* 本コンテンツは以下講演の【講演動画】と【全文採録記事】で構成しています *
第5回 公共DXフォーラム
特別講演2「DX推進に向けた組織のイノベーション」

開催日: 2023年2月28日(火)
主催:JBpress/Japan Innovation Review

 行政のデジタル化の基盤を構築すべく、デジタル化を推進するための組織づくりや人材の採用・育成を進めている東京都。本講演では、2019年に副知事に就任した宮坂学氏が、東京都の「シン・トセイ」プロジェクトや、新設された「GovTech東京」の取り組みを通し、地方行政とDXの在り方について語ります。

「日本の行政は、昭和のテクノロジーのまま令和を迎えてしまった」と語る宮坂氏。その実態は、講演内で紹介される「デジタル化された行政手続きの利用率、品質に対する満足度ともに東京は非常に低い」という調査結果(東京・ニューヨーク・ロンドン・パリ・シンガポール・ソウルの5都市を比較)にも表れています。この現状を打破しようと「シン・トセイ」プロジェクト、「GovTech東京」の取り組みが進められているのです。

 都のみならず区市町村レベルにも広がる東京都のDX。いかに取り組み、成果を上げてきたのか、そして何を目指すのか。この講演でその全貌を知ることができます。

【目次】

  • デジタルサービス局を中心にDX推進体制を整備
  • 東京都に必要な4つの能力をスキルマップで定義
  • 都政の構造改革「シン・トセイ」の現状とこれから
  • 現場主導でデジタル化が進む仕組みづくり
  • 「GovTech東京」構想で区市町村にも広がるDXの輪
  • 変化に対応し、新しい都庁へと“脱皮”する
動画挿入位置

東京都における行政デジタル化の現在地

宮坂 学氏(以下、宮坂氏) 東京都副知事の宮坂です。今日は「DX推進に向けた組織のイノベーション」について私の方から30分ほどで説明したいと思います。

 今日は「行政デジタル化の立ち位置」「DX推進に向けた体制の整備」「シン・トセイ 都政の構造改革」「『GovTech東京』構想」「さいごに」の5つをお話ししたいと思います。

 まず、全ての仕事に共通することですが、最初にやるべきは、われわれ行政のデジタル化は現在どの辺にあるのかという、現状を知ることが1番大事だと思います。そこで、東京・ニューヨーク・ロンドン・パリ・シンガポール・ソウルといった、東京都と同じような大都市における「行政のデジタル化についての調査」を定期的に始めています。

 それによると「デジタル化された行政手続きの利用率はどうですか」という質問をすると、学校教育や仕事、転出転入といったあらゆるジャンルにおいて、残念ながら、ほかの都市に比べて東京では行政手続きをデジタルで行う人の比率は非常に少ないという現状になっています。

 次に品質についても、「デジタル化された行政手続きの品質に満足していますか」という調査をしているのですが、これについても全ての項目において、海外のほかの都市に比べ品質に満足している方が東京都は少ないと。総合満足度という指標で見ても、海外の5都市では66%くらいの人が総合的にデジタルに満足しているのですが、東京の場合は26%くらいということで、非常に低い。これがわれわれの現在地であります。

 もう1つ、デジタルに限らず行政サービスを都民の方に提供しているのは職員であり、職員が行政サービスを提供するにあたって仕事しやすい便利なデジタルの道具、仕事環境を用意できているかどうかも非常に大事だと考えています。

 これについても2020年から定点調査を開始しているのですが、最初は約54%の職員が、今使っている仕事のデジタル環境に不満だと回答しました。(2021年度には)32%まで減ってきて、今28%くらいということです。今年(2022年度)初めて、満足している人が29%となり、不満な人の28%を初めて超えたという意味で少しだけうれしいのですが、43%が真ん中の「普通」と回答しており「どちらでもないかな」という感じだと思いますので、まだまだ油断できないと感じています。

 民間企業の場合は2000年の初頭くらいからインターネットによる事業変革の波が訪れてきて、いろいろな業界で「デジタルをどのように自分の事業に取り入れるか」ということを進めてきたと思うのですが、行政は残念ながら、デジタル以前の、昭和以前の仕事の技術、テクノロジーで令和の時代を迎えてしまった。平成の年代でデジタルに対応することなく、昭和のまま令和にきたということで、対面の窓口が残っていたり、紙が残っていたり、現金、はんこ、FAXといった昭和の技術の上で行政サービスを続けている、というのがわれわれの現状であると思います。

デジタルサービス局を中心にDX推進体制を整備

宮坂氏 こうしたものを改善するにあたって大事なことは、長い間改善し続けられる組織にすることだと思います。私が都庁で最初に今の仕事をするにあたって、1番最初に講演会で使った資料の写真がこれです。

「もし都庁の中で何か残せるとしたら1番に何を残したいですか」という問いに対し、「このような大きな船をつくりたい」と。デジタル技術を使って、行政をよりよくする船をつくる。船の中に乗る人は都の職員だけでなく外部のIT出身の人やスタートアップの人、社会起業家の人などいろいろな人が同じ船に乗って、デジタル化をずっとやり続ける。そういった組織をつくりたい、という話をしていました。

 そして、2021年の4月にデジタルサービス局という、まさに“船”ができました。このミッションは、行政のデジタル化の遅れを克服し、都庁内外に質の高いデジタルサービスを提供しようということで立ち上がったものです。役割としては、各局や区市町村がデジタルサービスを作るときにテクノロジーでサポートする。そして、デジタル人材の管理や経費の把握など、デジタルに関する全体的な経営管理の仕組みをつくる。そして最後に、デジタル人材の採用と職員の育成、そして配属といった人材に関することをやる。大きく3つの全庁統括機能をやっております。

 実は、都庁というのは非常に多くの都市インフラを整備しており、都道や水道・下水道、交通では都営の地下鉄やバスなど、インフラをたくさんやっている組織です。それぞれの部隊を見てみると、建設局だと約2500人の職員のうち約1600人が技術者。水道局も約3600人のうち約2300人が技術者と、大体3分の2がエンジニアなんですね。

 ただ、デジタルサービス局、ICTインフラを担うチームに関していうと、技術系でない人が約3分の2、技術系が3分の1ということで、比率もまだまだ技術よりも事務が多い。そしてさらに、規模自体もまだまだ非常に小さいと考えています。

 では世界はどうなのかと、これも調査をしました。世界で先進的なデジタルガバメントを作っている都市や国を見ると、シンガポールだと約3200人、イギリスだと約800人、デンマークでは約200人ということで、シンガポールもデンマークも東京都よりも人口が少ないわけですが、それでも東京都のデジタルサービス局よりも人数が多い。こういったスケール感でやっているんですよね。ですから、まだまだここも拡充しないといけないというふうに思っています。

 先ほど「DXをずっと永続的にやる船をつくりたい」という話をしましたが、私は組織というのは会社でも民間でも、2つのプロダクトをつくるというふうにいつも考えています。

 1つ目は利用者向けのサービス、いわゆる製品やサービスをつくる。2つ目がその製品やサービスを生み出したり提供したりする“働く人向けのサービス”で、いわゆる人事制度や組織図、研修制度、採用の仕組みといったもの。この2つをつくっていく、というふうにいつも考えています。

 都庁がデジタルの船をつくって永遠に航海させるためには、やはりこの2つ目の人と組織に関するサービス、プロダクトを作り続けないといけないと思っています。まずやったことの1つが採用です。採用の仕方にイノベーションを起こさないと、デジタルに詳しいよい人が採れないということで、採用のイノベーションを起こすことを最初にしました。

 具体的には、職種を増やしました。もともと都庁ではデジタル職というのはなく、大体事務系の人が見よう見まねでやっているという形だったんですが、先ほど建設や水道にはエンジニアがたくさんいるというお話をしたように、やはりこれからはエンジニアリングの分かる行政の公務員をつくらないといけないということで、いくつか新しい職種を新設しました。

 まず、デジタルシフト推進担当課長という職種ですが、これは任期付きです。期間限定で都庁でデジタルの仕事をしませんかということで、主に民間の企業からの採用を進めている人たちです。

 2つ目が、任期がないタイプの、無任期型のメンバーシップ型雇用の技術者で、ICT職と呼ばれています。そしてさらに、最近副業という話がいろいろな企業で解禁されましたが、都庁でも週1、2回勤務で行政で働きたいという人向けにそういったポジションをつくりました。

 そして最後に、デジタルサービスフェローということで、これは政府CIO補佐官や民間のCTO経験者クラスを中心とした外部のアドバイザーチームをつくって、その知恵にいつでもアクセスできるようにしたと。こういったイノベーションを最初に起こしました。

 そして、採用した人を育てないといけません。その育て方をどうするかというところで、東京都デジタル人材確保・育成基本方針というのを策定しました。これはどんな人を採用して、どういうふうに育てていくのかということを、ドキュメントによって定めたものです。特に大事なのは、デジタルスキルマップという、どういうスキルを身に付けてほしいのかを具体的に記述したスキルマップを作ったことと、そのスキルマップに応じて「こんな勉強をしてくださいね」という東京都のデジタルアカデミーというものをつくったことです。この2つの仕組みを立ち上げました。

東京都に必要な「4つの能力」をスキルマップで定義

 私は、東京都全体で見たら、4つの能力が要ると思っています。まずは、IQ、EQといった、よくビジネスでもいわれる言葉です。IQは地頭の良さともいいますし、EQというのはチームプレイをする力です。そして、GQ(行政力)というのは私が勝手に作った言葉ですが、行政のスキルというか、議会にどういうふうに対応していくのかとか、法律のような知識とか、そういった専門知識も非常に大事です。

 今まで、行政はIQ・EQ・GQで仕事をしてきました。しかしながら、これからはやはりDQ(デジタルの力)はデジタルの仕事をする人以外も含めて全ての職員に必要だろうと思っており、組織全体でこの4つのQがバランスよく育つような組織にしたいと思っています。

 そこで、ICT職のデジタルスキルというのをこういった形でスキルマップをきれいに定義しました。

「ビジネスデザイナーであれば、ITストラテジーやサービスデザインといったスキルが絶対に要りますよ」といった形で、縦に並んでいるもの10個がジョブタイプといわれている「デジタル職の中の職種」のようなものですが、自分のキャリアや目指したいものに応じて「こういうスキルを学んでねと」いうスキルマップを作り、それぞれについて研修を整備していこうという計画で今進めています。

 研修にあたっては、東京デジタルアカデミーというのを設立して開校したところです。3つの三角形の構成要素になっていて(下スライド参照)、1番下が全ての職員、つまりICT職でない一般の行政職員もデジタルの基本的なことが「分かる」ということです。これが大体全職種向けで、例えばエクセルを便利に使うといった、本当に基本的なことも含めてやっています。

 2つ目が「使える」というレイヤーで、これはやりたいという人を中心に、大体5年間で5000人、年1000人くらいやろうと思っています。最近ローコードやノーコードといった非常に便利なデジタルの道具ができていますので、それを使って簡単なものであれば自分で内製ができるなど、デジタルサービスを「使える」人を増やすというのを年1000人規模でやっています。

 そして1番上が、「つくる」ことができる。これは1からプログラムを組んでサービスをつくれる人たちであり、全職員がこれをやるのは無理だと思いますので、ICT職、デジタル職に関してはこういった人が増えるように整備をしているところです。

 やり方も工夫しており、オンラインを活用した学習環境でやろうと思っています。都庁は営業所などの出先が非常に多いので、オンラインでいつでもだれでも学べるようにすると。局長という、企業でいうところの取締役のような方々にも勉強いただけるような、こういったプログラムを用意しています。そしてもう1つ、ノーコード・ローコードツールを使うことによって簡単な業務改善のアプリケーションをつくれるという人を増やそうということで、アイデアソンをやったり、ワークショップをやったり。あとはITパスポートレベルなのですが、そういったものの取得をサポートしたりということも始めています。

 ほかにも、採用や人材において、小さいイノベーションをたくさんやってきました。例えば、私が都庁に来たときには、採用募集ページはオンラインで申し込みができなかったんです。郵送で履歴書を送るか都庁に持参するしかなかったのですが、今では、これは当たり前ですが、オンラインで申し込みができるようになりました。採用活動も、今までは「自分たちのホームページを見てください」だったのが、今は転職エージェントなども活用したより積極的なスタイルに変わりましたし、それまでは採用用に1回もやったことがなかったオンラインセミナーも始めました。

 また、ICT職は各局にばらばらにいたんですが、1回デジタルサービス局に固めて、ニーズに応じて兼務で派遣するといった人材プール型に切り替えました。それから、メンター制度をつくって、ICT職でまだデジタルに慣れていない若い人と外部から来たベテランのエンジニアをペアリングしたり。さらに、海外や民間企業にどんどん派遣して「新しいものを見てこい」ということも始めたりしています。

都政の構造改革「シン・トセイ」の現状とこれから

宮坂氏 このように、先ほど「2つのプロダクトをつくる」と申しましたが、2つ目の人事制度のような仕組みをつくるということもたくさん手数を動かしてやってきました。いろいろな制度を作って、職員の数も増やしてきたわけですが、やはり気持ちが「デジタルを頑張ろう」「自分たちはデジタルができる」というふうに変わらないと、変革ができません。ここからは、職員の意識をどういうふうに変えてきたのか、ということについてお話をしていきたいと思います。

 これは、DXをやるときによく使っているチャートです。縦軸がデジタル度の深みであり、1番上にあるのがデジタルトランスフォーメーションということで、事業の仕組みそのものが全部変わってしまうということです。その手前の段階にあるのが「デジタライゼーション」といわれているもので、情報のやりとりや共有をデジタルツールで行うと。1番原始的なのが「デジタイゼーション」で、情報をつくるときにデジタルツールでつくると。こういう3段階というふうにいわれています。

 都庁というのは、デジタイゼーションまではできている組織なんです。大体業務の文書はワードやパワーポイントで作ります。できていないのはデジタライゼーションです。パワーポイントで作った文書を隣のビルの人に届けるときに、わざわざプリントアウトしてそれをFAXで送って、隣の人がFAXで受け取って、それをもう1回打ち込んだり。デジタルで作ったものをほかの部署と共有するときに、1回アナログに戻してしまうんですね。

 これは非常にもったいないので、今急速にやっているのがこのデジタライゼーションのレイヤーで、作ったデジタルのものをデジタルのまま他の人と共有すると。できれば、文書は共有の形にして皆で一斉に編集する。そういったスタイルで今、やろうとしています。

 そうしたことをやるにあたり、今、「シン・トセイ」という都政の構造改革プロジェクトに取り組んでいます。これは氷山のモデルで結構いろいろなところで説明するのですが、氷山の上側というのが、都庁が提供する行政のデジタルサービスになります。都民から見える部分ですよね。ここの体積を大きくして、そして氷もピカピカな、品質の良いものにしていきたいのですが、そこを大きくしたいのであれば、この氷山の下側、都民から見えない水面下の部分を大きく変えないといけません。

 ここが構造改革といわれているレイヤーでして、例えば人事制度を変えるとか、UI・UXに対するルールを変えていく、SaaSが使えるようにルールを変える、セキュリティポリシーを変えていく、調達の考え方を変えるといった、外からは見えないのですが、良いデジタルサービスをつくって氷山の上側を大きくするために、やはり必要なのがこの氷山の下側の部分の改革だと思います。

 そのシン・トセイの中で、いくつか成果があるのでご報告したいと思います。まず東京デジタルファースト条例というのを作りました。これまでは行政のデジタル化をするにあたって、デジタル手続きは「やってもいいよ」というふうだったんですね。それを、条例を作ることによって「基本絶対やってください」と。原則、デジタルは必ず入れてくださいというふうに180度転換しました。それによって、たくさんの行政手続きがあるのですが、今2万8000分の2万くらいは、2023年にはデジタル化できるという目途がつくまでに進捗しています。

 先ほどデジタライゼーションのところで「情報の共有を紙やFAXでやってしまう」という話をしましたが、そういったものも今数字で見えるくらいに変化していて、ペーパーレスについては2016年を基準年とすると7割くらい減り、FAXは2019年を基準にすると99%くらい減りました。あと、はんこがあるとどうしてもデジタルで作った文書を1回プリントアウトしてはんこを押さないといけないですが、これも電子型のはんこのサービスを使うことによって、紙にせずにできるようになりました。キャッシュレスや、対面相談会をオンライン相談会にするというタッチレスの取り組みなども進めています。

 1つ分かりやすい事例がオフィスの変化だと思います。数年前の都庁の典型的なオフィスは紙があふれ返っていました。これが今では、紙があまりないすっきりしたオフィスになっています。

 キーワードとして「自分たちのオフィスは自分たちでつくる」というのを掲げています。これまでオフィスというのは総務部門や経営企画部門が「こんなオフィスにするから皆使ってね」というやり方でしたが、オフィスというのはホワイトカラーにとって最大の仕事の道具。どういうオフィス、レイアウトで、どういう道具を使うと自分たちの仕事の生産性が1番上がるかは、やはり現場の人が知っているわけです。

 ですから「部署ごとに自分たちでどんなオフィスをつくりたいかよく話し合って、1番生産性が上がりやすいオフィスにしてください」ということで、かなり個性的なレイアウトのものがたくさん生まれています。

現場主導でデジタル化が進む仕組みづくり

 そして、オフィスだけに限らず、現場主導でたくさんのデジタルサービスも生まれました。昨年度、東京都で都庁デジタルアワードというものを作っています。これは成功した人をちゃんと可視化して、表彰する制度を作りたいと思って作ったものですが、その1等賞になったのが、豊洲市場の衛生監視業務のデジタル化です。

 タブレットを使って魚の衛生管理をするという業務サービスを始めたチームが1等賞になりました。ほかにも、農作業やワクチンの予約、都税収入の見える化など、それぞれの局が非常に工夫を凝らして現場主導でデジタル化をどんどん進めてくれるようになってきました。

 今年(2023年)もシン・トセイは続けるつもりなのですが、テーマは「Open&Flat」というキーワードでやろうと思っています。OpenとFlatとはどういうことかというと、Openというのは仕事をするときのメンバーの多様性をもっと増やそうということです。例えば男性だけでなく女性、行政の人だけでなくエンジニア・技術者も一緒に働く。新卒で行政にきている人と中途採用の人、障害のある人とない人が一緒になって働くとか、外国人とか、できるだけ多様性のある組織にしていこうというのが、Openの取り組みです。

 とはいえ、多様性のある人がたくさん集まっても、目上の人には話しにくいとか、役職が上の人には口をききにくいといったことでは、コミュニケーションがよくなりません。Flatというのは、コミュニケーションのあり方について、立場や役職の違いを乗り越えてFlatに意見を言い合えるような組織にしようということです。たくさんの人がOpenに参加する、そしてたくさんの人がFlatに上下なく意見が言いやすい組織にするということで、この2つに今年は取り組み、政策イノベーションを起こしたいと思っています。

 職員の成長に合わせてシン・トセイというのも今年で「シーズン3」、3回目になるのですが、コア・プロジェクトという1番全庁横断で力を入れて取り組んでいる構造改革の取り組みも、3年でみると着実に変わってきています。

 この「変わっている」というのが大事でして、「変わっている」ということはわれわれがよい方に変化しているのですね。われわれが変わったので、問題点も変わってきている。今年は7個から6個にちょっと絞り込んだ形で、新しい挑戦を始めようと思っています。あとは、各局で、リーディングプロジェクトと呼んでいる、「デジタルの案件の中でこれだけは頑張りたい」という目玉案件のようなものがあるのですが、それも着々と増えていて、今57個くらいまでになってきました。

 私は、デジタルサービスの開発にあたってはこの3つのレイヤーで考えています。

 1つ目はデジタルサービス局、つまり私の見ているチームがつくるプラットフォームです。全ての局が共通して使うような部品をつくりたいと思っています。そして、その部品の上で各局で目玉案件になるような取り組みをリーディングプロジェクトと呼んでいるのですが、これは各局とデジタルサービス局が一緒になってタッグを組んで、共同で取り組んでいるものです。

 そして、実は1番大事なのはこの1番上で、やはり各局がそれぞれデジタルサービス局が制定したガイドラインやプラットフォームの上で自分たちが自主独立して自走できるようにならないと、よいサービスがたくさん生まれないのです。こういった形で、プラットフォーム・伴走型・自主独立自走型と、この3つのレイヤーに分けてデジタルサービスをつくっていきたいと考えています。

「GovTech東京」構想で区市町村にも広がるDXの輪

宮坂氏 4番目として、この輪を今後、区市町村にも広げていこうという取り組みについて、少し触れたいと思います。2022年9月に「GovTech東京」という設立構想を発表しました。

 今までは、東京都のデジタル化をやるのがデジタルサービス局の仕事だったのですが、62区市町村のデジタル化もしっかりサポートして一緒にやってほしいという声が非常にたくさんくるようになりました。ですので、これから都庁の中だけでなくて東京都全体のデジタル化をやる団体をつくって、区市町村の人と一緒に全ての区市町村のデジタル化が成功するように伴走していく組織としてGovTech東京を新たに立ち上げると発表しました。

 設立に至った課題認識はいくつかありますが、まだまだ品質が低いし、何よりも区市町村のデジタル化を進めるには、今のままだと非常に大変だという区市町村もいくつかありますので、62区市町村のどの自治体も取り残さないようなデジタル化をするためにこういった団体をつくりました。

 大きくいうと、6つの機能を掲げています。このGovTech東京で6つの事業を成功させたいと考えています。

 その6つに共通していることは、「共同化」というキーワードです。例えば調達。今までは東京都庁としても採用し、そして区や市、町、村でもそれぞれ独自にものやソフトウエアを調達していたのですが、これをGovTech東京でまとめて調達して、ボリュームディスカウントでよりよいサービスを提供してもらう。ベンダーさんからすると、GovTech東京とだけ話をすれば、自社の優れたサービスを東京都全体に広げることができる。こういったwin-winの関係をつくりたいと思っています。

 もう1つは人材のところで、このGovTech東京で行政で働いてみたいという人材を一括採用して、区市町村に派遣したり、場合によっては人材紹介をしたり。こういった人材の共同採用と派遣の仕組みをつくりたいと思っています。

 そして、オープンデータの共同化です。オープンデータというのは市民の方が行政で今どんなことが起きているのかを数字で見る非常によい機会なのですが、これが62区市町村が今ばらばらにオープンデータ化を進めています。そうではなくて、「このデータに関しては62区市町村皆でデータを出しましょう」というのをきちんと決めて、カバレッジという言い方をするのですが、公開している不市町村の数をそろえていくということをこれからやっていきたいと思っています。

 また、政策イノベーションを起こす拠点でありたいと思っています。行政のちょっと外側につくりますので、民間の方も非常に敷居が低く入りやすいオフィス、オフィスも新しくつくりたいと思っています。スタートアップやシビックテックの方が日頃からふらっと来ていろいろな意見交換やブレスト、ワークショップ、セミナーなどを行い、行政の人間と一緒にディスカッションしながらよいサービスをつくるという、テックカルチャーと行政カルチャーのちょうど中間領域になるような組織にしたいと思っています。

変化に対応し、新しい都庁へと“脱皮”する

宮坂氏 最後に、DXの成功に向けた展望についてお話をしたいと思います。DXというのはD=デジタルという技術の話とX=トランスフォーメーション、変革という2つの言葉でできています。デジタルも大事なのですが、やはりXの方が難しいですよね。このXというのは、仕事のやり方や組織文化を変えていくという企業変革であり、どの組織の変革をする人も苦労している点だと思うのですが、ここをどうやり切るかというのが大事です。

 では、東京都のような巨大組織でどうやってXをやっていくのかということですが、私はよくこのイノベーションの普及曲線というのを頭の中にイメージしています。

 どんな巨大な組織も、最初に変革に賛同してくれる2.5%のイノベーターといわれる層がいます。次にアーリーアダプターといわれる、自分も参加しようかなという最初に応援してくれるサポーターの人がいて、それを超えるとアーリーマジョリティー。アーリーマジョリティーを超えると半数を超えてきますので、レイトマジョリティーの人たちも一気に変わってくる。一方で、ラガードというなかなか変わらない人もいる。こういうものです。

 これは商品のヒット商品が生まれてどういうふうに世の中に普及するのかというときによく使われる経営のチャートなのですが、組織変革も一緒だと思います。

 今、都庁はちょうどイノベーターのところは超えて、アーリーアダプターに入ったかどうかな、くらいのところかと思います。都庁は17万人くらいいるのですが、最初から10万人以上の人を変えると思うと非常に大変に思えますが、「まずは2.5%だけ変えていこう」というふうに、刻んで考えることが非常に大事だと思います。

 もう1つは複利を効かせるということが非常に大事で、始めたことを簡単にあきらめずに継続することがとても大事です。例えば、毎年デジタル化の度合いを2割ずつよくしていく。そうすると、たった2割の改善を10年続けると、始めた年よりも6倍以上よくなるんです。

 これは行政にとってとても大事な考え方だと思っていまして、行政はやはり事業の永続性が民間以上に非常に大事ですので、ひょっとしたら改善の度合いは2割もなく2%とか、10%かもしれませんが、とにかく、コツコツと続けていく。そして必ず、ほんの少しでもよいから去年よりも今年進歩させると。それを長く続けることによって、巨大な変化を生み出せると思っています。

 DXという言い方が最近よくされますが、もう1つ、GXという言い方もよくしますよね。これは社会をゼロエミッションな社会、グリーンなサステナブルな社会に変えていくという取り組みですが、このDXとGXが合わさったものがSX、サステナブルトランスフォーメーションという言い方をする人もいらっしゃいます。

 このように世の中には「X」がたくさんあります。トランスフォーメーションの塊が世の中だと思いますが、トランスフォーメーションを起こすにあたっては、先ほど話した通り最初に応援してくれる仲間をしっかりつくって、それを一気に広げようと焦らずに、ちょっとずつ継続して変えていくことが大事だと思います。

 最後に、私自身がよく言い聞かせている言葉なのですが、ニーチェの言葉で「脱皮できない蛇は滅びる」という言葉があります。やはり新しい技術や新しいものの考え方というものを、いつも組織は受け入れないといけないと思います。都庁は今、デジタルという新しいテクノロジーや「持続可能な都市にどう変わっていくのか」といった新しい価値観に直面していて、それに向けて一生懸命脱皮しようとしています。

 この脱皮が1度成功すれば、どんな変化のタイミングがきても「あの時に脱皮できたからもう1回できる」という自信を組織が持つことができます。ですから、私としては、このデジタルの脱皮というものを成功させたい。デジタルの脱皮が成功しても、その後10年後、20年後に定期的にまた脱皮に直面すると思うのですが、1度脱皮できた蛇は何度も何度も脱皮することに慣れていきますので、永続性が持てると思っています。

 この「脱皮できない蛇は滅びる」という言葉を、最後に変革をする皆さんに贈りたい言葉であると思い、締めくくりに使わせていただきました。ありがとうございました。