデータによると、パソコン(PC)に搭載された半導体のシェアは約80%に達するとされている。

 だが、スマートフォンやタブレットの波には乗り遅れた。PCのCPUはインテルの独壇場だったが、現在、スマホやタブレットのCPUは80%以上がアームの設計によるものだと言われる。

 これから到来するIoT時代はスマホの隆盛の延長線上にあると捉える向きが多い。だからIoT時代の覇権を握るのはアームだという声も聞こえてくる。スマホやタブレットの波に乗り遅れたインテルは大丈夫なのか。

クルザニッチCEOが示すこれからのインテル

 インテルは一体どうするつもりなのかと思いつつ、インテルのホームページを見てみると、ブライアン・クルザニッチCEOがインテルの今後の全社的な戦略を説明していた。

 4月に発表した「我々の戦略とインテルの未来」(Our Strategy and The Future of Intel)と題する文章である。

 クルザニッチCEOはその文章で、インテルが大胆に生まれ変わることを宣言していた。一言で言うと、「PCの会社」から「IoTの会社」になるというのだ。

 さらにクルザニッチCEOは、IoT時代に事業を展開していくうえで戦略のベースとなる5つのポイントを挙げていた。要約すると以下の通りである。

(1)IoT時代を支える最も重要なカギはクラウドである。

(2)PCや各種デバイスはクラウドにつながることで大きな価値を生み出す。

(3)メモリーや、FPGAのようなプログラマブル製品の進展がデータセンターやデバイスに新たな製品をもたらす。

(4)IoT時代の通信ネットワークは「5G」がキーテクノロジーとなる。

(5)「ムーアの法則」を引き続き進展させる。

「IoT時代」というと、どうしてもデバイスやフロントエンドの活用法に目が行きがちである。それに対して、いわば裏側のクラウドやデータセンターへの注力を表明するインテルの姿勢は、ある意味、新鮮に映る。

 さらに、同社はこれまでと同様に「ムーアの法則」を追求するという。ムーアの法則とは、インテル創業者の1人であるゴードン・ムーアが1965年に提唱した「半導体の集積密度は18~24カ月で2倍に高まる」という法則である。インテルはこの50年、ムーアの法則に基づいて劇的にCPU性能を向上させてきた。半導体業界では、ムーアの法則はもう限界に突き当たったという指摘もある。しかし、クルザニッチCEOは「ムーアの法則は今も生きている」という。

 IoT時代の戦略のベースとしてなぜ以上の5つのポイントが出てきたのだろうか。これらの5つは互いにどのように関連しているのか。インテルの東京オフィスを訪れて話を聞いた。対応してくれたのは、広報室 コーポレートPR担当 PRマネージャーの青木哲一氏である。

インテルは数年前から変化していた

──クルザニッチCEOが発表した戦略によると、インテルはずいぶんと思い切って方向性を変えるのですね。

青木哲一氏(以下、敬称略) いちばん大きな変化は価値観の変化です。これまでインテルはCPUの性能をいかに上げるかを追い求めていました。それが今は、インテルのテクノロジーを使う人たちにどういう経験や体験を提供できるかという点に価値を置くようになりました。

──その方向転換はいつからですか。

青木 対外的に発表しているのは去年の後半ぐらいからです。

──「ユーザーに経験や体験を与える」ことに価値を置くようになったというのは、すごく大きな変化ですね。

青木 実はユーザーに経験や体験を与えるメーカーになるという話はすでに数年前からあったのです。

 パソコンだけでなく、スマホやタブレットなどいろいろなユーザーの選択肢が登場する中で、これからはCPUの性能を上げるだけではなく、ユーザーの経験や体験に目を向けなければいけないという認識になっていたのです。これからの時代は性能だけではないだろうと。

──数年前から変わりつつあったんですね。デバイスの多様化のほかに、どういう環境の変化がありますか。

青木 まず、よく言われるように、今後、ネットにつながるモノが飛躍的に増えていきます。昨年で、ネットにつながっているデバイスは約150億台と言われていますが、これが2020年までに500億台になるという予測があります。そのとき、センサーの数は約2120億台、ネットユーザーが1日に使うデータ容量は1.5ギガぐらいになると言われています。

 また、インテルの売り上げ構成も実際に変化してきています。クラウドサーバーやデータセンター関連の売り上げや利益がどんどん伸長しているのです。

──そういう状況を踏まえて「IoTの会社になる」という戦略が必然的に出てきたわけですね。

インテル 広報室 コーポレートPR担当 PRマネージャーの青木哲一氏

IoT時代はしっかりした基盤があってこそ

──クルザニッチCEOは戦略のベースとして5つのポイントを挙げています。これらは一見バラバラに見えるのですが、なぜこの5つなのでしょう。

青木 1つの図にまとめて説明することができます(下の図)。今まではPCがすべての中心にありました。でも今後は、この図のようにPCはさまざまなデバイスの中の一部となります。スマホもタブレットもすべてデバイスの一部という位置づけです。

インテルが描く「成長に向けた戦略的サイクル」(出所:インテル)

 それらのデバイスは単体で性能を発揮するだけでは価値がありません。クラウドとデータセンターに接続して初めて価値をもたらす時代になってきています。

 デバイスが吸い上げたデータはクラウドとデータセンターのサーバーに送られ、処理、分析、加工され、利用されます。そして、データの一部はまたデバイスに送られます。このようにデバイスとクラウド、データセンターの間でデータがぐるぐると回る。これがIoTの世界です。インテルは、このサイクルを高速で回して、世界中の人たちにいろいろなサービスや経験、体験を提供しようとしています。

──インテルのテクノロジーはそのサイクルを高速に回すためのものだということですね。

青木 速く回すにはネットワークの高速化が必要です。そこで通信会社をはじめとした業界の皆さまと協力して5Gネットワークの開発などに取り組んでいます。また、サーバーやPCなどの性能を上げるためには、メモリーや、FPGAなどプラグラマブル製品の開発が極めて重要です。もちろんCPUの高速化も欠かせません。だからムーアの法則も引き続き追求していきます。

──IoTの動向に関する報道は、アプリの開発や活用事例などフロントエンドの話が目立ちます。インテルも、車載機器、エネルギー、小売りなど様々な分野でのIoT活用の取り組みを発表しています。しかし、クラウドとかデータセンターなど、基盤の部分にもさらに力を入れていくのですね。

青木 実はこれまでPCの影に隠れてあまり目立たなかったのですが、クラウドやデータセンターでは「インテル アーキテクチャー」というインテルの製品を使ったサーバーが基本的なインフラになっています。全世界のデータセンターで、すでにかなりの割合でインテルのアーキテクチャーを使った機器が採用されているのです。

 これから、500億台のデバイスがネットにつながったり、毎日1人が1.5ギガのデータを使ったりするような時代になったとき、クラウドやデータセンターがしっかりしていなくては社会が成り立ちません。だから、そこの基盤部分を支え確実なものにしていくのがインテルの戦略の主眼になっています。

半導体の集積度はもっと上げられる

──ムーアの法則を引き続き追求するということですが、そこはブレないのですね。

青木 そうですね。CPUが先ほどのサイクルを回す基礎になりますし、インテルのビジネスの根幹ですから。

──ムーアの法則は終わったという声もありますが。

青木 よくその質問を受けますが、今すぐに限界が見えるということはないと思います。これまで何度もブレイクスルーを実現してきましたし、今後もいろいろな挑戦を行い、もっと集積度は上がっていくはずです。

 実際に少し前までは回路線幅10ナノメートル(ナノは10億分の1)なんか絶対に無理だと言われていたのですけど、開発は進んでいます。7ナノメートル、5ナノメートルも見えてきています。そういった意味では、すぐには限界は見えていないと言っていいでしょう。

──今日はインテルの戦略の全体像と本気度がよく分かりました。どうもありがとうございました。

取材を終えて

 インテルは手をこまぬいているわけではなかった。IoT時代の到来を迎えた今、同社は創業以来の最大の方針転換を図ろうとしていた。それは、テクノロジー一辺倒だった会社がリアルな人間と向き合おうという転換であり、いわば“人間くさい”会社に生まれ変わる取り組みと言ってもよい。

 新たなビジネスが生まれ、ますますプレイヤーが増えるIoT時代において、どのような存在感を発揮し、どのように世の中を作り変えていくのか。インテルの挑戦に注目したい。

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