トヨタ自動車 TPS本部 本部長 尾上 恭吾氏

 ムダを徹底的になくし、生産性を上げる「TPS(トヨタ生産方式)」。これまで長らく製造現場で行われてきたTPSを同社は事務職や技術職など、製造業以外に広げるチャレンジをしている。なぜこのような取り組みを始めたのか。そして、工場の外でもその哲学は通用するのか。トヨタ自動車 TPS本部 本部長の尾上恭吾氏が語る。

※当記事は「DX時代にもブレない『トヨタ生産方式』の“知恵”優先活用主義――売上増が難しい時代だからこそ、改めてその手法に学ぶを知る」 の後編です。

工場外の仕事でムダをなくすために、まず着目した「流れ」

 「TPSはトヨタの根幹をなす考え方だが、製造現場以外には浸透していないのではないか」そんな疑問から、同社は「事技系職場」の人材にTPSの教育状況を調査した。

 事技系職場とは、事務職の「事」と技術職の「技」を合わせたもので、事務職やソフトウエア開発などの非生産現場を指す。

「調査の結果、全社の約70%を占める事技系職場の人材1万8000人は、TPS教育をあまり受けていないことが判明しました。そこで社長の豊田章男と相談し、製造現場の外にもこの考えを広めようと、事技系TPS改善活動がスタートしたのです」

 活動の立ち上げ段階では、まず豊田社長自ら講演を行ってTPSとは何か、なぜ必要なのかを話した。その中で「TPSとは生産性を上げるのを最初の目的にするわけじゃない。誰かの仕事を楽にしたら、その結果として生産性が上がってくるんだ」と伝えたという。

 とはいえ、製造現場で行われてきたTPSは、工場の外でも通用するのだろうか。尾上氏は「確かに事務職場ではリアルな物が流れていないため、最初は分かりにくい点もあります」という。同社では、このようにアプローチしている。

「TPSでは、物と情報の“流れ”を大切にしています。まずは、自分の担当作業の前後工程を書き出し、全ての仕事がどうつながっているかを見える化するのが重要です。例えば工場では『こういう部品を作ってほしい』と後工程から情報が来て、それに合わせた物を作り、流していきます。仕事を工程ととらえると、このような『物と情報のチェーン』は事技系の部門にもあるはずです」

 自分の仕事を中心にして、前工程はどんな仕事をしているか、後工程は何をしているか、それらを全て書き出し、つなげる。こうすることで、さまざまな部署がプロセスに関わる中で「実はこの部署とこの部署が同じ作業をしている」「ここでやり直し作業が行われている」「次の工程に行く前で情報の滞留が起こっている」などのムダが見えてくるという。それをなくしていけば、事技系でもTPSによる改善を進められるのだ。