* 本コンテンツは以下講演の【講演動画】と【全文採録記事】で構成しています *
第6回 ファイナンスイノベーション
基調講演「日本企業のCFO/FP&A組織の変革が始まっている」

開催日:2023年7月18日(火)
主催:JBpress/Japan Innovation Review

「失われた30年」と言われる1990年代以降、日本の潜在成長率が低迷しています。どのようにすれば、日本企業の稼ぐ力を強くさせられるのでしょうか。ストラットコンサルティングの代表取締役で、経営管理・FP&Aアドバイザーの池側千絵氏は、その対策の一つとして「日本企業の経営管理機能の強化、管理人材の育成」を提案します。

 親会社、子会社といった組織ごとの自律を尊重する日本企業に対し、欧米などの世界的企業では、全社を一つのグループとして捉えて経営管理し、グローバル展開している例が多く見られます。特に、組織における「FP&A」の配置や役割に大きな特徴があり、日本企業においても近年そのような組織体制を参考にするケースが増えてきています。

 これからの日本企業はどのように経営管理機能を高め、組織を変革していけば良いのか。具体例を交えながら池側氏が解説します。

※ Financial Planning & Analysisの略。業務管理および財務計画の立案、財務データの分析を行う職種またはその業務のこと

【TOPICS】

  • 経営管理機能高度化で、日本企業の稼ぐ力を強くする
  • 日本企業と米国企業における経営管理組織の違い
  • FP&Aビジネスパートナーとは
  • FP&Aは組織の「意思決定の質」を高める
  • 日本企業におけるFP&A機能の導入事例について
  • FP&A機能導入による6つの改革ステップ
動画挿入位置

組織の自律を尊重する日本型と、各事業に経営管理人材を配置する米国型

池側千絵氏(以下、池側氏) こんにちは。経営管理とFP&Aのアドバイザーをしている、池側千絵です。よろしくお願いします。

 本日は経営管理機能を高度化することで日本企業の稼ぐ力を強くすることを目指すという話をします。日本企業の経営管理組織は、どのような特徴や課題があるのか。そこで皆さんに参考にしていただきたいFP&Aビジネスパートナーとは何なのかや、その役割、そして日本企業でFP&A機能を導入している会社が結構ありますが、その導入事例や成果を出せるようにするステップについてもお話をします。

 まず、自己紹介をさせてください。私は、新卒でP&Gという外資系企業のファイナンス部門に入社してから、いくつかの外資系企業の子会社のCFOやFP&Aの仕事を2019年までやりました。

 FP&Aというのは「Financial Planning & Analysis」と言って、経営管理・管理会計の専門職のことです。その中で一度、日本企業と合弁をすることがあり、そこで初めて日本企業のCFO(最高財務責任者)、経理部の方、そして事業部の中の事業管理の方々と仕事することがあって、日本企業と米国の会社は経営管理の組織体制が違うことに気が付きました。

 その後は、「なぜ違うのか」「日本企業はどのような方向に行くのがいいのか」ということをいろいろ研究したり書籍を書いたりしてきました。今は日本企業の方にこの話をすると「やってみよう」という会社さんが結構あるので、その場合にどのように取り入れるのか、どのように成果を出すのかという研修やアドバイスなどをしています。その他、プライム上場企業の社外取締役などをしています。

 私の著書です。これは私の博士論文をまとめた研究書なのですが、管理会計担当者、つまりFP&Aにはどのような役割、知識スキルがあると良いのか、どのようなステップを踏んで成果を出すのかということを書いているので、ご覧ください。

 それでは、まず「経営管理機能高度化で、日本企業の稼ぐ力を強くする」という話から始めます。

 昨今、失われた30年と言われる1990年代以降、日本の潜在成長率が低迷している、また少し前からROE(自己資本比率)が低い、そのROEが低いのは利益率が低いからであると言われています。特に最近は、資本コストや株価を意識した経営が求められていて、直近ではPBR(株価純資産倍率)1倍割れが問題になるなど、業種別に見ても全ての業種において日本企業のPBRが最も低いなどと言われています。

 いろいろな対策がありますが、対策の一つとして日本企業の経営管理機能の強化、経営管理人材の育成を提案しているので、それについて本日は話をします。

 まず、日本企業の一般的な経営管理組織の特徴です。この図は「ワールドクラスの経営」という書籍から参照しているのですが、日本企業は基本的には親会社、子会社といった法人を基本に組織が成り立っています。そして、事業部門・子会社の自律を尊重するということで、どうしても部分最適になってしまいがちです。本社が事業部門を尊重するあまり、事業に深く入り込むのが難しく、全社視点で資源配分しにくい状況にあります。

 事業部門、子会社ごとに違うシステムや業務プロセスがあって、昨今進んでいるDXにしてもいろいろなシステムが会社中にたくさんあり、全社統一するのは非常に難しい状況があります。法人ごとに採用し、また給与体系が違うこともあって、例えば子会社に採用されるとゼネラリストとしてずっとその子会社でキャリアを積む。海外へ進出する時も、やはり日本は日本、海外は海外と言っているケースも多いです。

 また、経理部が財務会計、制度会計が中心になってくるので、財管一致、財務会計と管理会計を一致するということをやっている会社が多いと思うのですが、その場合なかなかグローバル経営に対応しにくいように思われます。

 一方、ワールドクラスの、特に米国、欧州を中心とする企業の経営管理体制はどうなっているでしょうか。もちろん法人はあるのですが、法人単位に考えるのではなく、全世界を一つのグループとして考えて、事業と機能の掛け算のマトリックス組織になってグローバル展開をしている会社が多いです。

 機能というのは、例えば社長、CFO、CHRO(最高人事責任者)、マーケティングなど、それぞれの機能の部署があって、その長がCxO(最高○○責任者)として存在します。そして、それぞれの事業部門にCxOが人を出して全社のことが分かるようにしています。例えばCFOはファイナンス部門のトップですが、自分の部下を各事業部門に「ミニCFO」「事業CFO」という形で派遣をして、その下にFP&Aと呼ばれる経営管理人材がいます。事業部の中にも例えばマーケティング担当、営業担当などがいて、そこに情報が入ってくるので、CFOは世界中のキャッシュがどうなっているかが分かる体制になっていることが一般的です。

 特に、CFOとCHROは社長を支える右腕・左腕ということで、CFOの下にはFP&Aが、CHROの下にはHRBP(Human Resource Business Partner)がいるという形が一般的です。それが今、日本企業にも紹介されていて、関心を持たれています。

 本社は強いです。本社が全社視点でポートフォリオ管理をし、方針を決めて子会社・事業部門に落としていく形です。採用はジョブ型なので、機能別に採用して人材育成をしていきます。ただ、例えばファイナンス部門に入った人でも事業部門をまたいで異動するので、全社のいろいろなことが分かるようにローテーションをしていきます。

 特にCFOとFP&A組織について本日は話をしますが、大きな違いとして日本企業のCFOは経理財務部門の担当役員であることが多く、経営企画や事業企画、事業管理などの部門はCFOの配下にないことが多いです。

 ワールドクラスの米国企業では、CFOの下に経理財務だけではなく、経営企画、経営管理、事業管理的な機能も全部入っていて、会社全体の経営管理や管理会計全般を担当することが多く、先ほどお話ししたようにFP&Aが配下にいて会社中に散らばっているという状況です。

 この図は特にCFO組織の内容を書いた組織図ですが、左側の一般的な日本企業を見るとCFOは経理財務担当であり、別途、経営企画部門があって別の部署になっています。そして、本社に経理と経営企画があって、事業部門・子会社には事業本部長の下に事業を管理するような部署がありますが、いろいろな部署にいろいろな計数管理をする人たちが会社中にたくさんいます。その人たちを一つの部門にまとめたり、一つの専門職として考えたりという動きは、日本企業にはあまりないのが一般的です。だからこそ、専門職として育てることがしづらい状況です。

 右側は米国の会社です。CFOの下に経理・財務・税務はもちろんですが、経営企画のような本社FP&Aの機能もあります。さらにCFOが自分の部下を事業部門に「事業CFO」として派遣していて、事業CFOは事業本部の経営チームの中に入って、例えば製造業であればマーケティング、営業、サプライチェーン、R&D(研究開発)などの各機能に自分の部下であるFP&Aを張り付けて、事業部門全体も支援するということが起こっています。

 右図のやり方に関心を持っている日本企業の中で、この右側の組織体系に移行する動きが出てきています。

日本企業における経営管理の課題と背景

池側氏 ところで、日本企業と米国企業で経営管理の組織が違うという話をします。なぜ違うのかを考えてみました。そもそも日本的経営・日本的人事システムは、1990年代まではすごく日本を支えていた成功の秘訣(ひけつ)だと考えられています。これが良い悪いという話ではなく、過去にはとても良かったのです。米国の学者が日本の成功の秘訣は何だろうと調べに来て「これは日本的経営なのだ」と、例えば終身雇用、年功序列、企業別労働組合などは良いことだったわけです。

 日本的人事システムの中で、所属型、新卒一括採用、無限定職務・無制限的労働時間など、社員が会社のために尽くす代わりに会社も社員を守るという体制です。株式会社としても社長中心であって、どちらかというと欧米の株主中心という形とは考え方がもともと違います。欧米はジョブ型、日本はメンバーシップ型ということは最近よく言われています。そのようなことがいろいろあったのは、経営管理の組織の違いも背景にあるのではないかと思います。

 さらに経営管理のシステムですが、米国はトップが決めた「命令と統制の経営システム」であると言われています。一方、日本企業はトップが全部決めてしまうのではなく、事業部門や子会社がそれぞれ自分で考えて「自律的に学習と創造を発展させる経営システム」であると言われています。

 これは、どちらが良いという話ではありません。恐らくこの日本的経営システムに良いところもたくさんあるので、これをすべて米国風に変えれば良いという話ではありません。良いところは残しながら、足りないところは補っていくことをお勧めします。

 日本的経営システムとしていくつか特徴があると言われていて、ジョブ型ではないので職務をオーバーラップさせる、企業の中でOJTを中心として教育を行っていくようなところが日本の特徴だと言われています。

 そのような特徴について、一般的な日本企業で実際にどのような人たちが経営管理をしているかというと、この図のようになっていると思います。

 経理部が担当する範囲はいろいろあるのですが、「財務会計、制度会計しかやっていない」という会社もあれば、「管理会計の一部で予算の集計や進捗(しんちょく)管理などはやっている」という所もあります。ただ、中期経営計画や事業計画を作る所には入っていない会社もあるし、中期経営計画まで入っている会社などいろいろあります。ただ、事業部門の深いところまで入り込んでいるかというと、そうでもない場合が多いです。

 会社の例えば中期計画や戦略を作るとなると、事業部門から優秀な人材を集めている社長直下の経営企画部門がやっている場合が多いのですが、この点についてもリーダーのタイプによって非常に強い経営企画部門もあれば、調整役に徹している会社もあります。

 さらに、大きい会社だと事業部門ですでに何千億円の売上を持っていますが、ここにはまた別途、事業部門長直轄の事業管理や事業企画の人たちがいます。ただ、この人たちは経理でもないので、いろいろな仕事が降ってくるのをこなしていて、しかも非常に雑多な仕事が多く、専門性を伸ばすのは難しいかと思います。その事業部門にいたら、ずっとそこで仕事をしているということも多いです。皆さんの会社ではいかがでしょうか。

 この図のような関係性が一般的だと思うのですが、この状況では困ったこともあるかと思います。例えば、縦に見てみると、中期経営計画を作って、その1年目が単年度予算になり、年度が始まったら毎月着地見込みをアップデートします。この3つの仕事が、中期経営計画は経営企画がリードして、事業部門と連携して作ります。単年度予算になったところで経理部が参画し、決算を締めながら予算との差を見るわけですが、計画を作るところに入っていないので、「なぜ差が出たのか」を事業部門に聞きに行かないといけません。業績予想は、事業部門の中の人たちが日々とても忙しくやっている。この3つのプロセスに関して別々の部門がやっているので、それなりに連携してもコミュニケーションがあまり円滑ではないケースがよく見られます。

 一般的に米国の会社では、この3つのプロセスを全てCFO部門の人たちがやっています。担当者はそれぞれ別ですが、一つの部門に入っているので、中期経営計画と単年度予算とその進捗管理、業績予想などは非常に連携が取りやすいことになります。

FP&Aビジネスパートナーとは何か

池側氏 ここからは、米国の会社で一般的にあるFP&Aビジネスパートナーとは何かという話をします。

 この図は、先ほどの米国先進企業のCFO組織とFP&Aの組織図です。CFO組織の中に経理・財務、経営企画、事業管理などの機能が全部入っています。全社の戦略、中期経営計画、予算策定、ポートフォリオ管理などを、本社のFP&Aが行います。事業部にもCFOとFP&Aがいて、事業部門長にレポートもするし、本社のCFOにもレポートをしています。一般的にFP&Aと呼ばれる人たちは、管理会計とファイナンスのプロフェッショナルです。

 例えば事業部門の中にいるFP&Aの人のイメージですが、事業部門をヒツジの群れとします。普段はヒツジの群れの中に一緒に入って行動しても良いのですが、ヒツジになってしまって良いということではありません。もしこの群れが変な方向に行きそうになったら、本社とつながっているCFO部門の立場として「そちらではない、こちらだよ」というように、正しい方向に引っ張っていく役目があります。

 先ほど、FP&Aにも本社にいる人と事業部門にいる人がいるという、大きく分けて二つの話をしました。本社FP&Aは、日本企業でも本社経営企画の人たちがやっている、中期経営計画や事業計画、単年度予算をまとめるというような仕事は一般的にやっています。さらに、CxOが配置されるケースが最近は結構あると思うのですが、マーケティング、サプライチェーン、研究開発などのグローバル責任者をFP&Aとして支援する仕事もありますし、事業部のFP&Aとつながって、本社が全社のことを分かるようにするという仕事もあります。

 次に事業部門のFP&Aですが、この人たちは本社に座っていてはいけなくて、事業部門のフロアに席を置いて行動を共にします。ほとんどのチームの会議に出席をして、事業について深い理解をする必要があります。会議だけではなく、コーヒーを飲みながら事業の状況の話をするようなカジュアルな付き合いも非常に大事です。

 会計とファイナンスのプロフェッショナルとして、日々の意思決定に関わって支援をしていきます。その事業部門で起きる経理、財務、税務などのいろいろな問題に関して、ファイナンスのプロとして対処していくのです。

 ただ、何もかも分かっているプロになるのは難しいので、本社の経理や財務や税務の本当のプロフェッショナルの人たちとも連携しながら、事業部門の活動を支援していくということをやります。

大・中・小の視点で事業支援に臨むFP&A

池側氏 この図は具体例なのですが、例えば私は消費財や食品を作る会社で子会社のCFOやFP&Aをやっていました。そこでお勧めするのは、大・中・小の視点を持って事業部門の人たちを支援することです。

 小さいほうからいきます。例えば「洗剤の新商品を出す」という話だと、営業やマーケティング、開発、製造の人たちがチームを作って商品開発をします。その段階からFP&Aはチームに入れてもらって、この商品はどのくらいの売り上げで、どういう競合と対抗していて、高品質なのか、例えばそれなりの品質で低価格でたくさん売りたいのか、そのような商品設計のところから一緒に入っていきます。そして、この商品がどのくらいの売り上げ、利益を出したいのかという点を早めに計算します。

 ただ、細かい話だけではなくて、この商品が出てくると「もともとあった他の洗剤商品」の売り上げに影響があるかもしれないし、工場に追加の投資が必要かもしれません。そのような中ぐらいの、事業部全体や工場全体に関して検討をします。

 さらには、CFOとつながっているので、もっと大きな視点で、全社の戦略に合っているのか、会社全体にとってこのプロジェクトが企業価値を高めるプロジェクトなのかというところも見ていって、何か課題があるようなら早めにCFOや本社のFP&Aと相談するという役目もあります。大・中・小の視点を持って、事業活動を支援していきます。

「意思決定の質」を高めるFP&Aの役割

池側氏 FP&Aの役割として考えてほしいのは、このA、B、Cの3つです。

 普段、計数管理に関わる皆さんは、Bの仕事(業績目標達成支援)は非常に時間をかけてやっていると思います。予算管理、進捗管理です。ただ、これだけが仕事ではなくて、予算を作る前の「戦略は何なのか」という点を事業計画に落とし込むところから話に入ってください。

 また、予算を作って実行するに当たっても、日々の意思決定があります。大きな設備投資などもあれば、プロモーションや販促などの小さな意思決定もあるかもしれません。それらを、事業を理解しながら数字で示して、意思決定の質を高めるという仕事があります。

 業績管理に関しては、この図は一般的な業績管理のやり方ですが、会社に経営理念、目標戦略などがあり、それを実行するための事業計画を立てて進捗管理をしていく、PDCAを回すという仕事の全般に関わっていくのがFP&Aです。

 それをするのに、本社にFP&Aがいて、事業部門にもFP&Aがいて、各部門の人たちの意見をまとめて、日々本社と子会社・事業部門をつないでいきます。例えばプロジェクトが全部まとまってから初めて本社に伝えるのではなくて、途中の段階でも、もし気になることがあれば本社と具体的に話をしていきます。

 先ほど、FP&Aの役割として意思決定の質を高めるという話をしました。それでは意思決定とは何でしょうか。

 まず、経営の意思決定というのは、会社のお金を使いますからステップを踏んで考えていきます。この意思決定の目的と課題を明確にします。いくつかオプションがあります。計画Aをやるのかやらないのか、Bが良いのか、Cが良いのかという案をいくつも出してみます。それを経済性評価、数字で表してみて比較します。

 ただ、数字だけで決めるわけではありません。事業もよく理解して、数字と事業上の状況も鑑みて、事業部門の人たちと最善の案を選んで意思決定をしていきます。

 Cの役割として、意思決定の質を高めるFP&Aの役割です。オプションA、B、Cがあったら、それを全部出してみて、数字で比較して事業の進むべき方向を「これがいいのではないか」と提案し、事業部門の人たちと相談をして決めます。

 私は日本企業の皆さんの、このC「意思決定の質を高める役割」が果たせるようにという支援をしていますが、普段なかなかここまで踏み込んでいないというケースが多いです。とにかく予算管理の業務をしているだけで十分忙しい、そのような余った人はいない、大事な意思決定の会議に呼ばれることもなければそこまで求められてもいない。やろうにも、数字で示そうと思うと管理会計とファイナンスの知識・スキルが必要なのですが、それが何か分からないし、そのような教育も受けていないという方も多いです。

 これは全て解決できる方法がありますので、できるようになると意思決定の質を高める支援ができるようになります。

FP&A機能を取り入れた改革を始めた日本企業も

池側氏 今までのような話を聞いた日本企業の皆さんが、FP&A機能を自分の会社にも導入してみようというケースが出てきました。それについて紹介します。

 まず、このFP&A組織を作ってビジネスパートナー機能を高めるとどのような良いことがあるのかということです。

 大きく、会社にとってのメリットもありますし、個人にとってのメリットもあります。会社にとっては、まずは意思決定の質が高まるということです。経営者、事業部門の方々が意思決定をする際に、全社視点、大・中・小の視点を持った会計とファイナンスのプロフェッショナルがいつも横にいて支援をしてくれるわけです。

 業績目標の達成と、先ほど述べたPDCAを回す点についても、単に予算管理をするだけではなく、戦略も理解した人が一緒にやってくれます。そのため戦略との整合性が取れますし、投資の案件があった際にそれを計画する時にFP&Aが入り、また進捗管理もしますから、目標の達成度が高まります。本社と事業部門をFP&Aがつなぐので、同じ言葉で語って協力できるようになります。

 個人も、先ほど会社中でいろいろな人たちが計数管理をしているという話をしましたが、一つの組織にまとまっていないので、どういう知識、スキルがあってどういう貢献をしたらいいのかはっきりしていないのが現状です。一つの組織になると、明確なキャリアパスが見えたり、部門をまたいで異動して全社視点を身につけたりすることができます。

 海外では、このCFOやFP&Aは、どこででも働けるプロフェッショナルなのです。転職しないといけないということはないのですが、「どこにでも行けるけれどもうちの会社が一番いいからここにいる、もっと貢献したい」というようになっていただきたいです。真のビジネスパートナーになって貢献すると、仕事ももっと楽しくなります。

 FP&Aビジネスパートナー機能を取り入れる方法ですが、これは今、日本企業の皆さんは現状も違うでしょうし、どこから変えていくかということもそれぞれ違う方法で取り組んでいるのでご紹介します。いずれにしろ、今会社でうまくいっているところは残して生かし、米国の会社からも学んで、どこを変えればいいのかを考えてやっていただくことをお勧めします。

 トップから始めることもあるし、ミドルの方がやろうという時もありますが、両方が協力して改革することをお勧めします。例えばA社の事例では、経営企画と経理部が分かれているのですが、経営企画が本社と子会社をつないでFP&Aになるという改革をされています。

 B社も経営企画と経理部は別々なのですが、経営企画は司令塔として会社のプロセスをリードして、数字は経理部が管理しています。経理部が事業部にも人を派遣して、ビジネスパートナーになるというやり方をしています。

 またC社の例のように、米国のように経営企画、経理財務、事業企画などの部門を全部CFOの配下にして、まとめて米国風のCFO部門、FP&A組織にするという会社もあります。

 その会社の皆さんがいいなと思う方法を取り入れて、段階を追って進めていただければと思います。何年もかかる話です。

 海外ではFP&A組織があるのは一般的なので、IMA/CGMA/AFPなど、CFO、FP&Aを支援する団体があって、資格試験や教育研修プログラムがあります。それを私たちが日本語訳をして紹介し、皆さんが使えるようにしています。日本CFO協会では、FP&Aの勉強会、研究会をしていて、これに取り組んでいる日本企業の皆さんのネットワークの支援もしています。

FP&Aを導入して成果を出す6つのステップ

池側氏 ここで、日本企業がFP&A機能を導入するに当たって、どういうステップで進んでいけばいいのかという提案をします。

 私が提案しているのは、この図の6つのステップです。まず、私にご相談があるのは結構ミドルの方からの場合が多いのですが、やはり経営者、CFOがコミットして変革をリードしていただく必要があります。

 次に、できれば企業の組織変更まで行って改革は進めていただきたいということです。特に、CFOが全社の経営管理人材をFP&Aとして配下に置くことができるのが望ましいです。

 さらに、箱だけ作っても駄目で、実際に中にいる「FP&Aになった人たち」の育成をしなければなりません。育成もするのですが、図の4番目の「何をすればいいのか、どのようなことをすれば評価されるのか」ということを明確にしていきます。

 5番目は、さらにプロセスの整備や簡素化も必要というステップ、6番目は、いったんそれが整ったとしても時間がかかる話なので継続的コミットメントが必要だというステップです。

 では、この1から6までをそれぞれご説明します。

 まず、トップによる明確な目的の設定です。例えば経理部長、課長レベルの方が、ぜひFP&Aをやりたいと言って組織改革を進めるケースがありますが、経営者やCFOには「自分はやったことがないし見たことがないので、何か良さそうな気はするけれどもなかなか本腰を入れられない」ということがよくあります。

 その場合は、「実際に米国の会社ではこのようにやっている」ということを紹介しますので、そのうち何を取り入れるか、または取り入れないかということを判断していただいて、経営者、CFOの方が納得して進めていただくことを提案します。

 特に、期待する成果です。「今こういう問題があるから、このように解決したい」と明確に目標として持って、変化を観察しながらうまくいったところは褒め、うまくいっていないところは少しずつ改善していきます。

 次に、企業の組織変更です。これはなかなか難しいことです。先ほどもA社、B社、C社の話をしましたが、A社の場合は経営企画がFP&Aになっていて、経理財務とは別部門でした。ただ、もともとは本社にだけあった経営企画部門が子会社・事業部門にも人を出して、子会社を管理するというより支援するということです。これも、一つの組織改革をやっている事例です。

 B社の例でも、経理部から人を出して事業部門に配置するのも大きな組織の改革になります。先ほどのC社の事例のように、事業部門の中にいる計数管理の人を、かなりの人数になるのですがCFO部門に配置替えをして、レポートラインも変えて大きな組織にしていくという変更をしている会社もあります。

 できれば組織変更まで行って、会社として取り組んでいただきたいと思います。ただ、組織変更まではなかなか難しいという場合は、各部門にいるFP&Aの仕事をしている人たちを、レポートラインはまだ変えられなくてもチームとして一緒に研修をしていく、ベストプラクティスを共有するというようなことをやりながら、少しずつ進んでいけばいいかと思います。

 次に、誰がFP&Aになるのかが決まってくると、その人たちを管理会計とファイナンスのプロフェッショナルとして育成していくことになります。経理出身の人はある程度経理が分かると思うので、事業部門に席を置いて、今まで出ていなかったような営業や事業の会議に出て事業の理解を深め、少しずつ発言をして貢献をしていきます。事業部門の中にすでにいる人たちは、その点は得意なので、これからは少しずつその会社の経理や財務や税務に関して、FP&Aの仕事に必要なところを勉強していきます。

 そのうちに、経理出身、事業出身などと言わずに、皆さんが一緒に得意な分野に関しては教え合い補いながら、全体としてFP&Aの機能を高めていくということをやります。さらに、どのようなことをすれば評価され、実際に企業価値を高めることに貢献できるのか、また、キャリアパスについても、いくつかの事業部門をローテーションし、時には本社の経理部にも行くなどしてCFO、事業責任者を目指すことも可能です。そのようにキャリアパスを明確にしていくことを、事業部の皆さんも巻き込みながらやっていきます。

FP&Aに求められるスキルとは

池側氏 FP&Aビジネスパートナーに求められるスキル・資質についてです。まず、基礎的な会計やビジネスの理解も必要ですが、最も大事なのはその事業に対するパッション・好奇心、そしてビジネスパートナーと良いコミュニケーションを持ち、時には耳の痛い助言でも聞いてもらえるような関係性を作ることが大事です。

 海外にはこのFP&A、管理会計を担当する人たちを支援する団体があって、いろいろなガイドラインや、スキルをチェックするようなシートのようなものもあります。一部日本語に訳されているものがあり、この図の下部にウェブサイトを示していますので、皆さんにも見ていただいたり、後で問い合わせをいただけたりすると幸いです。

 会計や事業のことが分かるだけではなくて、ソフトスキルやデジタルスキルも必要だと言われています。

 そして、役割の明確化です。先ほどA、B、Cの役割の話をしましたが、戦略を作るところから入って、実行できるような計画を作り、それが予算になって、その予算を進捗管理しながら業績目標の達成を支援していきます。その時にいろいろな意思決定があるのを、ファイナンスのプロとして数字で示して、正しいものが選べるようにしてあげるということです。

 また、実際にそのプロジェクトが始まった後もどうなったのかを確認し、もしうまくいかなければうまくいくところまで一緒に伴走してあげます。これをしようと思うと事業部門に入っていく必要があって、入っていないところに急に入っていくのはなかなか難しいです。例えば重要な意思決定がされている会議を見つけたらそこに入れてほしいと頼みに行くのもいいですし、自分の上司に言って事業本部に頼んでもらうというやり方もあります。

 ただ、ここまでやると仕事がどんどん増えてしまいます。だから、減らす仕事を見つけて減らすことも重要です。システムを入れるなり業務プロセスを良くするなりして、自分がやらなくてもいい仕事を減らすことにも取り組んでください。

 最後に、この1から5までのことができたとしても、すぐに成果が出るわけではありません。経営者、CFO、事業部門の皆さんは継続的にコミットをして、成果が出るまでゆっくり取り組んでいってください。

 このように、FP&A機能を導入して経営管理機能を強化していく会社が増えてきています。良いところは残しながら、変えるべきところを変えるというように取り組んでみてください。成果はすぐに出ません。時間をかけて取り組むべきことです

 ただ、これが先ほどの失われた30年、日本企業の稼ぐ力を強くする、企業価値を高める一つの方法ではないかと思って提案をさせていただきます。

 本日は時間の関係でお伝えできることは限られていますが、さらに詳しいことを知りたい方はホームページにFP&Aに関する情報をいろいろ載せていますのでご覧ください。問い合わせ欄から連絡をいただければ、個別にお話もできます。ありがとうございました。