一般にネット銀行とは、店舗を持たず、金融サービスをネット上だけで提供する銀行を指す。GMOあおぞらネット銀行の事業内容は、それら通常のネット銀行サービスに加え、独自の特徴的なサービスを複数提供している。その一つが銀行の機能を部品として事業会社に提供する「かんたん組込型金融サービス」だ。このサービスを推し進める、同社代表取締役会長の金子岳人氏に、金融サービスDXの将来を聞いた。(インタビュー・構成/指田昌夫)

<編集部からのお知らせ>
本記事でインタビューした金子岳人氏も登壇するオンラインイベント「第4回金融DXフォーラム特別編集版」を、2023年2月24日(金)、27日(月)に開催します!
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金子氏による「これまでの常識を覆す組込型金融」と題した講演のほか、みずほフィナンシャルグループ梅宮 真氏の「〈みずほ〉が目指すDXについて」、めぶきフィナンシャルグループ小野 利彦氏の「めぶきフィナンシャルグループのDX戦略と具体的な取り組み」など、金融業ならではのDXの進め方について学べるオンラインセミナー「第4回 金融DXフォーラム特別編集版」(参加登録受付中)

既存の銀行サービスをITで突破する

――GMOあおぞらネット銀行は主に、法人向けの銀行サービスを提供されています。既存の企業向け金融サービスには、どんな課題があったのでしょうか。

金子岳人氏(以下敬称略) 事業会社さまからの組込型金融に対する要望には、2種類あると考えています。一つは、完全なオンラインサービスのニーズです。個人向けのサービスではかなり進んでいますが、法人向けでは、まだまだドキュメンテーションが必要なサービスが多く残っています。法人のお客さまは、手続きのために銀行に行く時間がなかったり、店舗のUI、UXにもいい印象を持っていなかったりします。

 当社は、口座開設をはじめ、銀行の取引に関わる各種サービスをオンラインで完結しています。はんこも、紙も、郵送物も要りません。これはある意味、これからの銀行サービスが持つべき大前提の機能だと思います。

GMOあおぞらネット銀行代表取締役会長 金子岳人氏1986年日本アイ・ビー・エム入社。2010年米国IBMでバイスプレジデントとして金融システム事業などを担当。2011年日本アイ・ビー・エム専務執行役員に就任。2017年より現職。GMOインターネットグループ執行役員も兼務する。
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■好きな言葉:“Never up, never in”(ゴルフの格言で、「カップに届かなければ、ボールは絶対に入らない」の意味)
■注目する経営者:LayerXの福島良典社長。DXの先駆者で、日本の金融DXの遅れが日本全体のDXを遅らせているという問題意識を強く持っておられることに共感する。テクノロジーに対する真摯な経営姿勢は学ぶことが多い
■ビジネス面のバイブル:『働き方』『生き方』(稲盛和夫著)
■最近読んで感銘を受けた本:『ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由』(岩田松雄著)
■人生の愛読書:『Three Cups of Tea』(Greg Mortenson著)

 もう1つは、これまでの銀行サービスは、プロダクトアウトの発想で提供されているということです。これをマーケットインに変えなければいけません。銀行がこれは良いと思って提供するサービスと、事業者さまが銀行のサービスをどう活用し連携したいとお考えなのか、その間には、大きなギャップがあります。

 これまでの銀行機能と連携したサービスは、事業者さまのサービスを使っていて、決済シーン等の銀行サービスの時だけ「○○銀行」の画面に変わってしまうことがよくありました。導線はオンラインですが、ただつないだだけなのでUI、UXに断絶が生まれて、サービスのご利用者は興ざめしてしまいます。そうならないように、事業者のサービスの中に深く入り込んだITソリューションを提供することが、これからの法人向けサービスには求められています。

 もちろん、銀行のサービスは、たとえ銀行の存在が見えなくても、安全が完全に担保されなければいけません。その上で、ユーザーは、Fintech企業さまが提供するサービスとしてより高い利便性を求める動きが強くなっています。

 このニーズは、今後、加速度的に増えると考えられます。銀行の形にこだわっていてはいけません。ITの力を使い、組込型金融を活用した新しい形で銀行のサービスを提供していくのが、当社の目指す姿です。

「銀行」機能は部品として、企業のサービスに組み込まれる

――事業者に対して銀行APIを提供し、「黒子の銀行」として、組込型金融サービスに注力する方針を打ち出しています。事業者は、銀行機能のどんなサービスを組み込みたいと思っているのでしょうか

金子 最も多いのは、やはり資金移動やそれに関連する機能です。これはイメージしやすいと思いますが、入金確認や現金支払の自動化など口座の情報照会や振込機能の活用になります。続いてニーズが高いのが、ユーザーの認証機能です。銀行が持っている認証機能を使って、ユーザーの本人確認をしたいというお声は多くあります。他に、当社が持っているデビットカードの機能を、自社ブランドのカードとして使いたいというニーズも増えています。

 また、「預金」の機能を使いたいという事業者さまも増えています。規制業種である銀行の機能として預金がありますが、この機能を活用したいという事業者さまもいらっしゃいます。例えば、「銀証連携」として、証券会社が顧客の資金をいったん預金に入れておき、金利を付け、市況がよくなれば証券口座に移動して取引するようなケースです。

 金融業以外でも、預金口座を活用するニーズは増えてきております。海外では、自社のサービスに預金口座を付け、それに高い金利を付けることで、集客マシンとして自社サービスの利用促進を図るケースが出てきています。このケースでは、もはや銀行機能は販促のツールであり、金利はマーケティングコストだと位置付けられます。

 日本でもそうした動きは出てくると思っています。例えば、ネットショップの会社が、顧客専用の預金口座を作り、購買履歴に応じて金利を増やすサービスなども考えられます。

 むしろ、既存の銀行は、金利は本業の部分なので、こういうサービスを提供し難いのですが、事業会社であれば、マーケティングコストと割り切れば思い切ったことができます。当社は、コンサルティングチームや銀行エンジニアが直接事業会社さまの目線で銀行機能を提案することができ、そこが強みであると思います。

――預金以外ではどんな機能を使ったサービスがあるのでしょうか。

金子 銀行の与信機能と振込や入金確認のAPIなどを組み合わせて使われているサービスがあります。既に実施している例では、「ふるさと納税」のお礼の品を取り扱う事業者さまへ、お礼の品が寄付者に届くと同時に代金を支払う『自動スグ払いサービス「ARLY(アーリー)」』などがそうです。通常2~3カ月後の返礼品代金の入金だったところを、着荷と同時に自動で支払いを行うため、返礼品事業者のスムーズな資金繰りに貢献しています。他にも、後払いサービスなどでも似た仕組みで利用されています。

 与信は、これまでは顧客属性や保有資産などで判断されていました。これからは、例えば電気料金の支払い傾向から年収を推定できるようになるかもしれません。事業会社が銀行機能を取り込むことで、顧客の「行動」や「SNSの書き込み」などのデータを使った審査モデルを考案し、新しいビジネスを立ち上げるといったことが出てくるかもしれません。

スタートアップに支持される銀行を目指す

――組込型金融の拡大を目指す一方で、GMOあおぞらネット銀行は「スタートアップ向け銀行No.1」を目指すと宣言されています。スタートアップに注目するのはなぜですか。

金子 当社は、銀行のネット化を目指しているのではなく、ネット企業として銀行サービスを提供することを軸に据えています。そのため、従来の銀行が未開拓のお客さまに新たな金融サービスを提案することを常に考えています。

 従来の銀行は、主として事業の実績が長く信用度の高い顧客を相手に取引をしてきました。従来の銀行の視点では、スタートアップは、リスクが高く、人件費をつぎ込んでいては採算が合わなかった先の一つです。

 しかし、ITを駆使すれば、人手をかけずにサービスを提供することが可能で、しっかりデータを分析して与信を付与することで、スタートアップと積極的にお取り組みできると、当社は判断しています。

 もう1つは、当社が渋谷で事業を開始したネット銀行だったため、多くのネット企業さまから共感をいただき、お客さまになっていただけたことも大きかったと思います。

 今、日本で新規に法人登録している企業の数は月に1万社ほどで、この勢いはコロナ禍でも変わっていません。今後も法人に特化したサービスの開発・提供に力を入れていきます。

 また、スタートアップに限らず、フリーランス、ダイバーシティ、外国人といった、日本の今後の成長にとって重要なセグメントがあります。そこにもITの力と当社のユニークネスを発揮して踏み込んでいきたいと考えています。

技術という「刀の柄を握っておく」

――技術力を重視し、内製化に力を入れています。その理由は何でしょうか。

金子 銀行サービスを提供する際に、出来上がったサービスの機能そのものは、誰が作っても大きく差が出るものではないと思っています。

 では、事業者さまが組むパートナーとして、何が選択肢になるかといいますと、2つのポイントがあると考えています。1つは低コストです。事業者さま側からすれば、サービスを組み込んでも、そのコストが高ければ採算に合いません。可能な限り安く運営できることが、良いサービスといえます。

 もう1つは、技術を自分たちで掌握していることです。当社が属するGMOインターネットグループでは「刀の柄を握る」と言っています。この2つのポイントを勘案すると、システムの内製化に結び付くのです。

 ITに関しても金融機関として、守らなければいけないルールがあります。それを知った上で、同じチームで開発ができるということも内製化のメリットだと思います。守りと攻めのバランスを自分たちでコントロールして、企画から開発、サポートまでの一体意識をそろえることで、より良いサービスを安い料金でいち早く提供ができるのです。外注で開発していては、そうはいきません。

 外注を主としている大手銀行と比べて、当社のエンジニアはスキルレベルが高いのかというと、それは分かりません。しかし、オーナーシップという点では、はるかに高いと思います。自分たちで考えたものを、自分たちの手で作り上げ、結果が分かるのですから、モチベーションと責任の大きさは、大きな違いがあります。

 経営者としては、そうしたエンジニアが伸び伸びと働ける環境を提供しなければいけないと考えています。制度面では、例えば、自分の業務と関係ない分野でも、アイデアはいつでも出して良いことにしています。また、グループ内の他社の幹部とも意見交換できる場を設けるなど、情報入手窓口を増やして成長できる機会を作るようにしています。

 大手銀行では業務が細分化されており、管理もいわゆるマイクロマネジメントになっていくのは仕方ないと思います。対して当社では、経営の目標に対して、各社員がどういう役割で貢献しているのかを可視化しており、日々の業務の意味を把握することができるようになっています。

 実際、私も現場に顔を出していると、社員から「なぜこれをやらないのですか」などと詰め寄られることもあります。それだけフラットな組織になっているのかなと思っています。

――御社のAPIを事業会社が試すことができる環境も提供していますが、利用状況はいかがですか。

金子 2つのサービスを開放していますが、どちらも非常に好評です。まず当社の銀行APIを体験できる「sunabar(スナバー)-GMOあおぞらネット銀行API実験場」では、当社の口座をお持ちであれば無料でご利用いただけます。事業会社さまが銀行サービスを検討する際に、プロトタイプを作ってビジネス可否を検討されたり、事業者さまのお客さまに提案されたりしています。実際に触れることで確度が高くなることから、sunabarをお試しになった企業の約4割が、実際に当社とAPIの接続契約をされています。

 もう1つのサービスが、企業が組込型金融を始めるときに必要な機能を取りそろえたり、自らも出品したりできる、マーケットプレイスの「ichibar(イチバー)」です。当社のAPIの他に、20社近くのパートナー企業が参加しています。

――今後、事業をどう成長させたいですか。

金子 金融サービスは、全ての事業会社さまにとって不可欠な機能です。当社は組込型金融サービスを中心に、テックファーストな銀行として、企業の皆さまが抱える課題の解決や、新しいサービスの創造を今後もさらに広くサポートしていきたいと思います。

 また、当社自身がまだ創業5年目の若い企業ですので、同じようなスタートアップの企業の皆さまと共に成長していければと考えています。

「第4回金融DXフォーラム特別編集版」の講演では、金子氏が、同社の取り組みについて、より詳細・具体的に語ります。

 2月24日(金)、27日(月)に開催される「第4回 金融DXフォーラム特別編集版」金子氏の特別講演では「これまでの常識を覆す組込型金融~金融接点の創出によって生まれる新たなサービスとその可能性~」と題し、組込型金融サービスの詳細や同社の取り組みを紹介する。

 「金融DXフォーラム」ではこの他、損害保険ジャパンの酒井香世子取締役、アフラック生命保険の二見通取締役、みずほフィナンシャルグループの梅宮真副社長などの講演が予定されている。

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