男性衣料の比率を高めた♯ワークマン女子の新型店は、1号店を2024年9月24日開業のエミテラス所沢(埼玉県)の3階に構えた。売り場面積は150坪とSC内のテナント店としては国内最大。同SCには2階に「ユニクロ」も入居している
ワークマンが一般消費者向けの巨大カジュアルウエア市場で攻勢をかけようとしている。2018年から一般客への客層拡大を進めてきたが、今後は作業服を扱わない一般客向け専門の「#ワークマン女子」(女子店)を成長戦略の柱に据え、ファミリー層に向けた衣料品を強化、これまで避けてきた衣料品最大手、ユニクロとの正面対決に挑もうというのだ。そのワークマンの最新戦略を解説する。
〈戦略〉ワークマンプラスの成功に続き、#ワークマン女子での成長を目指す
ワークマン(群馬県伊勢崎市、小濱英之社長)はかつて建設技能労働者など個人のプロ客に向けて作業服、安全靴、作業用品をそろえた小型店「ワークマン」(売り場面積100坪)を全国にフランチャイズ(FC)方式で展開していた。
しかし、団塊世代の引退で職人が減少し、中長期的な成長に限界が見え始めたことから、2018年にプライベートブランド(PB)を軸に、アウトドア・スポーツ・防水ウエアを目立たせた「ワークマンプラス」の展開をスタート。高機能・低価格を武器に、職人だけでなく一般客をも取り込み、大ブームを起こした。
ワークマンプラスは売り場面積こそ150坪に拡大したが、基本的にはワークマンと扱っている商品は同じ。職人向けの作業服などを店の右半分に、一般客も買えるアウトドアやスポーツ関連のPBを店の左半分に配置し、商品の見せ方を変えることで客層の拡大を狙ったのだった。
その売り上げ好調を受け、同社は改装などによって店舗を順次ワークマンプラスへと業態転換。2024年8月末時点のワークマンプラスの店舗数は567店とワークマンの367店を200店も上回り、現在の主力業態になっている。
ワークマンプラスはプロ職人と一般客の両方の客層を取り込むことで大ブレイクした。ロードサイド立地を中心に出店、またはワークマンから改装転換し、今や同社の主力業態となった
・ワークマンプラスと異なるのは作業服を扱わないこと
一般客への客層の拡大によって飛躍を遂げた同社が次の成長戦略の柱に据えるのが2020年に開発した#ワークマン女子だ。女性衣料を拡大し、男性衣料や子供衣料、靴なども扱った。ワークマンプラスと異なるのは作業服を扱わないこと。まさに一般消費者向けに特化した専門業態であるといえる。
♯ワークマン女子は2020年10月に横浜市のショッピングセンター(SC)内に1号店を開設。首都圏や大都市を中心にSC内に直営店を広げる一方、カインズ(グループのホームセンター)などの大型路面店を含むSCの敷地内への路面店の出店、ロードサイドのフリースタンディング店(単独路面店)の出店などFC展開も進めてきた。
2024年8月末時点ではSC内27店、SC敷地内25店、単独路面店2店と計54店を展開。店名は異なるが商品構成が同一であるSC内のワークマンプラス12店を加えれば、実質的には66店に増えたことになる。
・SC敷地内を中心に地方での出店を加速する
♯ワークマン女子は今秋からSC敷地内を中心に、単独路面店も加え、地方での出店を加速する。「既に35店の出店計画があり、その他にSC建物内にも4店出店する。2025年末には110店前後になる見通しだ」と土屋哲雄専務は話す。つまり、1年余りで一気に約40店を増やすというわけだ。
土屋哲雄専務。「ユニクロと戦ったら勝てないと思い、女子店の男性衣料はアウトドアなどのアクティブウエアに特化してきたが、その結果、使用頻度が低い商品ばかりになってしまった。デザイン性が向上し、機能性素材の開発が進むなどようやく環境が整った」と話す
2024年9月19日にはバロー羽島インター店(岐阜県)の敷地内に開店。2024年10月にはカインズ下妻店(茨城県)、イオンモール土岐(岐阜県)、ヤマザワ花沢町店(山形県)の敷地内に出店する。その他、イオンモールやヤマザワ、カスミ、ゆめタウン(イズミ)などスーパーマーケットやSCの敷地内に20店以上を出店する。
単独路面店はこれまで2021年に開いた南柏店(千葉県)と盛岡南店(岩手県)しかなかったが、2024年9月12日に小平青梅街道店(東京都)を開店。2024年11月には真岡大谷店(栃木県)、阿見店(茨城県)、岡崎インター店(愛知県)、田辺文里店(和歌山県)を出店。2025年の出店も数店決まっている。
認知度を高める役割を担っていたSC内店は2025年春に開くららぽーとエキスポシティ(大阪府)を最後に出店は終了する。
・♯ワークマン女子を本格的なファミリー衣料の店に変える
アウトドアブームが陰りを見せていることから、今秋から♯ワークマン女子における男性衣料の約3割を従来のド派手な原色が多いアウトドア・スポーツ系から、同社が「大人カジュアル」と呼ぶシンプルなデザインで「きれいめ」なテイストの服にシフト。1年後にこの比率を5割に高め、女性衣料の「大人かわいい」テイストと統一する。
2024年8月に開いた展示会で披露された今秋冬物の大人カジュアル。これまでのアウトドア・スポーツ系ウエアに見られたビビッドカラーは姿を消し、シックな仕上がりになっている
大人カジュアルは現在約50品目を展開しているが「2025年4月には約50品目を追加発売する」と大内康二執行役員商品本部長。これらは女子店の専用商品とし、ワークマンプラスでは購入できない。
大内康二執行役員商品本部長。「新しい女子店は何かを削るわけではなく、大人カジュアルなど新たな商品をオンする。だから客層も広がるはずだ」と話す
商品構成も大幅に変更する。従来は女性衣料が2に対して、男性衣料は1の割合だったが、2025年9月にはほぼ1対1にする。靴や子供衣料の比率も増やす。これによって♯ワークマン女子はテイストが統一された本格的なファミリー衣料の店に生まれ変わる。新店は「ワークマンファミリー」に店名を変更することも検討しているという。
・家族で使える店にし、来店頻度を向上させる
♯ワークマン女子の商品政策を大幅に変更するのは、男性客の来店を促し、家族で使える店にすると同時に、リピート客を増やすためだ。
女子店は新規開店すると高い売り上げを示すが、開店2年目以降は前年を割り込む店が多いという課題があった。
そこで、女子店専用商品の男性衣料(大人カジュアル)を増やすことでワークマンプラスなどとの自社競合を避けるとともに、親子がコーディネートできる商品を増やして男性客の購入率を高め、ファミリー客を拡大。使用頻度が低いアウトドア系衣料だけでなく、毎日着るシンプルなデザインの普段着を増やすことで、来店頻度を高めようともくろんでいる。
・ユニクロとの局地戦を決断、しまむらにも挑む
ただ、これまでは業界最大手のユニクロと真っ向勝負をするのは避けてきた。しかし、2023年秋から使用頻度の高い肌着を強化したところ、絶好調。「ユニクロと戦ったら負けると思っていたが、どうも負けていない」(土屋専務)と自信を深め、新たにベーシックなカジュアル衣料も強化し、正面対決に挑むことを決断した。
ただし、同社が得意とする機能性の高さにはこだわり、今秋から新たに「機能の格付け」(グレード分類)を設定し、分かりやすい表示にした。また、価格はユニクロの半額以下に抑えるなど競合対策も行っている。
男性衣料の強化には別の側面もある。「地方ではしまむらとの戦いになる。しまむらは女性衣料が強いが、男性衣料なら勝てると考えた」と土屋専務は明かす。
・#ワークマン女子は国内800店を目指す
今秋から地方での路面店出店を加速する#ワークマン女子は国内で中期的に400店、長期的には800店の展開目標を掲げる。主戦場は人口5万人以上の小商圏だ。同一商圏内にワークマンプラスがあっても成り立たせる。まずは集客力や駐車場の共用などで相乗効果が出せるSC敷地内への出店を先行し、物件が尽きたところで単独路面店の拡大スピードを高めたい考えだ。
〈業績〉冬物の苦戦が響き、増収も2期連続の減益に
ワークマンの2024年3月期決算は、チェーン全店売上高1752億5000万円(前期比3.2%増)、営業総収入(企業の売上高に相当)1326億5100万円(同3.4%増)、営業利益231億4200万円(同4.0%減)、経常利益236億6600万円(同4.0%減)、当期純利益159億8600万円(同4.0%減)と増収ながら減益となった。
減益は2期連続。暖冬による冬物商戦の低迷が響き、既存店売上高が前期比1.4%減と2015年3月期以来、9期ぶりに前年を割った。円安に対応し海外仕入れ品の利益は改善したが、冬物商品の値引きやセンター在庫が増加し、売上原価は同2.3%増。人件費や販促チラシなどの販売費、神戸流通センターの拡張による地代家賃、運賃や業務委託料が膨らみ、販売管理費が同16.6%増加し、利益を圧迫した。
2024年3月期はワークマンプラス11店、#ワークマン女子22店の計33店を新規出店。ワークマンからワークマンプラスへの業態転換を中心に改装転換を66店で実施、3店を閉鎖し、期末店舗数は1011店になった。その結果、ワークマンは401店とワークマンプラスの店舗数(552店)を初めて下回った。
PBの売上高は1185億7700万円(同6.1%増)。PB比率は67.8%と前の期に比べ1.9ポイント上昇した。
なお、2024年4~6月の業績は既存店売上高が前年同期比0.6%増と2四半期連続で前年を上回り、チェーン全店売上高は同4.1%増と増収率を高めたが、販管費が前年同期比で9.2%増加し、営業利益以下の利益がそれぞれ同約1%減少している。
〈成果と課題〉肌着が絶好調も、開店2年目以降の既存店が苦戦
インナー市場に本格的に参入した2024年3月期。秋冬は化粧品にも使用されている保湿成分を練り込んだ女性用肌着を発売し、防寒女性インナーが前期比69.6%増となるなど成果を上げた。
今春夏は旭化成と共同開発した糸を使った吸放湿機能を持つ冷感肌着を男女で投入し、夏物肌着は60万枚売れる大ヒット。インナーは5年後に国内シェア5%と売上高500億円を目指している。
2024年秋に投入した婦人肌着「シン・ホッとするインナー」シリーズ。吸湿発熱、保温、吸放湿性、ストレッチといった機能を持ち、最安は780円など全商品が980円(税込み)以下で購入できる
2022年から始まった円安の状況下でも「高機能×低価格」というイメージを守るため、2022年2月にPB商品の「価格据え置き宣言」を断行したことから、2023年3月期は当初から減益予定だったが、続く2024年3月期に増益予想を達成できなかった。
課題は開店2年目以降の既存店の伸び悩みだ。
新規出店した店舗の売り上げは引き続き好調で、2024年3月期はワークマンプラスの新店が1.9%、#ワークマン女子の新店が2.9%、チェーン全店売上高を押し上げた。2024年4~6月はそれぞれ1.1%、2.8%の貢献をしている。
しかし、既存店を見ると2024年3月期はワークマンプラスが前期比3.4%減、#ワークマン女子が同11.1%減と低迷。特に#ワークマン女子の落ち込みは深刻だ。2024年4~6月もそれぞれ前年同期比で1.9%減、10.2%減という結果になった。
なお、ワークマンプラスは新店と既存店共にスクラップ&ビルドと改装した店を除いた数字。改装1年目の既存店は大きく伸びている。
〈今後の計画〉プロ職人に向けた独自商品も強化、ワークマンプラスも改装
2025年3月期は、チェーン全店売上高1839億8000万円(前年同期比5.0%増)、営業総収入1385億6400万円(同4.5%増)、営業利益236億3200万円(同2.1%増)、経常利益241億6700万円(同2.1%増)、当期純利益163億2500万円(同2.1%増)と3期ぶりの増収増益を見込む。
円安の進行に伴い仕入れ原価が上昇しているが、「2年間価格を据え置いたため、価格の優位性があまりにも大きくなっている」(小濱英之社長)、つまり価格を多少上げても競争力を保てるとして、一部商品の値上げに踏み切った。
2024年6月に主に作業関連の年間定番27品目の価格を引き上げ、秋冬物は2024年9月までに防寒商品と年間定番の計32品目を値上げ。2025年春夏物の一部商品で値上げを検討する。これによって商品の改廃も含め、客単価が約3%上昇すると見込んでいる。ただし「業界最安値は必ず守っていく」(小濱社長)という。
小濱英之社長。「女子店はオープンモールを中心に単独路面店を含めたロードサイド出店を本格化する。一方でワークマンプラスのドミナント化(地域集中出店)を進め、中長期的には全社で1500店体制を築く」と語る
課題である開店2年目以降の既存店の伸び悩みの解決策は、リピーター客の獲得による来店頻度の向上と、業態間の差別化による自社競合の低減が主眼になる。「幅広い顧客層に支持されるマス化商品の拡大と、各業態の強みを際立たせる専売商品の開発に取り組む」と小濱社長は語る。
マス化商品は機能と価格に照準を定めたベーシックアイテムを開発する。夏に大ヒットした機能性肌着「シン・呼吸するインナー」をはじめとしたインナーウエアを男女共に拡充。大人カジュアルをはじめとしたメンズカジュアルを強化する。
#ワークマン女子だけで販売する専売商品は、既に述べたように男性衣料で大人カジュアルの割合を2025年9月までに5割に高める。現在専売商品が5割を占める女性衣料でも、トレンドに対応し発注から1~2カ月で店頭に並べる短納期生産品を強化、割合をさらに高める。
女子店だけで販売する専売商品のうち、市場調査を実施してトレンドをつかみ、短納期で生産する商品は今秋から「ワークマンカラーズ」というブランドに統一した
その一方で、主要顧客であるプロ職人に向けた独自商品も強化。「ワークマンプラスの改装も今また始めている」と小濱社長は明かす。
同社が次の成長戦略の柱に据えている#ワークマン女子の業態改革の取り組みは、ワークマンと同じ商品の見せ方を変えることでワークマンプラスを生み出したのとは異なる本格的な新業態開発であるといえる。
一般消費者向けの巨大なカジュアルウエア市場に踏み込むことで、地方などの局地戦においてはユニクロとの正面対決も避けられないとみられるが、その勝負はどうなるのか。しばらくは目が離せない。

