マミーマート代表取締役社長の岩崎裕文氏(撮影:酒井俊春)
ヤオコー、ベルク、ロヂャース・・・東京都と接し、都心のベッドタウンとして発展してきた埼玉県では食品スーパー各社が今日もしのぎを削っている。そんな中、近年台頭しているのが「生鮮市場TOP!」や「マミープラス」を運営するマミーマートだ。2023年9月期決算で売上高が前年比9.1%増の約1422億円、営業利益は18.7%増の約58億円(スーパーマーケット事業)を記録するなど、破竹の勢いで成長している。急成長の秘密はどこにあるのか、マミーマート代表取締役社長の岩崎裕文氏に話を聞いた。
強み異なるマミーマートの2業態
──埼玉県を中心に、東京都や千葉県などで「生鮮市場TOP!」「マミープラス」を相次いで出店し、大当たりしています。それぞれどのような食品スーパーなのでしょうか。
岩崎 裕文/マミーマート代表取締役社長1998年10月にマミーマート入社。1998年12月に取締役、1999年1月には取締役営業副本部長に就任。その後、2001年4月に取締役総合企画室長、2002年4月の常務取締役経営企画室長の就任を経たのち、2002年10月に常務取締役管理本部長に就任。2003年10月に常務取締役営業本部長、2006年10月に常務取締役業務統括本部長、2006年12月に就任した代表取締役副社長 兼 業務統括本部長を経て、2008年12月より代表取締役社長に就任。
岩崎裕文氏(以下敬称略) 「生鮮市場TOP!」は「ハレの日」向け、「マミープラス」が「ケの日」(日常)向けの食品スーパーと捉えるのが分かりやすいと思います。いずれの店も、徹底して他店との差別化にこだわっています。
生鮮市場TOP!は「食べること/料理が好きな人」をターゲットとした広域商圏型の業態です。1店舗あたりのアイテム数は約1万とそれほど多くありませんが、約99%の商品が食品と、とにかく食にこだわっています。
生鮮市場TOP!店舗はEDLP(Everyday Low Price:毎日商品を低価格で販売する方針、特売やチラシ販売を極力行わない)で運営することに加え、青果・精肉・鮮魚の生鮮三品は1商品あたりのボリュームを大きくし、お得感を演出しています。

また、「青バナナ」や「むかご」など他店ではなかなか見つからないような商品も販売し、「食/料理好き」を呼び込んでいます。こうした商品政策を打つことで“近所からスーパーを2、3軒先飛び越してでも「生鮮市場TOP!」に足を運びたい”というニーズを獲得できているのです。実際、商圏は半径2〜3キロと通常の食品スーパーよりも広くなっています。
「マミープラス」は生鮮市場TOP!とは異なり、半径500m以内を主な商圏に据えたディープディスカウントストアです。「他店よりも1円でも安く」をモットーに、加工食品を安売り販売しています。これが可能になっているのは、アウトパック商品(店舗外でつくられた商品)を中心に販売し、コストがかからない店舗運営を実現できているからです。

当然ですが、消費者は安売りが大好きです。ただ価格の「割安感」はあくまで相対的なもので「他店よりも〇〇円安く買えた」という体験こそが(安いという)価値の本質だと思います。実際、マミープラスでは1週間に1回来店する人が「商圏内の他店よりも安い」、と牛乳を3〜4本まとめ買いする、という買い方をしています。
──生鮮市場TOP!では、子会社の「彩裕フーズ」が開発するオリジナル惣菜商品も人気です。全国スーパーマーケット協会が主催する「お弁当・お惣菜大賞」では11年連続で受賞商品を輩出しました。
家業を継いで実感した「EDLP」の強さ
岩崎 食にこだわるのが生鮮市場TOP!の特徴ですから、食品スーパーで最も差別化が容易な惣菜には当然注力しています。2024年の「お弁当・お惣菜大賞」で麺部門最優秀賞を受賞した、1日分の野菜を半分摂取できる「ギルトフリーミートソースのスパゲッティ」など、他店では見られないエッジの立った商品を販売しているのです。
生鮮市場TOP!の惣菜売り場
ギルトフリーミートソースのスパゲッティ。全国スーパーマーケット協会が主催する「お弁当・お惣菜大賞2024」で麺部門最優秀賞を受賞
元料理人やパティシエなど専門家を商品開発チームに抱えていて、「良さそうだ」と思った商品はどんどん販売する方針で運営しています。その分、商品の改廃も1カ月に2回とハイペースで行うなど「来店する度に、新商品が販売されている」という驚きと新鮮味をお客さまに与えたいと考えています。

──2008年に家業を継ぐ形で社長に就任されました。当時はデフレ真っ只中で食品スーパー各社とも苦戦を強いられていましたが、生鮮市場TOP!やマミープラスのような業態を開店しようと当初から考えていたのでしょうか。
岩崎 当時は営業利益率も今よりずっと低かったですし、良くも悪くも「チラシ特売」に頼って売り上げアップをねらう普通の食品スーパーだったと思います。
特に、90年代後半から2000年代前半にかけてのデフレ期は他店も含め既存店売上高で前年割れするケースが多発し、ビジネスモデルの限界が囁(ささや)かれている時代でした。バブル期に大量出店した食品スーパー間で、過当競争に陥っていたのです。
そうした中で私が考えたのは「EDLPを基本とし、売り上げの平準化を目指す」こと。従来のように週に1回のチラシ特売日に大きな売り上げを期待する、というビジネスは維持できないと気づいたのです。というのは、特売日は大規模な売り場変更が必要で、人件費がかさみます。さらに特売日に雨が重なってしまい商品が売れ残ると、単純にコスト増になってしまうのです。
EDLPは店舗オペレーションが毎日変わらないので、人件費を抑えられます。さらに「いつ来店しても安い」とお客さまに認知されることから、他店に目移りされづらく、売り上げが安定しやすいのです。EDLPでは爆発的な売り上げアップは見込めないかもしれませんが、中・長期的にみると安定した成長曲線を描けるのです。
──2023年には、EDLPを軸にした食品スーパーが銀座の一等地に出店しました。マミーマートも、23区内に出店する予定はあるのですか。
マミープラスは「第2のオーケー」になり得る?
岩崎 生鮮市場TOP!もマミープラスも、埼玉県だけでなく東京都内を含めた関東一円に出店を進めていく考えです。
特にマミープラスに関しては、狭い商圏で商売をするディープディスカウントストアという特性上、駐車場スペースなしでの出店ができる23区内はうってつけでしょう。ただ、現在は資材コストの上昇から賃料も上がっていますので、コストに合う物件が登場すれば、という条件付きではありますが。
──特に都内には単身者も多く、加工品と惣菜へのニーズは他エリアと比較しても根強いでしょうね。
岩崎 基本的に今後の日本のマクロ経済状況を考えると、共働きが一般化するでしょうし、惣菜はまだまだ伸びる余地があると思います。料理離れも進んでいますから、特に揚げ物類は成長カテゴリーでしょう。
──今後の展開としてどのような目標を掲げていますか。
岩崎 既存店売上高を毎年堅調に伸ばしていくことです。今後日本経済はインフレ基調が予想されますので、コストを抑えることが難しくなるでしょう。極端に言えば、前年と同じ売り上げでは利益を確保できなくなります。商圏で抜きん出る食品スーパーであり続けるためにも、価格と商品政策にはこだわっていきます。
また、まだ店舗数が少ない茨城県や栃木県で出店を加速させていきます。特定エリアで店舗数が少ないと、どうしても取引先との交渉がうまくできません。既存店を成長させながら、出店数を増やす、という小売業の王道を突き進んでいきます。


