イオンフィナンシャルサービスは、小売り大手のイオン傘下の総合金融企業だ。リテールフルバンキングサービスを提供するイオン銀行や、カード事業を手掛けるイオンクレジットサービス、海外子会社などをまとめる事業持ち株会社でもある。イオンは大型モールからコンビニまで多様な規模で展開する小売事業を基盤に「イオン生活圏」の構築を目指し、イオンフィナンシャルサービスは「それを金融サービス面からつなぐインフラ作りの役目を果たす」(同社の2021年2月期決算資料)位置付けだ。キャッシュレス決済を中心に顧客の要望を全て満たそうとしてきたイオンフィナンシャルサービスのDXの歴史をひもとく。

顧客起点で始まったカード事業のために創設された

 イオンフィナンシャルサービスが手掛けるキャッシュレス決済は多様だ。クレジットカードやデビットカード、電子マネーWAONの他、イオンマークの付いたクレジットカードやデビットカードでのサービス(AEON Pay、モバイルWAON、ポイント払いなど)があり、スマホ上で利用できる。スマホアプリとしては「iAEON」と「イオンウォレット」があり、iAEONではイオンマークの付いたクレジットカードやデビットカードでのAEON Pay、モバイルWAON、ポイント払いなどのサービスを、イオンウォレットではAEON Payを利用できる。

増田 俊之/イオンフィナンシャルサービス 上席執行役員 グループオペレーション企画本部長

新卒で三和銀行(現三菱UFJ銀行)に入社。法人営業、リテールビジネスにおけるマーケティングに従事後、2003年にGEコンシューマー・ファイナンス(現新生フィナンシャル)に入社。個品割賦・クレジットカード事業のマーケティング、リスクマネジメントに従事後、レイクブランドの消費者金融事業でのマーケティング担当役員、システム担当役員を歴任。2022年にイオンフィナンシャルサービスに入社し、同年5月より現職。

 このいずれもイオンの小売りの顧客網を背景としている。例えば、イオン銀行はイオンのショッピングモールやショッピングセンターに店舗やATMを、またATMはミニストップの店内にも設置している。他のアプリやカードもイオンの小売店での支払いがサービスの基盤となっている。しかし、「イオンの顧客ビックデータを活用して発展してきたのですか?」と問うと、イオンフィナンシャルサービスの杉田哲郎・グループ経営企画部長は、「そういう経緯ではありませんでした」と答える。

 ことは1980年、イオンフィナンシャルサービスの創立にさかのぼる。イオンは1980年に当時の小売店ジャスコ(現イオン)の顧客向けハウスカードである「ジャスコカード」を発行した。きっかけは、「当時は一括払いが主流だったが、店舗で家電などを扱い始め、お客さまから分割払いの要望が出てきた」(杉田氏)ためだった。ちょうど世間でもクレジットカードが普及し始めた頃だ。このカード事業を展開するために創設されたのがイオンフィナンシャルサービスだった。

杉田 哲郎/イオンフィナンシャルサービス グループ経営企画部長

2003年に新卒でイオンクレジットサービスに入社後、現場での債権管理、営業を経て、社長室IR推進課へ。イオンフィナンシャルサービス誕生とともに出向し、引き続き投資家・アナリスト対応に従事し、2015年にIR室長。2018年にイオンへ出向し、副社長、相談役の秘書業務を経験。2021年にイオンフィナンシャルサービスに復帰し、同年9月より現職。

 イオンフィナンシャルサービスはその後も事業の多角化を進めるが、創立時のいきさつもあり、背景にあったのはやはり顧客起点の視点だったという。

 イオン銀行は「『わざわざ街中のATMに出て行って、買い物のためのお金を引き出すのが面倒だ』というお客さまの声を受けて始めた」(杉田氏)。電子マネーも「『現金を持ち歩くことなく買い物をしたい』という顧客のニーズがあった」(イオンフィナンシャルサービスの増田俊之・上席執行役員 グループオペレーション企画本部長)からという。

 高額・少額、先払い(チャージ)、即時払い、後払い・・・多様な支払方法を提示する理由について、増田氏は「お客さま、つまり生活者の視点で必要な品揃えをするのがわれわれなんです」と笑う。

多様な支払方法を提示する理由について、増田氏は「お客さま、つまり生活者の視点で必要な品揃えをするのがわれわれなんです」