阪急阪神東宝グループの中で、百貨店などを始めとした流通事業を担うエイチ・ツー・オー リテイリング。同社ではDX推進に向け、デジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタル化)と、それらを活用したデジタライゼーション(ビジネスプロセス変革)を鋭意進行中だ。同社が目指す継続的で深いコミュニケーションを通じて、一人一人の顧客にふさわしい価値・商品・サービスを提供する「コミュニケーションリテイラー」について、執行役員 IT・デジタル推進室長の小山徹氏が語る。

※本コンテンツは、2022年9月26日に開催されたJBpress主催「第9回リテールDXフォーラム~小売業に求められる『攻め』と『守り』のDX」の特別講演3「コミュニケーションリテイラーに向けたグループ経営基盤のデジタル化」の内容を採録したものです。

「コミュニケーションリテイラー」を目指す「長期事業構想2030」

 エイチ・ツー・オー リテイリング株式会社は、阪急阪神東宝グループにおいて、百貨店事業、スーパーを中心とした食品事業、商業施設事業を担い、関西圏を中心に地域の人々の生活に貢献する「生活総合産業グループ」だ。同社の執行役員IT・デジタル推進室長である小山徹氏は、日本アイ・ビー・エム、ファイザーを経てPwCで流通業界を中心にコンサルティング経験を積み、2021年4月より現職にある。グループCIO/CDOを兼務し、グループ全体のデジタル変革を強力に推進してきたことは、着任後1年で、同社が経済産業省の認定する「DX認定事業者」に選定されたことからも分かる。

 小山氏がまず示すのは、2021年7月に同社が発表した3カ年の中期経営計画にある、2030年に向けた長期事業構想だ。

「現在の関西圏での百貨店・食品・商業施設の事業を磨き上げながら、新市場として中国の寧波阪急を中心とした展開。また新事業モデルへの挑戦として、関西エリアとオンラインを軸にサービス事業化し、さらにはBtoBへと展開していきます」

 数値目標としては、関西圏で1000万人のアクティブな顧客獲得、営業利益総額300~350億円、また顧客サービス事業としては30億円の市場創出を目指す。「いわばデジタイゼーション、デジタライゼーション、デジタルトランスフォーメーション(DX)をいっぺんにやってしまおうという構想です」と小山氏は語る。

 同社の大きな強みは、これまで積み重ねてきた顧客や地域との強いつながりと信頼だ。新事業モデルである顧客サービス事業では、この顧客基盤をプラットフォームとして、1000万人の生活者と深いコミュニケーションを取りながら、地域生活に密着したサービスを提供する「コミュニケーションリテイラー」を目指す。

 一方、IT・デジタル化の側面からは、グループ顧客データ基盤の構築、グループEC/OMO基盤の構築、既存のプラットフォームを強化してのOMO試行に取り組む。これらはいわばデジタライゼーション、DXにあたる部分であり、中期経営計画では「A領域」と定義されている。

 同時に、先送りにしてきた業務改革を「B領域」として、デジタイゼーションを加速させる。さらに、これまで投資してこなかったがゆえに内包するシステムリスク・課題対応として「C領域」がある。各事業のシステム基盤の整備、グループでの共通化がこれにあたる。

縦割りの事業に横ぐしを通し、全てを刷新するデジタル化施策を実施

 同社のデジタル施策について、小山氏は「お客さま向け、社員向け、またその裏側のインフラ、全てにおいて新しい環境へ刷新していかなければなりません」と語る。下図はコミュニケーションリテイラーに向けてのA、B、C領域ごとの施策と、目指すIT基盤の実現イメージだ。アプリ、データ、インフラ、そして店舗や社外も含めたワーク環境まで、全てに対して最適なIT基盤を実現することを目指して、IT・デジタル推進室がイニシアチブを取りながらプロジェクト化を進めている。

 例えばA領域では、これまで各事業で別個にアプリをつくり、データを保持していたものを、既存事業のプラットフォームを生かして OMO化アプリを試行しながら、グループ共通のEC・OMO基盤、顧客データベースをつくる。百貨店、スーパーなど既存の縦割りの事業に、横ぐしを通していくイメージだ。ただし基盤は共通化しても、あくまで顧客を中心に、百貨店やスーパーの利用の仕方など、個別の要望に対応できるよう設計するという。

 B領域では、働き方・業務の電子化に向けて、ネットワーク・セキュリティ等のインフラを含むワーク環境の構築と、BPR/クラウド型サービス導入による生産性向上を推進する。例えば、2022年には本社を自社ビルからオフィスビルに移転し、オフィス面積を30%削減した。同時にフリーアドレスの導入と、リモートワーク促進を実施している。またネットワーク・セキュリティ面では、ゼロトラストを採用。さらに、データセンターを脱却し、オンプレミスのシステムをクラウド型サービスに置き換えていく。情報提供基盤を活用してPCだけでなく、スマートフォンで業務遂行できる環境を整え、ペーパーレス化も進めるといった具合だ。

「これまで事務所中心、紙やハンコ中心だったところから、デジタルを使って、どこでも何でもできる環境にしていきます。さまざまな共有化、共通化が必要であり、それがシステムだけではない、業務の標準化につながっていきます」