BMWはオリバー・ティプセ会長が基調講演に登壇、エンテーテインメント性とクリエイティビティに溢れるプレゼンテーションを行い、新たな試作車を紹介した(出所:CES.tech)

(朝岡 崇史:ディライトデザイン代表取締役、法政大学大学院客員教授)

 前回に続き、米国ラスベガスで開催された最先端テックイベント「CES 2023」の現地レポートをお届けする。

 CASE(注1)の時代、クルマは「スマートフォン化」すると言われ出して久しい。スマートフォンは通信を使ってOSやアプリをアップデートする。ユーザー個人の好みでカスタマイズも可能だ。クルマの近未来もスマートフォンのようにソフトウェアファーストになると予想されている。

(注1)自動車産業の今後の動向を示すキーワード。Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(カーシェアリングとサービス)、Electric(電気自動車)の頭文字を繋げた造語。

 昨年(2022年)、世界で約131万台ものEVを販売したテスラを例に取ってみてみよう。テスラは、FSD(フルセルフドライビング)という自動運転ソフトウェア、操作系をつかさどる各種ソフトウェア、エンタテインメントや高精度地図などを定期的にWiFi経由で受信し、ダッシュボード上のタッチスクリーンを操作して簡単に実行できる。さらに新たな機能を追加したり、現在の機能を強化したりする「ワイヤレスアップデート」という仕組みもある。テスラは言うなれば「走るスマートフォン」なのだ。

 多くの企業がサステナビリティ戦略上の1つのマイルストーンと位置付ける2025年。この期限が間近に迫った「CES 2023」では、自動車メーカー各社が2025年めがけて現実の市場導入を見据えたEVの試作車(プロトタイプ)を投入したことで大いに注目された。

 実際にCES 2023会場に足を運び、各社の記者会見、基調講演や展示ブースをつぶさにチェックしてみると、サステナビリティ時代のクルマづくりは、デザインの領域(エクステリア・インテリア)や新たなユーザーインターフェイス(UI)の提案を中核にした顧客体験(CX)デザインの領域にまで及ぶことが見えてきた。

 CES 2023レポート後編では、BMW、ステランティス、ソニー・ホンダモビリティの3社の動向を詳しく紹介していきたい。

BMW~クルマはユーザーにとっての「究極の相棒」

 BMWは一般開催日の前日の1月4日の夜、ラスベガス中心部から西側に少し離れたパームホテルのパールシアターを借り切って豪華な基調講演を行った。2019年夏以来、BMWの経営トップとしてサステナビリティ戦略とデジタル化を強力に推進しているオリバー・ティプセ会長(以下、ティプセ会長)は、これからのクルマづくりは 「ELECTRIC」「CIRCULAR」「DIGITAL」の3つの要素が重要になると述べた上で、BMWは個別のハードやソフトという機能レベルではなく、トータルなユーザーエクスペリエンスのレベルで解決を目指す、ときっぱりと宣言した。

 そして2025年に登場する「ノイエ・クラッセ」(新しいクラス:BMWでは中型スポーツセダンを表現する言葉)へと続く、重要なマイルストーンとなる次世代モデル(おそらくは次期BMW 3シリーズ)として、「究極の相棒(The Ultimate Companion)」(注2)であり、ユーザーに寄り添うAIを搭載した「BMW i Vision Dee(ディー)」をお披露目した。

(注2)他でもなく、BMWが北米で使用しているブランドスローガン「The Ultimate Driving Machine」(究極のドライビングマシーン)に引っ掛けた表現である。

「『Dee』は『Digital emotional experience(デジタル・エモーショナル・エクスペリエンス)』を意味し、あなたの感性と対話しながら現実世界と仮想現実をつなぐ、デジタルの相棒(コンパニオン)としての役割を果たします」

「彼女(BMW i Vision Deeを指す)は、ハードウェアとソフトウェアを結びつけることによって何ができるかを体現したモデルです。デジタル化の可能性を最大限に引き出し、クルマを極めて知的で有能な相棒(コンパニオン)へと変身させることができます。バーチャルな体験と真のドライビングプレジャーの融合こそ、BMWをはじめとする自動車メーカーが目指す未来なのです」