人口減少への対応として、小型ホームセンターとコンビニエンスストアの機能を持ち合わせた「ホームコンビニ」は生まれた

 人口減少や過疎化が進む「課題先進地」の北海道。小売りビジネスにとっては手をこまねいていれば顧客は自然と減っていく。だから、厳しい環境の中で育てられたノーザンリテーラーはマーケティングを重視し、顧客一人一人との関係を強めることで収益を確保する。ホームセンターのDCMホールディングスもその一つ。同社の源流の一つであるホーマックは釧路で生まれた企業だ。

「ホームコンビニ」はなぜ生まれた?

「小さなまちに大きな便利を届けます」――。DCMグループが過疎地でも生活者のニーズに応えようと展開するのが「DCMニコット」と名付けた業態だ。ホームセンターが得意とするペット・園芸や住居関連の商品を強化した売り場と、住居関連に野菜、肉、魚など生鮮品を含む食料品もそろえた売り場を併設。小型ホームセンターとコンビニエンスストアの機能を持ち合わせた「ホームコンビニ」というのがうたい文句で、全国に110店を超えるチェーンだ。

 ニコットは当初、1500㎡規模の中型店を人口7000人未満の地域に展開してきたが、2009年に食品の取り扱いを開始した。人口5000人未満のスーパーマーケットのない地域に、食品部門の品揃えを増やした1000㎡規模の小型店の出店を進めている。

 食品は全国の中小スーパーに商品供給する全日本食品(東京都足立区)から主に仕入れ、生鮮食品も小型のスーパーマーケット並みに取りそろえる。過疎地の自治体から出店要請が急増しており、「人口3000人でも出店できるフォーマットに成長してきた」(DCMホールディングスの石黒靖規社長)と手応えを感じている。

市場が縮む中、顧客生涯価値が重要になる

 長期的には少子化などで国内市場が縮むのは避けられない。いかにして1人の顧客との関係を深められるか。企業やブランドのマーケティングの力量が問われる。そこで注目されるのが顧客生涯価値(ライフタイムバリュー=LTV)だ。これを向上させる方法としては「顧客単価を上げる」「購買頻度を上げる」「継続期間を延ばす」の3つがある。いずれのアプローチも既存顧客(リピーター)とのコミュニケーションが鍵を握っている。

 ニコットは生鮮食品も品揃えすることで、来店頻度を高め、商圏人口が少ない過疎地でのライフラインとして存在感を持つ。4月にオープンした北海道上川町の「ホーマックニコット下川店」は約630㎡で、昨年閉店した商店跡を改装。「車で遠くに買い物に行けなかったので開店してよかった」70代の女性)と町民から灌漑されている。また、営業時間は午前9時~午後8時。1月1、2日を除き無休。岩手県大船渡市に9月オープンした「DCMニコット綾里店」では地域で要望の多い冷凍食品の品揃えを強化するほか、近隣地域に人気の釣り場があることから、釣り具の品揃えも強化している。

 大手コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーの名誉ディレクター、フレデリック・F・ライクヘルド氏が提唱した「1対5の法則」がある。新規で顧客を獲得するためには、既存顧客を維持するよりも5倍のコストがかかるというものだ。つまり、リピート購買してくれる既存顧客を維持し続けること、LTVを高めることに投資をした方が営業営効率を高めやすいという法則だ。特に市場が縮小する日本においては、新規顧客を獲得するよりも、既存顧客との関係を継続する方が重要度は高いはずだ。

 DCMホールディングスは北海道から九州まで全国に店舗展開する。2006年にカーマ、ダイキ、ホーマックが経営統合して設立した。2022年2月末のグループ店舗数は669店。全店舗数の4割以上を占める北海道、愛知県、愛媛県では、他社に先駆けた集中出店により、店舗数で2位以下の競合他社を圧倒し、強固な営業基盤を維持している。

 ただ、大型化が進むホームセンターは広域商圏型。人口減少が進む中、ある時点で特定の顧客に集中して、可能な限り幅広く関連する製品やサービスを提供し、生活課題の解決に参加し、生涯を通じた信頼と愛顧を獲得する「顧客シェア」を高めることは必須課題であり、その顧客が自社に与えてくれる収益(生涯価値)を最大化することが求められる。そのために業態開発したのがDCMニコットだ。

顧客との絆を太くすることで生涯顧客になってもらう

 顧客シェアを獲得するためには「マインドシェア」も大切なポイントになる。マインドシェアとは「消費者の意識の中でのブランドのシェア」であり、シェアを高めるためには生活者にとってなくてはならないブランドや店になることが欠かせない。商品やサービスはもちろん、「地域を守る」「よりよい商品を欲しいときに提供する」といった企業の姿勢を抜きにしては語れない。

 DCMホールディングスの石黒社長は「北海道はDCMの源流の一つであることは確か。ことさら強調することでもないと思っているが、北海道、東北で地元の企業だと思ってもらいたいし、中部や四国などさまざまな地域でも同じ。地元の企業であると思ってもらえることはわれわれにとってはありがたいこと。DCM発足から15年ほどがたち、そうした思いを強くしている」と語り、基盤となる「地域」があってこその小売業であると強調する。

 こうした努力の積み重ねを通じて顧客と心が触れ合い、絆が生まれる。そして、絆を太くすることによってリピーター、さらには生涯顧客となってもらえる。前提となるのが顧客の喜びをわが喜びとし、全社員が「どうすれば顧客に喜んでもらえるか」を念頭に置くことだ。この顧客の喜び、幸せを求める考え方や気持ちのこもった行動を続けることによって、顧客から評価され信頼へと結び付く。すると価格競争に巻き込まれることなく、独自の経営を展開できる。

 LTVは言い換えれば、自社の商品・サービスやブランドが、顧客に絶やすことなく価値を提供し、愛され続けていることを証明する端的な指標だ。DCMをはじめとしたノーザンリテーラーは人口が減少する北海道市場で、早くからこのことに気付いていたのだ。 

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