佐川急便を中核に、物流とその周辺サービスを手掛けるSGホールディングスグループ(以下、SGHグループ)では、「成長戦略=DX戦略」と考えている。

 同社のDX戦略担当でもあり、SGシステムの社長を務める谷口友彦氏は、その理由をこう語る。

谷口 友彦/SGホールディングス 執行役員 DX戦略担当(SGシステム代表取締役社長、佐川急便取締役兼任)

2002年フューチャーシステムコンサルティング(現フューチャーアーキテクト)入社。16年にSGシステムの代表取締役社長に就任し、19年よりSGホールディングスの執行役員DX戦略担当、佐川急便の取締役を兼任。

「事業基盤となっている宅配便は3兆円市場だが、物流業界全体で捉えると24兆円市場にまで拡大する。DXを土台として、2030年度までに宅配便以外の3PLやグローバル、TMS(Transportation Management System。宅配便以外の付加価値を提供するソリューション)などビジネスを拡充して、トータルロジスティクスを提供したい」

 DX戦略の目的は、社会・顧客課題の解決を通じて持続可能な社会の実現に貢献することだ。

 目的達成のため、SGHグループでは「デジタル基盤の進化」「業務の効率化」「サービスの強化」の3施策に取り組んでいる。

SGホールディングスグループの成長戦略
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「2025年の崖」問題を早期に解決。社内でのアジャイル開発にこだわる

DXの推進体制
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 グループ全体の戦略を立てるのはSGホールディングス、戦略に則って企画を立てるのは佐川急便や各事業会社、実際のシステムを構築するのはSGシステムだ。各企業の得意領域を生かして役割を明確にすることで、デジタル基盤を進化させてきた。

 「2025年の崖」が叫ばれる以前から、SGHグループではシステム化に向き合ってきた。貨物追跡システム、宅配便の代金引換サービスの支払方法を現金以外にカード決済も可能とした「e-コレクト」など、SGシステムはその都度、適切なパートナーにシステム開発を依頼してサービスを強化してきた。
経済産業省の提言。既存システムが事業部門ごとに構築されることでデータ利活用が進まない、業務全体の見直しができない、IT人材不足など諸々の問題が発生し、最大12兆円/年の経済損失が生じるとされている。

 だが、さまざまなアーキテクチャが乱立することで、ベンダーロックイン(他社のシステム等への乗り換えが困難になること)に陥り、ITコストの高止まりが経営課題に。そこで、2005年からそれまで活用していたメインフレーム(大型汎用機)上で稼働していた基幹システムを、オープン系の共通プラットフォームに作り変えた。同時期に若手社員中心にJavaを学ばせることで開発・保守・運用の内製化を実現し、2018年から顧客の要望を早期に反映できるアジャイル開発をスタート。ITコストは激減し、大型投資の余力も生まれた。

「現場に入り込み課題を吸い上げて、本当に必要な機能を作れることが私たちの強み。外部委託では実用性のミスマッチやコミュニケーションの齟齬が生じるが、私たちはSGHグループ内で完結する。現場からの感謝の声が直接届くので、エンジニアの仕事のモチベーションも高い。数億円規模の新しい開発ができる環境に魅力を感じて、現在は約1000人のIT人材が働いている」

SGHグループでの荷物取扱数量と単価、営業利益の推移
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 内製化した機能の一つが「データのワンストップ化」だ。佐川急便の荷物はサイズ、重量、距離で値段が決まるが、日々変化する状況を考慮した荷物1個当たりの正確なコストは割り出せなかった。そこでグループ共通プラットフォームに集荷人件費、経由地、物流センターのキャパシティ、トラック積載率などのビッグデータを集約。それぞれのデータを分析して費用を可視化することに成功した。

「明確なデータを元に荷主と対話できることで適正運賃収受が可能となり、荷物単価は2013年の460円から2022年では646円に、営業利益率は約3倍まで拡大した。こうしたことを、2013年から他社に先駆けて愚直に取り組んできた」