かつて日本の強さの源泉となっていた「最適化」をはじめとする判断基準や戦略が、現在ではかえって、組織における未来への可能性を狭めているのではないか。そう話してくれたのはレッドジャーニー代表取締役の市谷聡啓氏だ。仮説検証やアジャイルについて造詣の深い同氏に、現在の日本企業の組織が抱える課題とそれを突破するために着手すべきこと、そして組織にアジャイルを宿す(実装する)具体的な方法論を聞いた。

※本コンテンツは、2022年9月29日(木)に開催されたJBpress/JDIR主催「第14回DXフォーラム」の基調講演「組織を芯からアジャイルにする〜今、組織が宿すべき探索と適応のすべとは〜」の内容を採録したものです。

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DX活動を通じて最適化一辺倒路線を断ち切る

 アジャイル開発や組織アジャイルを専門とするレッドジャーニーの代表取締役である市谷聡啓氏は、さまざまな企業へのDX支援活動を通じて、「多くの日本企業に共通する組織課題」が見えてきたと話す。それは「どの企業であっても、一様に『効率性』や『最適化』を判断基準にしていたり、組織構造に反映したりする傾向があること」だという。

 かつて、1980年代に日本の強さの源泉となっていたのは「効率性の重視」だ。組織活動における効率化を突き詰めていくこと、つまり効率性の最適化が、当時の日本企業のよりどころであったことは間違いない。

「仕事を進める上で効率を追い求めることはとても大事です。しかし、それ一辺倒になっている現状が、日本の組織の足かせになっているとも感じます。効率性の最適化を突き詰めていけば、仕事を進めていく上で判断に迷わなくなるでしょう。しかし、融通が利かなくなっているともいえます。『効率性の最適化』の行き過ぎは、単なる思考停止にほかならないのではないでしょうか」

 昨今、組織を取り巻く環境は目まぐるしく変化し続けている。業界の中で強いソリューションだとされていたものが、業界の外からやってきた勢力によって、ディスラプトされるといったことも珍しい話ではない。

 しかし、組織の活動を効率的にしていこうという力は、今もなお、あらゆるところで生じている。つまり、市谷氏は「環境と組織のフィット感が失われている」現状に警鐘を鳴らしているのだ。

「今、日本中でさまざまな企業が推進しているDX活動は、最適化一辺倒な路線を断ち切るきっかけになると考えます。DXとは顧客や社会に提供する製品やサービス自体を変えていこうという取り組みを指しますが、狙いはそれだけではありません。環境に適したものを提供し続けられる組織体制を新たにつくっていくためのものでもあります」

 さらに市谷氏は「たとえ歴史の浅い企業であっても、最適化の力学一辺倒になりがち」だと続ける。なぜなら、事業やビジネスがうまく継続する状態をつくれているということは、すなわち最適化が始まっているとも言い換えられるからだ。

 どうやら、最適化の勢いは特定の企業だけではなく、事業がうまくいっている企業であればそこかしこで起きうるものだと考えた方がよいかもしれない。同時に、あらゆる事象を効率化で判断するのではなく、必要に応じて、他の判断基準や選択肢で物事を判断できるかどうかが、理想の組織づくりには必須だと言えるだろう。